27419566

先日「最低賃金1500円を要求する人たちが勘違いしていること」という記事で、最低賃金アップを要求するデモについて言及しました。記事では「弱者救済には最低賃金の上昇ではなく失業保険や生活保護など社会保障の強化で対応すべき」と書いています。この記事は5000件のシェアを超えて多数の方に読まれましたが、デモの主催団体であるエキタスから反論を頂きました。
「所得を上げるには経済成長をすれば良い、という当たり前の結論しか出てこない。」って書いてあるけど、内部留保はガンガン増えてて、それが再分配されず、ブタ積みになってることは知ってるのかな?自民党ですら問題視してることだけど‥。

あとはこの記事は「最低賃金引き上げは雇用の悪化をもたらす」っていう典型的な都市伝説を垂れ流してるだけ。もうそれっていろんな学者が否定してるし、ドイツやアメリカの例でもそんなことにはなってない。

@valuefp あなた、最低賃金上げろデモが中小企業支援も主張してること知らないでしょ?
あといろんな経済的知識も抜けてるし、現状把握もできてないよ。
ただ印象操作したいだけの下らない記事書くなよ。いい加減な人だな。

出典:ツイッターのAEQUITAS /エキタス公式アカウントのツイートより。2015/12/17

上記の通り、ただの感想ではなく主催団体の公式アカウントから当方(@valuefp)に話しかける形でのつぶやきでした。ただの感想でしたら言及する必要は無いのですが、記事で取り上げた当事者から受け取った直接の反論を無視するわけにはいきませんので、回答したいと思います。

この短いコメントだけではどんな反論をしたいのか正確に分からなかったので、記事の形で書いてほしいと伝えたものの、まだ反応はありません。したがって彼らのHPと公式アカウントのツイートをもとに、回答をしたいと思います。

※公式アカウントをどなたが書いているのか分からないため、便宜的に「エキタスさん」と呼びたいと思います。

■最低賃金の上昇で雇用が悪化する、という「都市伝説」について。
まず、一つ目のツイートで内部留保については以下の記事を参考にして欲しいと思います。現在、内部留保で検索すると2~3番目あたりに表示されている記事です。

■女子大生でも分かる、内部留保と現金の違い。

こちらも参考になると思います。内部留保を使って給料を増やせ、という主張は考え方とか立場の違いは関係無く、単純な勉強不足による間違いです。

■日本企業は内部留保の1.6倍も設備投資を行っている。

二つ目のツイートには、最低賃金は雇用の悪化をもたらすという理屈は都市伝説である、この記事には経済的知識が抜けている、ともありました。自分は経済学者ではありませんので知識面を突っ込まれると自信がありませんが、なんとか説明したいと思います。

最低賃金の上昇が失業率を上げることについては多くの経済学者が合意しています。経済学者のマンキューは79%の経済学者がこの説に同意したと紹介しています。(Greg Mankiw's Blog: News Flash: Economists Agree 2009/02/14)

経済学を勉強したことがある人ならば家にマンキューのテキストが残っているかもしれません。なぜなら世界中の大学で彼のテキストが使われているからです。79%の経済学者が同意し、著名な経済学者であるマンキューが紹介する説がいつの間に都市伝説になったのか知りませんでしたが、最低賃金の上昇が失業率を上げる事は経済学的には極めてオーソドックスな考え方である事は間違いありません。

ただ、一方でその学説を否定する研究データもあります。

NHK・Eテレのオイコノミアで、お笑い芸人の又吉さんと共演している経済学者・大竹文雄氏はそれらのデータを1年未満の短い期間で調査した信頼性に欠けるデータもあるとやや否定的に言及しながらも、まだ調査不足で結論の出ていないテーマだと説明しています(対談 最低賃金を考える 特集「通説」を検証する 独立行政法人 労働政策研究・研修機構 2008年4月)。

オバマ大統領の元で経済政策を担当したアラン・クルーガーという経済学者も、最低賃金を上げても失業率は上がらないと、いくつか条件を付けながらではあるものの主張しています。マンキューもこれらの説に言及しています。(時給1400円まで「最低賃金」を引き上げるべきだ! それでも雇用は悪化しない 米経済学界の天才が「常識」をひっくり返す | The New York Times | 現代ビジネス)

