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先日、NHKのクローズアップ現代で空き家に関する話題が取り上げられていた。番組は1億円もかけて賃貸アパートを建てた家主が不動産会社とトラブルになっていると報じている。原因は「家賃保証」だ。

■家賃保証=サブリースとは?
相続税の強化で節税対策として不動産投資に注目が集まっている。現在は相続バブルと言われるほどの活況だ。湾岸エリアのマンションが高値で売買されている理由に、相続対策で買われている事が原因という指摘もある。

不動産投資で一番のリスクは入居者が集まらず、空室が増えてしまう事だ。そのリスクを避けるためにあるものが家賃保証だ。これは不動産会社がアパートを一括で借り上げて、入居状態にかかわらず一定の家賃を家主に払う、という契約だ。

不動産会社はどこで利益を出すのかというと、まずは建築を請け負って売り上げを確保する。加えて大家から借り上げたアパートを入居者に貸し出す。これをサブリース(また貸し)と呼ぶ。不動産会社は入居者から受け取った売り上げを100%家主に払うわけでは無く、手数料として一部を受け取るような形だ。高い家賃で入居率も高く維持されれば不動産会社は差額で儲かる事になる。

■家賃保証のトラブルは保証額の引き下げで発生する。
安心して不動産投資が出来るのなら家賃保証は良いしくみじゃないか、という事になるが、トラブルの原因は家賃保証の引き下げだ。番組内で映し出された契約書では、当初10年は最初に決めた家賃を保証するが、その後は二年ごとに改定出来るとされていた。

しかし、家主側はそういった契約内容について正確に把握していないケースがあったり、家賃保証は引き下げないと説明されているケースもあったようだ。説明に虚偽があれば悪いのは業者側という事になるが、契約を把握していないケースについては自己責任というほかない。「家主」という立場は消費者ではないため、事業者同士の対等な立場になるからだ。

この点について、国民生活センターが「不動産サブリースの問題点」という冊子をウェブ上で配布している。中身は弁護士が法的な側面から安易な投資に警鐘を鳴らす内容だが、以下のような文面もある。

「賃貸業のプロたるサブリース業者は、素人たる家主との情報・交渉力の格差を無視し、さまざまなリスクを家主に押しつけているとも考えられます。」

番組で報じられていた事はまさにこのようなケースだが、元々は空室リスクを不動産会社に押し付ける事が出来る、つまり「リスクを取らずにリターンを得られる」と勘違いしている家主側の見通しも甘いという事になってしまう。

■不動産投資は「ビジネス」である。
自分は普段FPとして資産運用のアドバイスも行っている。中には不動産投資を検討している人もいるが、相続で急に多額の現金や土地を受け取った、貯金が思った以上にたまった、など理由は様々だ。ただ、その多くは「不動産投資は安定して収益が得られる」という間違った判断を含んでいる。

自分が必ず伝える事は「何千万円も投資をして収入を得るという行為は、新しいビジネスを起こす事と同じです。なので仕事として本気で取り組むつもりならばやっても良いと思います」というアドバイスだ。

1000万円あれば飲食店は十分開ける。数千万円かければおしゃれな居酒屋を作る事も可能だ。そのくらいの規模のビジネスをあなたは始めようとしているんですよ、という確認の意味でこの話をする。起業・独立と不動産投資の規模を比較をすれば、安定して収益が得られるとか、節税対策にアパートを建てるとった判断がいかに甘いか分かるだろう。そして大抵の人はこの説明で踏みとどまる。そこまでの覚悟は無いからだ。

不動産投資は税金や利息、維持管理の手数料を差し引いた後の実質利回りを5%も得られれば、十分成功と言える。しかし5%の利回りでも単純計算で初期投資の回収に20年かかる。20年間も素人が利回り5%を維持しつづける事は至難の技だ。しかもこれは時間価値を無視して、利益が出ずに元が取れたというだけだ(銀行預金でも20年預ければ利息はそれなりに付き、リスク運用ならばそれ以上のリターンが無ければワリに合わない)。

■不動産投資は株より「キケン」です。
番組では土地の相続税に悩んでいるという80歳を超える高齢の夫婦が1億円の借金をしてアパートを建てたという事例が紹介されていた。

大手不動産会社が示したという資料には「空室の有無に連動しない家賃保証」という説明書きがあり、グラフでは自身で貸し出した場合は家賃が年々下がっていくが、家賃保証ならば30年先まで同じ額が続くように書かれていた。

