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先日、住友生命保険が元本割れした学資保険について、損失の一部返還に応じたというニュースが報じられた。

■学資保険とは何か?
その名の通り、学資保険は将来の教育費に備えて加入する保険だ。払った保険料の大部分が戻ってくるので、終身保険などと同じく積み立て型とも呼ばれる。今回の報道では払った保険料が1.5倍以上になって戻ってくると説明されていたものが「元本割れ」してしまったという。現在一般的に売られているタイプとはかなり異なる内容だ。

各社の報道によれば、大阪高裁で有利な和解を勝ち取った男性は、長男・長女のために払い込んだ保険料から48万円も減った額しか受け取れなかったという。

現在売られている学資保険は、その多くが払った保険料より多く戻ってくる、という事になっている。生命保険的な機能として、親が亡くなった場合は保険料の支払いがそれ以降免除される。今回問題になった学資保険は、利率が経済情勢により変動するタイプだったようで、契約当初の利率が続けば1.5倍に増えるはずだったようだ。

しかし、長期にわたる金利低下が反映されて実際には予想を大きく下回る利回りとなってしまった。これが事前にしっかり説明されていれば、株と同じで自己責任になっていたはずだ。裁判で契約者にとって有利な和解が勧告されたというので、著しい説明不足や元本保証と誤認されるような説明があったのだろう。

■学資保険は必要なのか?
自分は日々の業務で、保険の加入や住宅購入の相談に多数載っている。お客様の中には子供が生まれたら学資保険、と思い込んでいる人は少なくない。学資保険の目的は将来の教育資金をためる事で、保険自体が目的ではない。目的が達成できるのであれば手段は何でも良いはずだ。では教育資金をためる手段として学資保険は最も優れたものなのだろうか? 全くそんな事は無い、といつも説明している。

学資保険について、一昔前に売られていたものは元本割れするものは珍しくなかったようだ。ただ、これについても払った保険料の一部が積み立てにまわり、一部が死亡時の保障等にまわる、だから保障に使われる部分が多ければ元本割れする可能性はある、という事になる。

現在売られている学資保険は戻り率が110%など、払った以上にお金が戻ってくると強調されている。実際には子供が生まれてから大学に入る時期まで20年近く払い続けて運用もするのだから、低利でもこれ位のリターンは十分達成できる。通常、保険は万が一にそなえるもので、確実に発生する教育資金の準備に保険が最適という事は考えにくい。教育資金の貯蓄で求められる機能は元本の保障性だ。しかし各種の運用方法の中でも、保険による積み立ては元本保証に決して向いていない。

保険会社は金利が上がれば国債の価格下落で大損をする状況だ。都市銀行や地銀と比べても長期国債の保有割合が極めて高いため、破たんリスクも銀行より高い。これは以前「お金は保険会社に預けるな」でも説明した。元本保証系の運用方法の中で少しでも利回りが良いものを……という事で多くの加入者は学資保険を選ぶのだろう。しかし、実際には銀行預金との差額は戻り率が110%でも決して大きく無い。リスクと引き換えに得られるリターンとして、学資保険は見合っているのかなんとも疑問だ。

■学資保険の幻想。
結局、学資保険がそれなりに市民権を得ている理由は以下の4つだ。

1.銀行預金とは別立てで強制貯蓄出来る。
2.親が亡くなった時に安心。
3.教育費の貯蓄といえば学資保険、という思い込み。
4.銀行よりは利回りが高いのでお得という思い込み。


1は「お金が貯められない病」にかかっている人の考えだ。将来の教育資金がどれ位かかるか、正確に把握出来ればちょっと貯まったから使おうとはとても思えないだろう。このビョーキへの処方箋のためだけに保険のデメリットを甘受するのはなんとも効率が悪い。これはFPにアドバイスを受けて治した方が良い(自分はFPなので、当然これはポジショントーク)。

2は学資保険が保障するのは200~300万円程度の保険金だ。通常、親が亡くなれば保険料の支払いが免除される一方で受け取るお金はそのままとなる。したがって、保険料が免除された分が生命保険のような保障となる。これは貯金よりも学資保険を選ぶ材料に思えるかもしれないが、200~300万円位のわずかな生命保険は掛け捨てならば月に数百円で加入出来る。子育て世代の20代30代ならばなおのこと保険料も安い。教育費について万が一に備えたいならば生命保険に少し上乗せすれば良いだけだ。

