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11月8日、ミクシィの決算会見が行われた。追い出し部屋やリストラが話題になっている真っ只中という事もあり、記者からは当然この件について質問が飛んだ。

会見で社長の朝倉祐介氏は「そのようなことは一切やっていない。通常の人事異動だ」と強い調子で否定したという。ミクシィの広報担当者も「適材適所の人事異動・組織変更」であるとリストラを否定する回答をしているようだ。(ITmedhiaニュース 2013/11/8 ミクシィ朝倉社長「リストラ一切やっていない」より)

カスタマーサポート部門への急な人事異動や全社員の半数を超える人事異動など、ミクシイは社内の体制が大きく変化している。ウェブ上には内部告発のような書き込みまであり、追い出し部屋やリストラだとして報道された……というのが前回の記事「追い出し部屋が出来る理由。 ~ミクシィは悪くない~ 」で書いた内容だ。しかし、社長が自らリストラを否定し、会社として正式な発表もなされていない。現段階ではリストラは一切行われていないと考えて良いだろう。ぜひミクシイの社員も関係者も安心してほしい。

■適時開示の原則とは。
社長が言った事を額面どおりに受取るのはおかしい、嘘をついているかもしれないじゃないか、と思われるかもしれない。しかしこれについては心配は無い。上場企業では取引所のルールによって株価に影響を与える事実については速やかな公表が義務付けられている。これを「適時開示(てきじかいじ)」という。

適時開示の対象となるものは、合併や社長の交代、新事業の開始など、多数の項目が取引所から具体的に指定されている。その中には当然リストラも含まれている。

正確には東京証券取引所・有価証券上場規定の第4章、第2節・会社情報の適時開示等、第402条のabに「人員削減等の合理化」と明確に記載がある。つまり、先日の二度にわたる人事政策がリストラにつながるものであればとっくに適時開示の対象として公表されているという事だ。現段階では適時開示は無いので、リストラは行われていない、と考えるのが合理的だ。

■追い出し部屋をなくす方法。
さて、前回は追い出し部屋が出来る理由を「解雇出来ないから」と書いた。理由が分かれば問題の解決も簡単だ。解雇を出来るようにすれば、わざわざ自主的な退職を強要するバカな経営者も居なくなるだろう。

もちろん、このような法律改正が簡単に出来るとは思わない。アベノミクスの第三の矢で検討されたものの、特区ですら実現出来なかった解雇規制の緩和は容易ではないだろう。

解雇規制の緩和に関するアレルギーの強さは尋常ではない。もちろん、これは企業側の責任も非常に大きい。「ブラック企業を消す方法。 ~解雇規制・雇用流動化について~ 」 でも説明したように、2006年当時、キャノン会長で経団連会長でもあった御手洗氏が偽装請負で労働局から指導を受け、法律が実態と合っていないと財政諮問会議で責任のある立場の人間として考えられない発言をしている。

実態と合っていないから法律違反が頻発する、それによって「アレルギー反応」が強まり、ますます法律が変えられなくなり、実態との乖離がさらに広がる、という負のスパイラルに陥っている。これを断ち切るのが政治家の役目だが、現在のような支持率の高い政権ですら何も出来ないのであれば今後も変わらないのだろう。

■解雇リスクを従業員が受け入れるとどうなるか。
前回の記事では「企業に雇用責任はどこまであるのか?」と問題提起をした。雇用責任が一切無い、と考えればいつでも自由に解雇できる事になる。限界まで責任を持つべき、と考えればつぶれる寸前まで雇用を維持、という事になる。

雇用リスクについて、全て企業に負わせるべきというのは一つの考え方だ。しかしそれをやると企業は雇用を可能な限り避けるだろう。なぜなら赤字になった時、仕事がなくなった時に解雇が出来ないのだから当然だ。今の日本はコレに近い状況にある。そして雇用をする際にも給料を可能な限り抑え、どの部署でも使える人材を育てるなど、採用した後にも雇用リスクを避けるために様々な影響が発生する。

では、従業員が今より多少でも雇用リスクを負った場合、つまり解雇のリスクを受け入れた場合どうなるか。リスクが無くなった分だけ、当然の事ながら企業は雇用しやすくなるだろう。雇用の流動化・解雇規制の緩和を進めれば首切りがドンドン進むと指摘する人も居るが、それは労働市場に対してあまりに理解が浅い。

人がいなければ仕事は出来ない。企業は解雇が出来るようになれば、その時々で適正な人員を雇うようになるだろう。結果的に無茶な残業等は無くなる。人が余れば解雇できるのだから、ぎりぎりの社員数で残業時間の長短を雇用の調整弁代わりにするような必要がなくなるからだ。

■規制緩和と一緒にやるべき事。
雇用を促進するためには残業時の割り増し賃金のアップやサービス残業をさせた際の罰則強化なども合わせて行えば自然とワークシェアが進む。解雇規制の緩和や雇用の流動化の最終的な目的は景気を回復して税収を増やして雇用も増やす事だ。