保有する土地は農地として固定資産税は低く抑えられているが、利用しなければ課税額は高くなってしまう状況だという。高齢の夫婦が広い農地を耕すのは骨の折れる作業だ。当初アパートを建てるつもりは無かったが、このような「安心材料」を提示された事で莫大な借金を背負ってアパートを建てる事になったようだ。

ただ、この判断はとても冷静になされているとは言えない。奥様はグラフの掲載された資料を前に「経験してないうちにこれを出されたら信じる他ない」と無念の表情で話していた。もし1億円の借金をして株を買いませんか?という話だったらこの夫婦は投資をしていただろうか。どんな説明をしてもまず首を縦に振る事は無かっただろう。しかし、実際には1億円分の株よりアパートの方がよっぽどハイリスクだ。

■株と現物不動産の違い。
番組で映し出されたアパートはかなり大きく見えた。仮に20室あったとして、1部屋空けば売り上げは5%も減る。しかも、周辺環境が悪化した時には全ての部屋の空室リスクが高まる。つまり分散が全く効かない。すでに説明したように不動産投資は回収まで何十年もかかる。空室率がどんどん上がって、途中で失敗したと思っても簡単には逃げられない。

それに対して、株ならば幅広く分散が出来る上に、いつでも売却して逃げる事が出来る。価格が変動する=危ない、という認識は完全に間違っている。価格が変わるという事は買い手がいる、つまり売ろうと思えば誰かが買ってくれるという事だ。それが損をする価格であってもだ。

一方で現物の不動産は日々マーケットの売買にさらされていないため、価値が急落してもすぐに気づく事が出来ない。入居者がいつのまにか減っていき、募集しても人は集まらず、空き家だらけになって初めて価値が下落していた事に気づく事もあるだろう。そしてその時にはもうアパートに買い手がつかず、売却して撤退する事も出来なくなっているかもしれない。これを流動性のリスクという。

「あなたはそれだけハイリスクな事をしようとしてるんですよ」とアドバイスを受けていたら、きっとこの高齢の夫婦はアパート投資をしなかっただろう。そしてこれは不動産投資以前の基礎の基礎となる話だ。無条件に株よりアパート投資の方が安全だと思うような人は、不動産投資を絶対にしない方がいい。投資に必要なセンス、あるいはリスクに関する知識が決定的に不足している。

加えて、リスクをリスクとして認識せずに投資をしているのであれば、それはただキケンというだけの状況だ(詳細な事情は分からないが、番組を見ただけの情報から判断するならば、土地を一部売却をするなどリスクのほとんどない形で土地を処分・運用する方向性で自分ならアドバイスをすると思う)。

■サブリースは良い仕組みである。
こういったリスクが怖いから家賃保証に頼る、という事になるのかもしれないが、保証してくれる会社がつぶれてしまえばお金を受け取る事は出来ない。社長や社員を個人として訴えてお金を請求する事は出来るのかもしれないが、それすら自己破産してしまえば終わりだ。家賃保証の安定度は決して安心できる水準ではない。結局リスクを取らずにリターンを得る事なんて出来ない、という事になる。

番組では著名な不動産コンサルタントであり、さくら事務所・会長の長嶋修氏がサブリースという仕組みは悪いものではない、本来は良い仕組みだと説明した。これ自体は全く間違ってはいない。サブリースを受けた不動産会社は一定額を家主に払う以上、入居率や家賃は高く保つインセンティブが働く。本来は双方にとってメリットの有る契約だ。

しかし建物の建築で一定の利益を得て、しかも家賃保証の引き下げに制限が一切ないのであれば、家賃保証の仕組みは家主を投資の世界へ引き込む際に安心させるためだけの材料……という事になってしまう。

先ほど紹介した「不動産サブリースの問題点」という冊子では、サブリース業者を規制する法律がほとんどない事を弁護士が説明している。資本金はいくら以上とか、投資家保護のために資金を準備しておくとか、そういった仕組みが一切ない。つまり家賃保証を担保する仕組みは全くない事という事だ。長嶋氏もこの点について、法律の谷間にある状況を改善するためにルールを整備して罰則も導入すべき、とコメントしている。

■リスクを引き受ける事の意味。
保険会社は顧客のリスクを保険契約によって引き受けているが、自社の資金だけでは耐えきれない支払いが発生した時に備えて再保険(さいほけん)というものに加入している。これは保険会社がさらに別の保険に加入する事で、多額の保険金が請求されるリスクを他社に引き受けてもらう仕組みだ。

