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マクドナルドの凋落が止まらない。2015年12月期には380億円の赤字予想となっているマクドナルドだが、今年前半だけですでに262億円の赤字であると公表した(2015年6月期中間連結決算より)。

マクドナルドに一体何が起きているのか。

■なぜマクドナルドは汚いのか?
マクドナルドの凋落に合わせて必ずと言って良いほど報じられている事が、店舗のクリンネス・清潔度の低下である。
男子トイレの清掃チェックリストを入れると思われるクリアファイルに、肝心のリストが見当たらない(西武新宿駅前店15時30分)。レジ前にあるラックにポテトの残骸が転がったまま(JR新宿南口店15時50分)。飲み残しのある紙カップやガムシロップがテーブルに置かれ、一部の液体が座席、床に散乱して拭かれていない(池袋西口店17時02分)。お客が持ち込んだと思われる市販のペットボトルが放置されている(渋谷東映プラザ店18時45分)――。

これらはマクドナルドの各店舗で、4月21日夕方のほんの3時間余りに筆者が目撃した光景だ。新宿、池袋、渋谷という東京都内でも屈指の繁華街にある主要店舗を集中的に10店近く回ってみた。
(マクドナルドができていない「基本中の基本」 東洋経済オンライン 2015/5/1)

床にはあちこちにポテトが散乱し、踏んづけられ、こびりついている。机は濡れたまま放置され、壁際に据えられたゴミ箱の投入口は、ソースやケチャップでベトベト。外国人と思しき恰幅のいい女性店員は、明らかにそれらが目に入っているにもかかわらず、知らん顔をしていた。

メニューに目をやると、8月4日に満を持して発売された今夏の目玉商品「アボカドビーフ」バーガーのパネルには、張り紙があり「売り切れ」と大書されている。
(262億円の大赤字! マクドナルドは何を間違えたのか・現代ビジネス・2015//9/2)

自分が過去に書いた「破れたソファーと落書きを放置するマクドナルドはしばらく復活出来ないと思う件について。(2015/2/6)」では、タイトルの通り、ソファーには落書きが書かれたまま放置され、しかもその破れた白いソファーは布ガムテープで補修されているというありさまだった。

■心無い「注文はお済みですか?」という声掛け。
いずれも今年書かれた記事だが、売上が落ちているからこのような状況なのか、この状況だから売り上げが落ちているのか。一体どのように考えればいいのだろうか。

先日六本木のマックに訪れた際も店舗内の汚れこそ無かったが、会計が終わり、レジ横で待っていたがいつまでたっても商品が出てこない。急ぎで直さなければいけない原稿があったために片手でノートパソコンを抱えながら作業をしていたが、気が付くと15分以上たっていた。店内は特に混んでいる様子も無く、15分の間に数組の客が会計を終えて商品を持ち帰っている。

以前記事で書いたお店と言い、マックとはなんだか相性悪いなあ……と思っていたところで「注文はお済みですか?」とマネージャーらしき店員に声を掛けられた。レジ横で待っている客が居れば、作り置きせずに注文を受けた後に調理をするマックの仕組みを考えれば別の店員に注文を受けたか先に確認すべきだろう。放置されたあげくにこれか……と呆れながら15分以上前の時間が書かれたレシートを見せた。慌てて商品が提供されたが、お待たせしました以外に特に謝罪の言葉も無かった。

自分は決してマックの来店頻度は高くない。引用した記事の記者も同様だろう。それでここまで不備が目につくという事は、根本的に清掃を含めた店舗運営の水準が下がっていると言わざるを得ない。現代ビジネスではかつて高水準だった顧客満足度指数が外食大手の中では最低水準にまで落ち、ライバルのモスバーガーには完敗の状況だと指摘されている。

■店舗が汚い事はフランチャイズ化が原因では無い。
来客数が減り、売上が落ちているのなら業務に余裕が出来ているはずだ。それならば清掃に時間をかける事も出来るだろう。それでも清掃面にケチをつけられるという事は客数の減少に合わせて人員を減らし、清掃に充てる時間がなくなっているのだろうか。それとも清掃はしているが適切ではないという事なのだろうか。

