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就職活動の解禁日から半月ほどが過ぎた。入社試験の有料化が波紋を呼ぶなど話題に事欠かないが、前回の記事「就職活動を始めた大学生はNHKのお天気お姉さん・井田寛子さんに学べ」はヤフートップに掲載され大きな反響を頂いた。その中でひとつ面白い感想があった。これって「計画された偶然の話」でしょ、と。

■計画された偶然とは?
計画された偶然という理論はクランボルツという心理学者・教育学者が提唱したものだ。その意味するところは、行動を起こせば何かが起こる、そして職歴(キャリア)のほとんどは事前に計画・意図されたものではない事だという。クランボルツ教授の調査によれば、18歳の時点で望んでいた仕事に将来就くことが出来る確率はわずか2%だという。

希望通りの仕事につけないことは悲しいが、世の中が売れない小説家やミュージシャンだらけになってしまうことを考えれば仕方のない話だろう。では残り98%の人は不満だらけの人生を送らないといけないのだろうか。

■オープンマインドとは?
クランボルツ教授によれば、キャリア作りの基本はオープンマインド、つまり開かれた考え方だという。これしかない、これ以外やりたくない、と閉じこもった考えではいけないようだ。

前回の記事で紹介したNHKのお天気お姉さん・井田寛子さんは紆余曲折を経て気象キャスターになったと書いたが、大学受験の時点では獣医を目指しており、クランボルツ教授が指摘する通り、18歳の時点の夢とは違う職業についている。製薬会社を経て放送業界に転職した時点でもまだ普通のキャスター・リポーターとして働いている。

そして転職して最初の赴任地が静岡の放送局であった事が後の井田さんの進路を変えたと、著書「井田寛子の気象キャスターになりたい人へ伝えたいこと」には書いてある。

静岡は東海地震に備えて防災意識が非常に高い地域で、災害報道の訓練も頻繁に行われている。このような地域特性はカルチャーショックでもあったようだ。そして台風の通り道になる事も多いこの地域で災害報道を目の当たりにした。井田さんはこれこそ伝え手として極めたい分野だと感じ、気象予報士の資格取得を目指したという。

とはいえ、井田さんは理系女子ではあっても気象学を学んでいたわけではない。専門知識はゼロからのスタートになったと思われる。当初独学ではなかなかうまくいかず、最終的には新幹線で横浜の予備校に通って勉強し、3年半かけて5回目の試験でやっと合格したという。

■5つのコツ。
では井田さんは行き当たりばったりの結果、運良く気象キャスターとなったのだろうか。これは決してそういう事ではないだろう。グランポルツ教授は「計画された偶然」を引き寄せる条件を五つ挙げている。
(1) 「好奇心」 たえず新しい学習の機会を模索し続けること
(2) 「持続性」 失敗に屈せず、努力し続けること
(3) 「楽観性」 新しい機会は必ず実現する、可能になるとポジティブに考えること
(4) 「柔軟性」 こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変えること
(5) 「冒険心」 結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと

「計画された偶発性理論とは? 日本の人事部より」
前回と今回の記事を読んでもらえば、そして著書を読んでもらえばこれらの条件にすべて井田さんが当てはまっている事がわかる。

好奇心・柔軟性は初めて赴任した場所で地域特性を敏感に吸収して気象予報士に興味を持った事(オープンマインドの姿勢)、持続性・楽観性は失敗を繰り返しながらも受験勉強を続けた事、そして冒険心は畑違いの業界に転職した事・・・。

現在のキャリアは、過去の努力に加えて、いくつかの失敗や最初の赴任地が静岡であったという偶然によって出来上がった、まさに「計画された偶然」だ。そして「偶然」を「幸運」に変えるために必要な事がこれら5つの条件ということになる。

こういった話を書くと、そんなこと言われても誰もが成功できるわけじゃないよね、とひねくれる人もいるかもしれない。もちろん、奇麗事ばかり言うつもりは無い。現実には努力は必ず報われるわけでもないし、身もフタも無いことを言えば努力が出来るのも才能の内だ。ただ、成功と言えるかどうかは別に、5つのコツを覚えておくことでほんの少しでも人生を「マシな方」へ動かすきっかけになるかもしれない、というだけの話だ。

