607471

自分はファイナンシャルプランナー(FP)として開業して、今年で5年目になった。年齢も収入も考え方も全く違う人にアドバイスをするのは中々骨の折れる仕事だが、やりがいのある仕事であることは間違いない。

FPが扱う分野は住宅・保険・投資など、様々なカテゴリがあるが、実は一番やっかいな話は家計管理、つまり貯金や節約だ。他の分野と比べて簡単そうな仕事に見えるが、家計の分析は手間がかかる上に正しい手順も確立されていない。

結果的に100人のFPがいれば100人全員が独自に、悪く言えば好き勝手にアドバイスをしている。これは税理士や会計士、弁護士などまともな資格業に携わる人からすれば恐るべき状況と言えるだろう(家計に限らず全ての分野がそんな惨状だが、この話は一旦別の機会に譲る)。

■年収が高いのに貯金が出来ない理由。
先日とあるサイトからメールが届いた。お金の相談をしたい人が無料で書き込めるサイトだ。自分は無料の仕事は一切やらないと開業前に決めたが、開業後にまだ客が少なく、あまりにヒマな時や気が向いた時だけこのサイトで回答をしていた頃もあった。登録したまま放置しているので今でも時々メールが届くのだが、質問の内容は年収が1100万円で貯金が出来ないという40代男性からの内容だった。

すでに結婚をしていて、奥さんは専業主婦でまだ小さな子供も二人いるという。住宅は買ったばかりのようだが、毎月のローン返済額は10万円台半ばと収入を考えれば少な目と言っても良い額だ。

他のFPはどんな回答をしているのか興味を覚えて確認をしてみると、食費を減らしてみてはどうかとか、○○の支出は収入の何%までに抑えると良いなど、はっきり言ってどうでも良いアドバイスばかりが並んでいる。まさか普段こんなアドバイスでお金取ってるの……? と心配になるような内容だ。あまりの酷さにイラっと来たので本気で回答してみた。

■本気の回答がコレ。
以下、回答として書き込んだ内容だ(一部修正済み)。

「収入は結構あるし、そんなに贅沢してないのに貯金が増えないのはなんで……?という状況かと思います。

答えは簡単で、生活水準が高いからです。支出を減らして貯金をするには生活水準を落として下さい。例えば世帯年収が600万円のご家庭でも子供を育てながら貯金もしています。そういったご家庭と比べれば年間500万円くらい貯金が出来てもおかしくないはずですが、それが出来ないのは単純に生活水準が高いからです。

年収1100万円に見合った生活を送る限り貯金額は出来ません。細々としたアドバイスはいくらでも出来ますが、質問者様にとって無駄な支出はあまりしていないと思いますし、その感覚もおそらく間違っていません。

支出を削るには『無駄を削る』のではなく『生活の水準を落とす』と考えて下さい。せっかく一生懸命稼いでいるのだからそこまで我慢する生活はしたくない、というのならそれでも構いません。ただし、将来お子様が二人とも私立高校・私立大学に通うような状況になれば生活は破たんします。

定年退職の時点でローンは半分以上残っていると思いますが、貯金が出来ないということは繰り上げ返済をする余裕も無いという事ですから、多額のローンを抱えて老後に突入します。

現状は企業で言えば売り上げは大きいけど赤字が出ているシャープのような状態です。シャープは赤字を無くすために給料を減らし、リストラもしています。

損益分岐点を下げて黒字にする、つまり貯金を増やすには他の人が回答しているようなチマチマとした節約ではどうにもなりません。どうすれば良いかというと、それがリストラ=生活水準を下げる事です。幸い住宅ローンの返済額もそこまで大きくありませんので、削る事は十分可能かと思います。

というわけですので、まずは『節約』という意識を捨てて下さい。リストラ=生活水準を落とす、と考えて下さい」

■無駄な支出なんてお金を捨てる以外に無い!
以上が自分の書いたアドバイスだ。これは普段有料で提供しているアドバイスと基本的に方向性は同じだ。

質問をしている人はどこかに無駄があると信じ込んでいる。FPに限らず、お金を貯めることは無駄を削って支出を減らす事だと多くの人が思い込んでいる。しかし、実際には「無駄な支出なんてない」というほかない。

これだけ収入が高い人ならば貯金をするなんて簡単だと見えるだろう。しかし、この男性が今後は毎年100万円貯めたいと考えたとすると、1か月あたりに直せば8万円以上の無駄を「発見」する必要がある。どんなにズボラな人でも8万円も無駄な支出があるはずもない。