保険会社が保険に加入している、という話は初めて聞いた人も居ると思う。そこまでやらなければ顧客に保険という仕組みは提供出来ず、リスクの引き受けはそれくらい責任が重い、という事だ。

そしてサブリースとは空室リスクを引き受ける事に他ならない。当然それに見合った資金やリスク管理の仕組みが必要になるはずだが、そのような仕組みは無いようだ。これには本当に呆れてしまうが、それを確認せずに信用してしまう側も問題だ。

冊子では初めてアパートを建てる「素人大家」ならば消費者として保護されると法解釈が出来るのではないか、といった説明もなされているが、これも何とも苦しい説明が続く。いずれにせよ不動産会社が潰れてしまえば何の意味も無い。取引相手が倒産した所で誰かが保障してくれるわけではないと考えれば、結局は不動産投資のリスクからは逃れようがない。

こういった状況を投資の世界では「フリーランチ(タダ飯)は無い」と表現する。リスク無しでリターンは得られない、という当たり前すぎる話だ。

■リスクを取る人は「偉い」。
「被害」を受けた高齢夫婦を自己責任だ、と批判するのは心苦しいが、そもそもこれは被害と言っていいのか? 事業の失敗によるただの損失では?という事になってしまう。長嶋修氏はサブリースのルール整備について、残念ながらそういった話は全く進んでいないが番組を通じて問題意識が広がって欲しい、とコメントした。

つまり現状ではサブリースで損をしてもトラブルになっても自己責任になってしまう、という事だ。

今回の記事は不動産投資に否定的な書き方に見えたかもしれないが、資本主義の世界ではリスクを取る人が最も偉いと言っても過言ではない。不動産投資は上手くやれば少ない元手で多額の収益を得る事も出来る。そして株でも不動産でも起業でも、リスクを取る人がいなければ経済がストップすると考えれば、投資家は尊敬に値すると個人的には思う。しかし、それが蛮勇であってはならないはずだ。

不動産・ビジネスについては以下の記事も参考にされたい。
■不動産会社の「大丈夫」が全然大丈夫じゃない件について。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/44077052.html
■グーグルはなぜ新入社員に1800万円の給料を払うのか?
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43503648.html
■ライザップと行列ができる本屋の共通点 ~平凡な商品がバカ売れする理由~http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43405362.html
■マクドナルドの「原価」を調べてみた。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43707071.html
■「安定した雇用」という幻想。~雇用のリスクは誰が負うべきか?~
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/41886861.html

投資の世界ではプロもアマも素人も平等に扱われる。臆病者と言われるほどの慎重さが投資家には必要、とアドバイスしておきたい。

中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー


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著者プロフィール


シェアーズカフェ店長 ファイナンシャルプランナー
中嶋よしふみ。現在、34歳(FPとしては多分若手)。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。

2012年2月に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5ヶ月で月間アクセス14万件を突破。2013年は総アクセス500万件超(配信先も含む)、ヤフーのトップニュースに4回掲載される。ファイナンシャルプランナーとしてブログのアクセス数はダントツの日本一を誇る。

2013年4月にはアゴラ研究所主催の連続金融セミナーに登壇。山崎元氏、ライフネット生命現会長・出口治明氏、元マネックスユニバーシティ代表取締役・内藤忍氏など、金融業界を代表するメンバーと共にセミナー講師として参加(担当は住宅購入)。

2014年は住宅金融支援機構(フラット35)でセミナーを2回行う他、日本FP協会・長野支部にてFP向けセミナー(継続教育研修)に登壇。

現在、シェアーズカフェのブログのほか、日経マネー、日経DUAL、言論プラットフォーム・アゴラ、ブロゴス、ヤフーニュース個人、ハフィントンポスト等で執筆中。老舗情報サイト・オールアバウトでは住宅カテゴリでガイドを務める。

その他、日経新聞でコメントが掲載されるなど、多数の媒体で情報発信を行う。

対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを行う。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業を行っている。

プライベートレッスンでは、お客様ごとに最適化したレッスンと適切なアドバイスを組み合わせて高度なコンサルティングを提供中。他に無い独自のサービスがお客様の支持を得ている。

現在は専門家が書き手として多数参加するウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを編集長として運営するほか、ブログ執筆による集客の経験とノウハウを生かして士業・企業向けにウェブコンサルティングも提供する。

お金よりも料理が好きなFP。パティシエも兼任。

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