■「ブラックスワン」が教えてくれること。
サブプライムローン問題を予見していたといわれる「ブラックスワン」という書籍では、世の中に影響を与えるのは「予想された日常の出来事」ではなく「想像もできなかった非日常」の出来事だという。
仕事選びでも、つれあいとの出会いでも、生まれ故郷からの亡命でも、誰かの裏切りでも、急にお金持ちになったことでも、急に貧乏になったことでもいい。その中で、あらかじめ立てた計画どおり起こったことがいくつある? 
ナシーム・ニコラス・タレブ 「ブラックスワン」より
しかし、大抵の人は日常生活のこまごまとした問題を排除する事ばかりに気を使う。これは「池上彰さんが心配して、総理大臣が否定するハイパーインフレについて」でも説明した。

そして多くの人が平穏無事にすごしたいと思えば思うほど想定外の大きなリスク・不確実性がやってくる。日々の小さい揺らぎや僅かなでこぼこばかりに気を配ると、大きな変化の予兆を無視する事になる。バブル崩壊や財政危機、原発事故など大きなアクシデントは常にこうして生まれる。

サブプライムローン問題、ギリシャ危機、原発事故などの大きなアクシデントは、後から見れば「なるべくしてなった」かのように見えるが、事前にそれを予想する事は出来ない。これがブラックスワンのキモだ。

■リスクを好転させる事は出来るのか?
ブラックスワンで描かれるのは経済危機や戦争など、どちらかというと悪い方の話だが、良い方の出来事でも同じことが言える。12月から就職活動を始めた知人の大学生は、1年生の時に足に大怪我を負って留年してしまった。当時は、もしかしたら卒業が1年遅れた事で就職活動が好景気にぶつかるかもしれないからあまり気落ちするなよ、といい加減な気休めを言ったら、そのとおりになった。

この幸運は本当にただの偶然だが、怪我のせいで階段を上がる事すらままならない生活を送り、それがきっかけで将来の進路もずいぶん変わったと聞く。今の大学も滑り止めで入ったというが、災難や失敗が原因で起きたことも、いつかは「なるべくしてなった」と思えるような道に進み、すべての歯車が合わさるかもしれない(井田さんがそうだった様に)。

井田さんは大学受験で獣医学部に入れなかったと前回の記事でも書いたが、浪人をしてでも獣医学部に進むという選択をしなかった事で獣医になる可能性はほぼ消えた。反対の見方をすれば、もし獣医学部に無事合格していれば「獣医以外になる可能性」は無くなっていた事も意味する。何かを選択・決断するたびにいくつかの可能性が閉じ、それと同時に別の扉がいくつも開く。これはきっと将棋や囲碁の名人でも先を読めない位に複雑な人生の仕組みだ。

著書でもこの点について、獣医を諦めてから自分の強みと誇れるものが無かった、気象予報士の夢まで諦めてしまったら今後の目標がなくなってしまう、と過去の挫折が奮起の材料になったとある。

■「なるべくしてなる」の意味。
成功した人を見るとなるべくしてなったかのように見える。前回の記事でも、遠回りが結果的にプラスになることもあると書いたので、そんな風に受け取られたかも知れない。挫折が奮起する原動力になった、というのもそれと同じだ。しかしそれは後付の理由であって、実際には成功しなかった確率の方がよっぽど高い。製薬会社の出身の気象キャスターが他にいない事を考えればこれは明白だ。

NHKで全国区の気象キャスターとなった井田さんも、18歳の時点で無数にある可能性の中で気象キャスターになる可能性が最も高かったかというと、そんな事は無い。むしろ可能性としては最も低い部類に入っていただろう。それをひっくり返す事が出来たのは、5つのコツで幸運を引き寄せた事が要因だ。

この逆転が可能となった理由は、気象キャスターになるという目標をある時点から他のどんな事よりも優先したからに違いない。もしどこかの時点で失敗してくさっていたら、不運の扉ばかりが開いていただろう。

