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5月10日、厚生労働省主催の「一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会」が行われた。この話は元々規制の無かった医薬品のネット販売に、厚生労働省が省令でリスクが高い医薬品(1類・2類)について対面販売の原則を打ち出したところに端を発する。

以前「薬のネット販売が再禁止されるらしい」でも書いたが、薬事法で定められていない対面販売を強制するのはおかしいと、ネット販売業者であるケンコーコムとウェルネットが省令の取り消し訴訟を起こし、最高裁まで争ったすえに勝訴が確定した。しかしそれでも話は終わらず、省令でダメなら法律で対面を義務付けようという動きもあり、そんな中で検討会が続けられていた。

■最高裁の判決を無視して続けられてきた検討会。
ゴールデンウィーク中、経済ニュース番組のワールドビジネスサテライトに出演したケンコーコム社長・後藤玄利氏は「最高裁判決で省令は無効と出た以上、検討会ではそれを踏まえて議論するのが当然だが、そうなっていない」と発言している。また同番組で後藤社長は「省令による禁止がダメというだけではなく、ネット販売を禁止すること自体が重大な憲法違反になりうる可能性があることも最高裁は示している。だからまずは憲法学者を呼んで判決を丁寧に読み解きましょうと提案したが、それも拒否された」と不満を漏らしている。

各社の報道によれば、5月10日の検討会で従来さほど論点となってこなかったテレビ電話の義務付けという話が唐突に出てきている。最高裁判決を受けて1類・2類の販売を全面的に認める方針をはじめて示した事は画期的ともいえるが、テレビ電話導入のほかネット販売業者も店舗を持つなど条件がついており、ネット販売業者は不要な条件をつけるべきではないと反発しているという。

■ネット販売は危険なのか?
以前の記事にも書いたが、ネット販売に対面販売以上の手間を要求するのは間違っている。店舗販売でも本人以外の代理購入が可能な以上、ネット販売でテレビ電話を無理に使わせる必然性は無いはずだ。

テレビ電話の強制を正当化するには店舗での販売時に、代理購入の禁止、そして身分証明書による本人確認の徹底を行う必要がある。対面販売でそこまでやらないのであれば、ネット販売でもテレビ電話の導入は必要ない。

ネット販売と対面販売の比較でポイントとなるのは、ネット販売に絶対的な安全性を求める事ではなく、ネットには対面と同等程度の安全性を求めるべき、という事だろう。現在検討会で反対派として発言を続ける日本チェーンストアドラッグ協会が求める基準はあまりに過剰だ。

2013年の2月27日に行われた医薬品のネット販売の検討会では、1類は「ネット販売を絶対に規制するべき理由」として二つの理由を挙げて反対し、指定2類についても「簡便なネット販売は禁止が妥当」と主張。そして2類・3類については、以下の内容を「ネット販売における安全性確保の最低条件」として挙げる。


条件1・ネット購入時(注文前)に、購入者と有資格者がTV電話(スカイプ)または電話にて直接口頭で会話ができる状態。
条件2・購入者が添付文書またはそれに代わる商品パッケージ(画面または紙媒体)を確認している状態。
条件3・添付文書をよく読み、適正な利用を行うよう注意喚起する。
条件4・「してはいけないこと」を口頭伝達し、「内容(リスク)の理解」について確認・同意を得る。
条件5・「相談すべきこと」への「疑問点・不明点」がないかを確認する。
条件6・(販売データと紐付ける形式で)情報提供・相談応需関連の上記応対を録音・管理。

ドラッグストア業界の一般用医薬品販売状況について[検討会資料] ・資料2


協会がどのような主張をしようとそれ自体は自由だが、これは対面販売の安全確認の水準を大きく超えるものであり、到底合理性があるとはいえない。

例えば情報提供した内容を録音して販売情報とセットで管理とあるが、対面でこのようなことは行っているお店は日本全国で一つも無いだろう。それともチェーンドラッグストア協会は今後店舗販売でもこれ位厳しく管理すべきという立場なのだろうか。繰り返すが店舗販売で代理購入を認め本人確認もしていない時点で、このような過剰なチェック体制をネット販売に求める根拠は無い。

■これ以上現場の人間を検討会に呼ぶ必要はない。
医薬品のネット販売を認めるかどうかについて、なぜここまで現場の声を繰り返し聞くのだろうか。もちろん、現場の声を確認する事は必要だろうが、現場の声は当然のことながらビジネスの利害関係に左右される。したがって店舗販売業者が反対派となり、ネット事業者が賛成派になるのは当たり前だ。

本来はヒヤリングすべき項目を過不足無くリストアップし、それに対して正確に回答を求めて、あとは利害関係の無い立場の識者と省庁、そして政治家が真面目に議論をする、必要なことはそれだけだ。今後ネット販売が安全かどうかについて、これ以上現場の声は不要だろう。ネット販売が安全か否かという議論を数年間にわたって現場の人間同士で行わせて来た状況は異常事態といっても良い。