マックの不調でクリンネスと合わせて必ず言われる事がフランチャイズ化を推し進めたから、という事だがこれは正しくない。飲食業やコンビニ等ではフランチャイズは珍しくない。フランチャイズ化で業務レベルが必ず下がるのなら、そもそもフランチャイズという仕組みがこれほど世の中に広がっているわけもない。問題のありかが現場か本社かは別にして、仕組みでは無くやり方次第と考える方がよっぽど自然だ。

そして業績を回復させる第一歩として店舗を綺麗にしない事には何も始まらないだろう。そこでカサノバ社長にぜひ一読をお勧めしたい著書が「マンガでよくわかる ディズニーのすごい仕組み」という本だ。


■状況に流されて荒れていく店舗を高い水準で維持するには?
この本は「ディズニーの最強マニュアル」という著書を漫画化したものだ。業績が悪化するファミリーレストランを舞台に、ディズニー流のマニュアルとその運用方法を導入する事で業績が改善する、というストーリー仕立てになっている。マンガと文章で構成され、マンガ部分だけならば20分もあれば完読できる。

ディズニーランドでは従業員の9割がアルバイトで、しかも1年でその半分が入れ替わるという。それにもかかわらず高い業務レベルが維持できる理由が、最低限やるべき事がマニュアルで徹底され、より高度な本来の仕事(顧客を満足させるミッション)に注力出来ているからだという。

マクドナルドにも当然マニュアルがあり、やるべき事をやっているはずだが、現実には引用した記事にあるように店舗の汚れはたびたび指摘されている。

マンガで舞台となるファミリーレストランも、マニュアルはあるのにそれが守られていない。店舗内は汚く、客は会計を待たされ、にもかかわらず手持ち無沙汰の店員が店内をウロウロしている。主人公の女性が同期であるという店長に一体どうなっているのか?と問い詰めると以下のように反論する。

「伊東(主人公の事)はオペレーション改善部に入るまでは店舗の副店長だったんだよな? 聞くけど今指摘した部分は伊東の店舗では完璧だったんだよな?」

主人公は自身も同じ状況だった事を思い出し、返答に詰まる。店舗は常に状況が変わる。必ずしもマニュアルが守れない状況もあるだろう。これはマックが汚いとさんざん指摘されながら改善されない状況や、自分が注文後に放置された状況と見事に重なる。

■なぜアルバイトは仕事の手を抜くのか?
本書で指摘される事は「マニュアルの不備により、サービスの基準をアルバイト個々に任せていること」がトラブルの原因だという。清掃で言えば、たとえば「鏡を拭く」と手順だけが書いてあっても、どのように拭けばいいのか、どのレベルまで奇麗にすれば良いのか、そこまで書いていなければ意味が無い。

部下や後輩に指導をした事がある人ならば誰でも経験していると思うが、掃除に限らず自分の考える適正な水準と他人が考える水準は全く違う。丁寧に、と言ってもどれ位が丁寧なのかも人によって違う。そして飲食・サービス業の場合、アルバイトは言うまでも無く社員でも離職率は高い。

そもそも教える側も適正な水準を教わっていなければ、結果として店舗の清掃レベルはバラバラになる。上の立場の人間から見れば手を抜いているように、やる気が無いように見えるかもしれないが、実態は「手抜き」とか「やる気」の問題ではなく「答えを知らない」だけだ。

では適正な手順・水準をマニュアルに書いて教えればそれで終わりかというと、それほど単純な話ではない。本書によれば、業務に慣れた時に「なぜこの業務をこの水準で行わないといけないのか?」という点を理解していなければ、他にもやる事があるから、お客さんがたくさん来店して時間に余裕が無いから……と、状況に流されて結局は店舗の運営水準が下がる。これは店舗運営に限らずどんな業種・業態にでも言える事だろう。