結果論という言葉があるように、良い事も悪い事も世の中で起きる大抵の事はなるべくしてなったように見える。重要なことは今の状況はなるべくしてなったんだと考えた時、納得できるように、そして後悔しないで済むように日々行動するだけだろう。

■5つの魔法。
自分は本業であるファイナンシャルプランナーとして、普段のアドバイスでは住宅でも投資でもリスクは避けましょう、という話をしている。お金の世界はリスクとリターンは対応する大原則があるからで、大儲けを狙えば大損するリスクも抱え込むからだ。

ただ、人生や人との出会い、仕事探しには良い事ばかりおきるようにちょっとした仕掛けを実践することも可能だ。5つの小さな魔法は、教授によればリスクどころか、可能性を大きく広げるという。失敗してもよし、成功してもよし、リスクゼロでリターンを得られるならば何もしない事が一番もったいないじゃないか、という話になる。

働き方とリスクに関する記事は以下も参考にされたい。
就職活動を始めた大学生はNHKのお天気お姉さん・井田寛子さんに学べ。
池上彰さんが心配して、総理大臣が否定するハイパーインフレについて。
池上彰さんも心配するハイパーインフレと、リスクに関する考察。
警察OBが生活保護の水際作戦で採用されている件と、超簡単な突破方法。
女子大生でも分かる、3年間の育児休暇が最悪な結果をもたらす理由。


一視聴者としては井田さんには気象キャスターを続けて欲しいと思うが、ある日突然、また違う道に進む事もあるかもしれない(例えば池上彰さんや、でんじろう先生のように、気象や科学を分かりやすく伝える、面白さを教えるような仕事)。そんな事が起きれば多くの視聴者やファンにとっては驚くべき事態かもしれないが、過去に製薬会社から放送業界へ、そして気象キャスターへと「計画された偶然」を経験している井田さんにはあり得ない選択肢ではないのかもしれない。

リスクを味方につける。
そして幸運は偶然ではない。 ~Luck is no accident~

多くの人にとって5つのコツを実践することは決して難しい事ではないはずだ。過去の転機を振り返って、あの時好転した理由はただの偶然? 悪いほうへ転んだのもただの偶然……? 年末にはそんな事をちょっと振り返ってみてはどうだろうか。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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著者プロフィール


シェアーズカフェ店長 ファイナンシャルプランナー
中嶋よしふみ。現在、34歳(FPとしては多分若手)。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。

2012年2月に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5ヶ月で月間アクセス14万件を突破。2013年は総アクセス500万件超(配信先も含む)、ヤフーのトップニュースに4回掲載される。ファイナンシャルプランナーとしてブログのアクセス数はダントツの日本一を誇る。

2013年4月にはアゴラ研究所主催の連続金融セミナーに登壇。山崎元氏、ライフネット生命現会長・出口治明氏、元マネックスユニバーシティ代表取締役・内藤忍氏など、金融業界を代表するメンバーと共にセミナー講師として参加(担当は住宅購入)。

2014年は住宅金融支援機構(フラット35)でセミナーを2回行う他、日本FP協会・長野支部にてFP向けセミナー(継続教育研修)に登壇。

現在、シェアーズカフェのブログのほか、日経マネー、日経DUAL、言論プラットフォーム・アゴラ、ブロゴス、ヤフーニュース個人、ハフィントンポスト等で執筆中。老舗情報サイト・オールアバウトでは住宅カテゴリでガイドを務める。

その他、日経新聞でコメントが掲載されるなど、多数の媒体で情報発信を行う。

対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを行う。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業を行っている。

プライベートレッスンでは、お客様ごとに最適化したレッスンと適切なアドバイスを組み合わせて高度なコンサルティングを提供中。他に無い独自のサービスがお客様の支持を得ている。

現在は専門家が書き手として多数参加するウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを編集長として運営するほか、ブログ執筆による集客の経験とノウハウを生かして士業・企業向けにウェブコンサルティングも提供する。

お金よりも料理が好きなFP。パティシエも兼任。

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