結果的に解雇規制がこれから就職をする若者や失業者にとって壁となっている事をもっと多くの人が理解すべきだ。過労死する社員がいる一方で、失業者が居るような状況は、過剰な解雇規制が作っていることは明らかだ。

もちろん、雇用調整助成金を貰って社員をなんとか維持しているような人余りの会社は当然解雇に踏み切るだろう。これは雇用調整助成金が失業保険という「本来の姿」に置き換わるだけの話だ。

■多少の雇用リスクとは?
では多少の雇用リスクとはどのようなものか。企業側が解雇をする事を認める反面、半年分とか1年分とか、解雇時に一定額の退職金を支払うような仕組みだ。この場合、雇用直後に解雇するなどいい加減な採用を防ぐために、勤続年数が短いほど沢山の退職金を払わせるなど、労働者保護の制度設計も当然の事ながら必要だ。

例えば通常の解雇なら給料半年分の退職金だが、雇用から1年未満の解雇なら給与2年分、2年未満の解雇なら給与1年分、といった具合だ。そしてこれは非正規雇用にも適用すべきだ。同様に、立場の弱い若年層に配慮して、30歳未満には手厚くしても良いかもしれない。

ワカモノへの上乗せ保障は雇用保険で行っても良いだろう。もちろん、こういった保障はどれ位に設定するべきか、いくらでも議論の余地はある。半年分の給料が正解なというつもりは一切無い。重要な事は企業の雇用責任を限定する、という方向性だ。

このような見通しが立てば、企業は雇用リスクの見通しが立つ。人を雇ったとたんにリーマンショックのような事が起きて解雇せざるを得なくなっても、最大でこれ位の支出で済む……といった具体的な見通しが立つかどうかは企業の採用活動に決定的な影響を与える。

■解雇規制とセーフティネットの関係。
解雇規制の緩和や解雇ルールの設定は、クビにするなんて可哀想とか企業は金儲けしか考えてないといった情緒的な話ではなく、セーフティネットはどのように構築すればいいか? 雇用のリスクを企業・雇用者・国のそれぞれがどれ位負担すべきなのか?という問題だ。

仕事がないのに解雇をせずに給料を払うという事は、その給料は失業保険と同じだ。そして解雇を防ぐために国が負担している雇用調整助成金は「給料のフリをした失業保険」を国が負担する、というさらに訳の分からない仕組みになっている。結局、この問題は「失業保険を企業と国のどちらが負担するのか?」という問題だ。

企業が失業保険を負担すべきでない理由は企業がいつか消えてなくなる不安定な存在であって、そのような不安定な存在にセーフティネットという大切な仕組みを委ねるべきでないからだ。そして今の仕組みではそんな不完全なセーフティネットですら正規雇用の人しか受けられない以上な状況だ。

■あまりに少ない雇用保険料
現在、雇用保険は給料のたったの1.5%しか取られていない(労使合計)。年金も健康保険もその10倍以上取られているにも関わらずだ。健康保険は健康リスクに、年金は長生きリスクに備えて保険料が徴収されている。失業リスクに備える雇用保険がそれらの1/10というのは、それだけ失業リスクが小さく見られているという事、そして雇用リスクを企業に押し付けてきた証といえるのではないか。

失業は決して異常な状態ではなく、誰にでも起こり得るもので、非正規雇用で働く人の割合もどんどん増えている。短期間で転職する事も珍しくないだろう。現在の正規雇用者だけが対象で、長期間働くほど、そしてもらっていた給料が多いほど失業保険を沢山もらえるような状況はセーフティネットとしては余りにいびつだ。

自己責任とセーフティネットは相反するものではなく、車の両輪だ。徹底した自己責任と徹底したセーフティネット、これが車の両輪となる。今はどうなっているかというと、雇用=セーフティネットになっているので、一輪車のような状況だ。これは非常に危険だ。

■ベルリンの壁と追い出し部屋。
追い出し部屋は、非常に合理的だ。一方的な解雇が出来ない判例がある、それならば自主的に辞めてもらおう、辞めてもらうまで待つのは時間とコストの無駄なので強引に自主退職に追い込もう、そのためには仕事を取り上げて辞めたくなる環境を作ろう……と、なんら非合理な点が無い。そう、追い出し部屋は合理的なのだ。非人道的なまでに。

追い出し部屋の話を聞くといつも思い出してしまうものがある。ベルリンの壁だ。ベルリンの壁と聞いても若い人は全くぴんと来ないだろうが、かつてドイツにあった事や冷戦の象徴であること、89年に崩壊して冷戦が終わった事、位は知っているだろう。

ベルリンの壁は東西ドイツを分断していた壁と誤解している人もいるが、そういう万里の長城のようなものではない。「東ドイツ」にあった「西ベルリン」をグルリと囲むように建築されていたのがベルリンの壁だ。