この点についても学資保険を生命保険+預金と同等に考えて「保障部分が無料なのでほんのわずかであっても学資保険の方がお得」と間違った説明をする保険会社の営業マンやFPもいる。これは学資保険と預貯金の元本保証度合いが同じでなければ成り立たないアドバイスだ。

預貯金はペイオフと言って1000万円+預金まで預金保険機構で保証されるが、学資保険は「生命保険契約者保護機構」で保証される。これは「責任準備金の9割」となっている。契約内容の9割ではないので、大きく元本を割り込む可能性も高い。

学資保険に限らず積立型の保険は元本保証系の中では最も元本が守られる可能性が低い。そして銀行と保険会社では潰れやすさが随分異なる。これは「お金は保険会社に預けるな」で説明した通りだ。リスクに応じたリターンがあるのならそれはそれで構わないが、利回りの差はごく僅かだ。

保険会社の破たんリスクや出産から学資保険を受け取る大学入学時まで18年間もの期間で金利上昇の可能性を一切無視するのなら、学資保険の方がお得、という事になるのだろう。ただし、リスクを無視して良いのならそもそも保険は不要だ。

3.4について、学資保険はネーミングによる効果がかなり大きい。すでに説明したように教育費の貯蓄に保険は不向きだ。朝専用缶コーヒーみたいなもので、名前に騙されるのは辞めた方が良い。利回りが高いのは確かだが、その分銀行預金と比べて元本保証が無くなる。リターンはリスクもセットで考えるという当然の事をやるべきだ。

結論として、学資保険はいらない。元本保証がしっかりなされる預貯金や個人向け国債で十分だ。

保険関連の記事は以下も参考にされたい。
■お金は保険会社に預けるな その1
■お金は保険会社に預けるな その2

住宅購入は以下の記事が参考になる。
■共働きなら6500万円の一軒家は買えるのか? | 日経DUAL
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2027
■山手線駅近に6500万円の家を買いたいワケ | 日経DUAL
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2165
■8000万円の家、買えるけど買わない方が良い理由 | 日経DUAL
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2490&page=1
■8000万円の家と引き換えに失うもの | 日経DUAL
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2599
■年収2200万円でも、繰り上げ返済で破綻リスク | 日経DUAL
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2791
■年収2200万円夫婦でも資産運用は必要ない? |日経DUAL
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2917
■賃貸派の夫婦が6000万円の家を買うワケ | 日経DUAL
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3052

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今回起きたトラブルは契約者に有利に解決できたようだが、裁判の手間を考えれば確実にマイナスだろう。無駄な保険は一切入らず、必要なものだけしっかり加入する。これが保険加入の原則であることは間違いない。


中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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著者プロフィール


中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー(FP)、シェアーズカフェ店長、シェアーズカフェ・オンライン編集長。「保険を売らないFP」。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。開業から10年間、一貫して対面相談とウェブで情報発信を行う。2014年、シェアーズカフェ株式会社に法人化。現在は日暮里駅近くに事務所を構える。

情報発信は東洋経済オンライン、ITmediaビジネスオンライン、プレジデントオンライン、JBプレス、日経DUAL等の経済誌で執筆する他、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等で執筆・出演・取材協力多数(めざましテレビ、報道2001、スッキリ他、メディア掲載・取材協力の詳細を参照)

著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」、「一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人(大和書房)」。住宅本はAmazon・楽天ブックスの住宅ローンランキングで最高1位、Amazon総合ランキングでは最高141位。

対面ではファミリー世帯向けにプライベートレッスン(相談)を提供。生命保険の販売を一切行わず、金融機関・不動産会社のセミナー・広告等の業務も全て断り、相談料だけを受け取るFP本来のスタイルで営業中。

プライベートレッスンでは独自のカリキュラムを顧客ごとに最適化、相談・アドバイスと組み合わせて高度なコンサルティングを提供。特に住宅購入の資金計画、ライフプラン全体のアドバイスを得意とする。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。

2013年にはマネー・ビジネス分野の士業や専門家が参加する自社メディア、シェアーズカフェ・オンラインを設立、編集長に。2014年よりYahoo!ニュースに配信中。他にも編集プロダクション、専門家向けの執筆指導(オンラインサロン)、社長専属の編集者などの業務も提供。FP事業とメディア事業を車の両輪としてシナジーを経営者として日々追求。

お金よりも料理が好きな79年生まれ。

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