過去の情報を調べて見ると、チェーンドラッグストア協会の会合では次のような話があったと報じられている(会長が交代した際の会合)。


(前会長の)寺西氏は、「インターネット販売問題は、われわれの存亡の危機だ」と強調。「これが容認される社会になったら、薬剤師も登録販売者も本来の活動ができなくなる」とし、こうした問題への対応も含め、関口新会長の取り組みに期待を寄せた。 
薬事日報 2011/7/11の記事より


ネット販売は患者の危機ではなく「我々の存亡の危機」だという。もちろん、様々な事を話した中の一部である事は承知の上だが、記事ではこの箇所を「強調」したとある。この会合を取材した記者はそのように感じたのだろう(自分達が強調したのは患者の安全性だというならこの記事は間違っている事になるので、協会は執筆者に抗議した方が良い)。

こういった話は既得権として批判される事もあるが個人的にはそういう話に興味は無い。店舗販売を主に行う団体がネット販売業者の台頭を危機と感じるのは当然だ。だからこそ現場の声はあくまで参考にとどめるべきで、こういった利害関係とは関係なく、既得権があろうとなかろうと、国は必要であれば規制をかけ、必要が無ければ規制を緩和すればいいだけの話だ。

■ネット販売の安全性は店舗と同程度は確保出来る。
これまでの審議会や検討会の動画や議事録を見た限り、ネットで売った事が原因による事故、つまりネット販売特有の問題により発生した事故は今のところ確認できていない。また今後もネット特有の問題が原因で事故が発生するという客観的な危険性も指摘されていない。これは過去の記録を見れば明らかだし、会議にたびたび参加してきたライフネット生命副社長・岩瀬氏もいかに根拠の無い主張を反対派が繰り返してきたか、半ば呆れ気味に「医薬品のネット規制を考える(2)」で報告をしている。 

アベノミクスの3本目の矢である成長戦略で、特に医療分野を重視する事は繰り返し総理も語っている。3月28に開かれた政府のIT戦略会議では、総理が医薬品のネット販売のあり方は検討課題である、と発言したという。時事通信の報道によれば具体的に見直しの方向性は示していないという事だが、山本一太IT政策担当相は会議後の記者会見で「わざわざ課題として取り上げたから、(全面解禁に)前向きに取り組む姿勢を示した」と発言した(時事通信2013/3/28より)。

これまでの議論を踏まえて、総理は「医薬品はネット販売の全面解禁を原則として、安全を確保するにはどうすればいいか、科学的根拠に基づいて議論するように」と具体的に指示を出すべきだろう。現場の声が改めて必要になるのはこの段階になってからだ。

経済政策に関する記事は以下も参考にされたい。
●アベノミクスは失敗している。
●女子大生でも分かる、3年間の育児休暇が最悪な結果をもたらす理由
●育児休業延長に振り回されそうな女子大生に贈ったアドバイス ~時短勤務と男性の働き方~
●池上彰さんが心配して、総理大臣が否定するハイパーインフレについて。
●サービス残業は日本の文化だ ~ブラック企業が生まれる下地~
●住宅購入に関する記事のまとめ。


なお、今回の問題で一番気になるのは、1類・2類の医薬品に関してネット販売に反対してきたチェーンドラッグトア協会だが、協会に属する企業のウェブサイトを見るとなんと2類のネット販売を行っている。これはどういう事か、次回に説明したい。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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著者プロフィール


中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー(FP)、シェアーズカフェ店長、シェアーズカフェ・オンライン編集長。「保険を売らないFP」。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。開業から10年間、一貫して対面相談とウェブで情報発信を行う。2014年、シェアーズカフェ株式会社に法人化。現在は日暮里駅近くに事務所を構える。

情報発信は東洋経済オンライン、ITmediaビジネスオンライン、プレジデントオンライン、JBプレス、日経DUAL等の経済誌で執筆する他、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等で執筆・出演・取材協力多数(めざましテレビ、報道2001、スッキリ他、メディア掲載・取材協力の詳細を参照)

著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」、「一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人(大和書房)」。住宅本はAmazon・楽天ブックスの住宅ローンランキングで最高1位、Amazon総合ランキングでは最高141位。

対面ではファミリー世帯向けにプライベートレッスン(相談)を提供。生命保険の販売を一切行わず、金融機関・不動産会社のセミナー・広告等の業務も全て断り、相談料だけを受け取るFP本来のスタイルで営業中。

プライベートレッスンでは独自のカリキュラムを顧客ごとに最適化、相談・アドバイスと組み合わせて高度なコンサルティングを提供。特に住宅購入の資金計画、ライフプラン全体のアドバイスを得意とする。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。

2013年にはマネー・ビジネス分野の士業や専門家が参加する自社メディア、シェアーズカフェ・オンラインを設立、編集長に。2014年よりYahoo!ニュースに配信中。他にも編集プロダクション、専門家向けの執筆指導(オンラインサロン)、社長専属の編集者などの業務も提供。FP事業とメディア事業を車の両輪としてシナジーを経営者として日々追求。

お金よりも料理が好きな79年生まれ。

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