■なぜ飲食店は綺麗であるべきか?
汚いお店に好き好んで行こうという人は居ない。客の目からはキッチンや調理している所は見ることが出来ない。すると、客はお店が綺麗かどうかは目に見える所だけで判断する。テーブルやソファー、トイレなどが汚ければ客はどう思うだろうか。料理も同じように汚い環境で作っているのではないかと想像する。お店から見ればそれがたったの一回でも客にとってはそれが全てだ。特に子連れの親にとっては味・価格以上に清潔かどうかは気になるポイントだろう。

結果として、不快感を覚えるほど汚れが目についてしまえば、本来ならば毎月1回、5年間来店してくれたかもしれないファミリー客が、二度と来ないと心に決めてしまうかもしれない。ここで失う売り上げは次回の来店分だけではない。ほとぼりが冷めたころにまた来てもらえるかと言うと、他に選択肢がいくらでもある以上、もう二度と来ない可能性は高まる。

家族で来店して一回2000円を使ってくれる顧客ならば、失う売り上げは5年で12万円と大きな額になる。このような考え方をライフタイムバリュー(LTV・顧客が生涯にわたってもたらしてくれる価値・利益・売上のこと)という。現在のマクドナルドはこのLTVを凄まじい勢いで失いつつある。

以下の記事も参考にされたい。
■年収1100万円なのに貯金が出来ませんという男性に、本気でアドバイスをしてみた。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/44746902.html
■1億円の借金で賃貸アパートを建てた老夫婦の苦悩。 
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/44769829.html
■なぜスイスのマクドナルドは時給2000円を払えるのか?
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43721475.html
■グーグルはなぜ新入社員に1800万円の給料を払うのか?
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43503648.html
■ステマ騒動でメディア・広告業界で揺れる中、ヤフーニュースとハフィントンポストに配信をしている編集長が考えていること。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/45335048.html

マクドナルドの状況は極めて厳しいが、現在の有利子負債はたったの5億円、自己資本比率は78.5%(2015年末時点)、株価の水準もリーマンショック以前よりも高く、資金調達面では何ら問題がない。倒産や破綻には程遠い状況だ。じっくりと改善に掛ける時間もあれば、資金的な余裕もある。マクドナルドがかつての栄光を取り戻す事が出来るのか、今後も注目したい。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
シェアーズカフェ・オンライン 編集長
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著者プロフィール


中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー(FP)、シェアーズカフェ店長、シェアーズカフェ・オンライン編集長。「保険を売らないFP」。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。開業から10年間、一貫して対面相談とウェブで情報発信を行う。2014年、シェアーズカフェ株式会社に法人化。現在は日暮里駅近くに事務所を構える。

情報発信は東洋経済オンライン、ITmediaビジネスオンライン、プレジデントオンライン、JBプレス、日経DUAL等の経済誌で執筆する他、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等で執筆・出演・取材協力多数(めざましテレビ、報道2001、スッキリ他、メディア掲載・取材協力の詳細を参照)

著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」、「一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人(大和書房)」。住宅本はAmazon・楽天ブックスの住宅ローンランキングで最高1位、Amazon総合ランキングでは最高141位。

対面ではファミリー世帯向けにプライベートレッスン(相談)を提供。生命保険の販売を一切行わず、金融機関・不動産会社のセミナー・広告等の業務も全て断り、相談料だけを受け取るFP本来のスタイルで営業中。

プライベートレッスンでは独自のカリキュラムを顧客ごとに最適化、相談・アドバイスと組み合わせて高度なコンサルティングを提供。特に住宅購入の資金計画、ライフプラン全体のアドバイスを得意とする。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。

2013年にはマネー・ビジネス分野の士業や専門家が参加する自社メディア、シェアーズカフェ・オンラインを設立、編集長に。2014年よりYahoo!ニュースに配信中。他にも編集プロダクション、専門家向けの執筆指導(オンラインサロン)、社長専属の編集者などの業務も提供。FP事業とメディア事業を車の両輪としてシナジーを経営者として日々追求。

お金よりも料理が好きな79年生まれ。

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