また、支出を削る=節約=食費や光熱費を減らす事……と短絡的に考えてしまう人もいるが、食費や光熱費を削っても一ヵ月に8万円もねん出する事は絶対に出来ない。たとえば2割の支出を削って8万円も節約できるのは食費と光熱費で40万円も使っている家庭で、そんな家は大豪邸に住んでいるよっぽどのお金持ちかビッグダディ並みの大家族だけだろう。

結局は「無駄使い」の定義という話にまでなってしまうが、お金を払っている以上、対価として何かしらの価値を得ている事は間違いない。節約をしたいと思っているのだから本当に無駄だと判断していればとっくにその支出をストップしているはずだ。つまり「無駄な支出なんてお金を捨てる以外にはない」という事になる。

無駄という元々存在しないものを探しても意味が無いので辞めて下さいというアドバイスだ。ではどうすればいいのかというと、生活水準を落とすという事になる。

■生活水準は収入で決まる。
収入が1100万円の家族が収入600万円の人と同じ生活をすれば年間で500万円も貯金出来る(税金・社会保険料は一旦無視)。しかし、実際には収入が高ければ支出も増える。例えば住宅ならば、世帯年収1000万円超の夫婦が2000万円のマンションを買う、という事例は過去の相談では一度も無い。世帯年収1000万円超ならば予算はは5000万円前後といったところか。世帯年収が2000万円に近付くと、子供の習い事だけで月に10万円以上という事も珍しくない。

そんな高額なマンションも習い事も無駄だ!と思う人もいるだろうが、これが無駄かどうかは本人が決めることだ。無駄だと思っていればそもそもお金を使わないので、当の本人には無駄使いだという意識があるわけもない。

結局は無駄なんてないという事になるので、貯金を増やすには生活水準を落として下さい、という身もフタもないアドバイスにしかならない。生活水準を落とすとは本人が当たり前だと思っている支出、必要だと思っている支出にまで踏み込む事になるので、確実に痛みをともなう。これが本当の意味での家計のリストラだ。

■天からお金は降ってこない。
この原則さえ納得できれば、支出を削る事は難しくない。生活水準を落とす際にやる事が、お小遣いを削る事なのか、海外旅行を国内旅行に変える事か、子供の習い事を減らす事か、外食の回数を減らすのか、どこから削るかやり方は人それぞれだが決して難しい事ではない。

無駄を削る、という言葉の意味をより深く考えると「ウチの家計支出には無駄が含まれているはずで、それを削れば今の生活スタイルを全く変えずに貯金を増やす事が出来るはず……」という、都合の良い発想が無意識のうちにひそんでいる。

自分の指摘は「そういう天からお金が降ってくるような都合の良い話は無いですよ」という、当たり前だが誰も言わない指摘だ。これを投資や経済学の世界では「フリーランチ(タダ飯)は無い」と表現する。メリットやリターンを得るにはデメリットやリスクを受け入れなければいけないという事だ。

■当たり前のアドバイスでお金をもらってます。
フェイスブックで、思わずムキになってこんなアドバイスを無料でしちゃったよ(・ω<)てへぺろ、と書き込んだところ「間違ってないと思うけど、FPというのはそんな当たり前のアドバイスをするものなの?」と知人から指摘を受けた。

これについては「経営コンサルティングと同じで、細々とした解決方法でなく根本的な問題点を教えてあげればあとは自分で解決出来る、言われてみれば当たり前なのに言われるまでは気づけない、という事はビジネスでも普通にある、それは家計も同じ」と返事をしたら知人も納得した。

共働きで子供もいる家計を企業のように考えれば、多額の設備投資(住宅)により借金(住宅ローン)の返済は何十年もの長期にわたって続き、事業は二つあり(夫婦の給料)、将来は支出の増加(子育て費用)と収入の減少(定年退職)はすでに確定した事項であり、しかも人によって事業(雇用)は決して安定していない。組織の複雑さで言えば、小さな飲食店や雑貨店よりも家計の方がよっぽど複雑だ。そんな複雑な「事業」へのアドバイスは、小手先のテクニックではなく、問題点の指摘という手法の方が正しいはずだ。

この話は新著「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方」でも書いたが、実は案外重要な話だ。家計の管理は個人のお金を考える上で土台となるからだ。