戦後のドイツは敗戦国として戦勝国に分割統治された。西側はアメリカ等の自由主義陣営が、東側はソ連が占領した。その後米ソの対立が進むとドイツは東西に分断された。ベルリンはかつてドイツの首都であり、東ドイツに属する。そして奇妙な事に、ベルリンも東西で分断統治されていた。つまり、東ドイツの中に西側諸国が支配する西ベルリンが浮き島のように存在していた。ソ連の支配を嫌った東ドイツの住民は西ベルリン経由で西ドイツに亡命をした。

■合理的で非人道的なるものの共通点。
ソ連を象徴するものとして計画経済というものがある。資源の配分を市場経済の価格調整メカニズムにまかせず、国家が計画的に運営していこうという考え方だ。これを達成するには全てが計画通りである必要がある。特に労働者が亡命で逃げてしまえば計画の達成が困難になる。では亡命を禁止しようという事になる。具体的には遠出の旅行すら制限される。それでも亡命は消えない。ならば物理的に遮断してしまえ、という事で亡命拠点である西ベルリンを壁でグルリを囲んでしまう。無理に超えようとすれば逮捕されたり時には銃殺刑となる。これが壁が出来てから30年近く続いた状況だ。

ベルリンの壁は計画経済の達成を絶対的な目標とすれば極めて合理的だが、極めて非人道的だ。人間は本来自由な存在であり、それを縛り付ける権利は誰にも無いからだ。現代の日本でベルリンの壁のような追い出し部屋が出来る理由も、過剰な解雇規制は自由な経済活動に反しているからだ。これは矛盾を解決する手段として合理的で非人道的なベルリンの壁が出来た状況と全く同じだろう。

現状で追い出し部屋のようなやり口は決して褒められるものではない。退職強要は到底ゆるされるものではなく、違法行為は徹底的に取り締まるべきだ。しかし、やめさせたい社員を一つの部屋に押し込めて何もさせないという冗談のような事を企業がやらなければいけない理由がどこにあるのか、良く考えるべきだ。解雇規制という人為的な壁によってこういった喜劇のような悲劇が生まれている状況は、ベルリンの壁を想起させる。人為的に作ったルールで問題が発生しているという事は、人の手で問題解決を出来るという事だ。

雇用・セーフティネットに関しては以下の記事も参考にされたい。
■追い出し部屋が出来る理由。 ~ミクシィは悪くない~
■女子大生でも分かる、3年間の育児休暇が最悪な結果をもたらす理由。
■ブラック企業は「公表」ではなく「取締り」をするべきだ。
■生活保護費は増やしても良い。
■生活保護はもっと気楽に貰って良い

繰り返すが、解雇=可哀想・酷いと思い込んでいる人は改めて考えて欲しい。「セーフティネットを構築・負担するのは国と企業、どちらが適しているのか?」と。

※まとめ
・追い出し部屋は解雇規制が緩和されれば無くなる。
・解雇規制はこれから雇われる若者や失業者にとってはかえって「壁」となっている。
・従業員が解雇のリスクを受け入れれば、企業は逆に雇いやすくなる。
・企業の雇用責任は限定する方向性を打ち出すべき。
・失業保険は手厚くしていい。特に非正規雇用や若者に手厚くすべき。
・セーフティネットは企業ではなく国の役目であり、自己責任とセーフティネットは車の両輪。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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著者プロフィール


シェアーズカフェ店長 ファイナンシャルプランナー
中嶋よしふみ。現在、34歳(FPとしては多分若手)。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。

2012年2月に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5ヶ月で月間アクセス14万件を突破。2013年は総アクセス500万件超(配信先も含む)、ヤフーのトップニュースに4回掲載される。ファイナンシャルプランナーとしてブログのアクセス数はダントツの日本一を誇る。

2013年4月にはアゴラ研究所主催の連続金融セミナーに登壇。山崎元氏、ライフネット生命現会長・出口治明氏、元マネックスユニバーシティ代表取締役・内藤忍氏など、金融業界を代表するメンバーと共にセミナー講師として参加(担当は住宅購入)。

2014年は住宅金融支援機構(フラット35)でセミナーを2回行う他、日本FP協会・長野支部にてFP向けセミナー(継続教育研修)に登壇。

現在、シェアーズカフェのブログのほか、日経マネー、日経DUAL、言論プラットフォーム・アゴラ、ブロゴス、ヤフーニュース個人、ハフィントンポスト等で執筆中。老舗情報サイト・オールアバウトでは住宅カテゴリでガイドを務める。

その他、日経新聞でコメントが掲載されるなど、多数の媒体で情報発信を行う。

対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを行う。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業を行っている。

プライベートレッスンでは、お客様ごとに最適化したレッスンと適切なアドバイスを組み合わせて高度なコンサルティングを提供中。他に無い独自のサービスがお客様の支持を得ている。

現在は専門家が書き手として多数参加するウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを編集長として運営するほか、ブログ執筆による集客の経験とノウハウを生かして士業・企業向けにウェブコンサルティングも提供する。

お金よりも料理が好きなFP。パティシエも兼任。

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