少なくとも資料を事前に貰って少し話を聞いた程度の外部の人間が、内部の人間(企業なら経営者や社員、家計なら夫婦)より細かい事情(支出の必要度や優先順位)を判断できることは無い。

昔は「この支出は削れませんか?」と一つひとつ確認をしていたが、「ハイ、それは無駄な支出です。今後は辞めようと思います」という回答が返ってきたことは一度も無い。すでに説明した通り、お金を払っている以上何かしらの価値があり、本人にとっては意味のある支出だからだ。結局時間の無駄なのでそういうやりとりは辞めた。どこから削るべきかの優先順位は、今回書いたような原則を理解したうえで当人が考えれば良いだけの話だ(夫婦ならば当然話し合いになる)。

ビジネスと家計については以下の記事も参考にされたい。
■不動産会社の「大丈夫」が全然大丈夫じゃない件について。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/44077052.html
■家を買う前に読んでおきたい記事のまとめ。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/23396989.html
■ライザップと行列ができる本屋の共通点 ~平凡な商品がバカ売れする理由~
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43405362.html
■グーグルはなぜ新入社員に1800万円の給料を払うのか?
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43503648.html
■著書「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方」が7/17に発売!
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/44691877.html

自分は常に身も蓋もないアドバイスをするようにしている。「節約」とググれば1秒で出てくるようなみみっちいアドバイスをするFPがいたら気をつけてください、とだけ指摘をしておきたい。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
シェアーズカフェ・オンライン 編集長
●ツイッターアカウント @valuefp  
フェイスブックはこちら 
ブログの更新情報はツイッター・フェイスブックで告知しています。フォロー歓迎します^^。
※レッスン・セミナーのご予約・お問い合わせはHPからお願いします。
※レッスン・セミナーのご案内はこちら


●住宅購入の本を書きました。
住宅ローンのしあわせな借り方、返し方 (日経DUALの本)
中嶋 よしふみ
日経BP社
アマゾンランキング: 住宅ローン部門最高1位 総合最高141位 
楽天ブックス:住宅ローン部門最高1位




シェアーズカフェからのお知らせ
 ■シェアーズカフェでは住宅・保険・投資・家計管理など、お金に関するレッスンを提供しています。中嶋が直接指導します。
 ■シェアーズカフェが士業・企業・専門家向けのウェブ・コンサルティングを行います。


著者プロフィール


シェアーズカフェ店長 ファイナンシャルプランナー
中嶋よしふみ。現在、34歳(FPとしては多分若手)。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。

2012年2月に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5ヶ月で月間アクセス14万件を突破。2013年は総アクセス500万件超(配信先も含む)、ヤフーのトップニュースに4回掲載される。ファイナンシャルプランナーとしてブログのアクセス数はダントツの日本一を誇る。

2013年4月にはアゴラ研究所主催の連続金融セミナーに登壇。山崎元氏、ライフネット生命現会長・出口治明氏、元マネックスユニバーシティ代表取締役・内藤忍氏など、金融業界を代表するメンバーと共にセミナー講師として参加(担当は住宅購入)。

2014年は住宅金融支援機構(フラット35)でセミナーを2回行う他、日本FP協会・長野支部にてFP向けセミナー(継続教育研修)に登壇。

現在、シェアーズカフェのブログのほか、日経マネー、日経DUAL、言論プラットフォーム・アゴラ、ブロゴス、ヤフーニュース個人、ハフィントンポスト等で執筆中。老舗情報サイト・オールアバウトでは住宅カテゴリでガイドを務める。

その他、日経新聞でコメントが掲載されるなど、多数の媒体で情報発信を行う。

対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを行う。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業を行っている。

プライベートレッスンでは、お客様ごとに最適化したレッスンと適切なアドバイスを組み合わせて高度なコンサルティングを提供中。他に無い独自のサービスがお客様の支持を得ている。

現在は専門家が書き手として多数参加するウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを編集長として運営するほか、ブログ執筆による集客の経験とノウハウを生かして士業・企業向けにウェブコンサルティングも提供する。

お金よりも料理が好きなFP。パティシエも兼任。

メディア掲載・取材協力の詳細はこちら。

※レッスン・セミナー・相談は全て中嶋が直接対応します。ご予約・お問い合わせはシェアーズカフェの公式HPからお願い致します。


このページのトップヘ