アメリカ・ニューヨークに在住し、環境・社会問題の研究をされている田中めぐみさんは、アメリカ各地の最低賃金の上昇について、価格の上昇を招いていることや、地域によっては仕事に応募が殺到していること、失業率はかえって改善している地域もあること、賃金アップの負担が客とフランチャイズオーナーに転嫁され経営者や企業の利益から分配されていない可能性があることなど、各種メディアの報道をもとに客観的に書かれています。(最低賃金1800円条例が次々可決される米国、施行された都市では何が起こっているのか(田中めぐみ) - 個人 - Yahoo!ニュース)

■なぜデモは支持されないのか?
先日のデモを批判する自分の記事が5000件以上シェアされて、エキタスさんもヤキモキしているかもしれませんが、なぜデモを批判する記事がこれだけ多数の方に読まれたのか、ぜひ考えて欲しいと思います。

それは経済学の基本的な原則を「都市伝説」と軽視し、一方で自らの主張の根拠を示さず、強引に意見を押し通すような姿勢が多くの人に受け入れられていないからです。

上記の通り、自分は前回の記事を否定しかねない不利な情報も自ら紹介しました。建設的な議論を行うには、フェアな立場でメリットとデメリット、両方を並べて検討する必要があるからです。自らの意見を否定する情報や根拠については、本人よりも意見が対立している相手の方が詳しいはずですから、デモを批判する記事がたくさん読まれていると分かった時点でエキタスさんの側が本来提示すべき情報です(なので文章で反論をお願いしました)。異なる意見がぶつかればより良いアイディアが生まれると自分は考えていますので、自分の意見が否定されてもそれはそれで構いません。

主義主張はどんなに偏っても自由ですが今回のデモに欠けているのはそういった謙虚で客観的な姿勢です。自分の意見が中立公正であるとは全く思っていません。偏っている事は重々承知していますが、必ず客観的なデータで意見の裏付けをするように記事を書いています。

■反論が来ることも織り込んで主張をすべき。
エキタスさんのHPの文章も全て読みましたが、主張は載っていても根拠が示されていません。例えば上記の現代ビジネスに掲載された記事や田中めぐみさんの記事などはエキタスさんにとって主張を裏付け・補強する極めて有効な根拠になると思いますが、全く触れていません。

エキタスさんのHPではブラック資本主義への宣戦布告、という文章が掲載されています。ざっくりと要約すると、日本には雇用に関する問題が多数あり、さらに改悪されようとしている、生活に困っている人も多数いる、最低賃金は上がっているが全く足りない、この問題を解決するには最低賃金を時給1500円にすべきである、最低賃金の引き上げこそが最大の景気対策である、との事です。

何となく筋は通っているように見えますが、全てエキタスさん独自の意見であり、これを正しいとする客観的な根拠が一つも示されていません。

最低賃金を上げて低所得者を救済すべきと主張すれば、「そんな事をすれば雇用が悪化してしまう、会社が潰れてしまう」という反論が来ることは目に見えています。経済学的にはそれが常識だからです。そうであればその反論を事前に織り込んでおくことが、意見を主張する際に必要な当然のテクニックです。

まだ結論の出ていないテーマだと書いた通りですから、上手く理論を展開すれば十分説得力のある主張を組み立てる事は可能なはずです。

■失業保険と生活保護の致命的な欠陥。
自分が一つ疑問思っている事は、エキタスさんがHPで社会保障に全くと言って良いほど言及していないことです。記事への批判コメントでも、生活保護や失業保険をもっと周知徹底すべき、強化すべき、という意見について正しいとも間違っているとも何も言及がありません。

失業保険(雇用保険)は勤続年数が長いほど、給料が多いほど沢山貰えますから、強者に手厚いおかしな仕組みです。最も失業保険が必要な非正規雇用者にいたっては対象外です。それにもかかわらず失業保険は多額の積立金が余っているからと保険料を下げているような状況です。もっと救うべき人は居るにもかかわらずです。

生活保護は各自治体が受付窓口で追い返す水際作戦や、貰うと恥ずかしいというおかしなイメージが蔓延した事で、補足率は2割程度という調査結果もあります。生活保護の受給額は3兆円を突破していますが、本来は5倍の15兆円が正しい額かも知れないわけです。この問題については「生活保護はもっと気楽に貰って良い」「生活保護費は増やしても良い」「警察OBが生活保護の水際作戦で採用されている件と、超簡単な突破方法」と、いくつかの記事でも言及しました。

これら社会保障の問題より最低賃金を時給1500円にする方が優先順位が高いとは到底思えません。上記の通り、最低賃金は意見の分かれる面がある事はある程度認めます。ただ、早急に是正すべき社会保障の問題に一切言及しないのはなぜなのか不思議でなりません。エキタスさんにはぜひ社会保障をどうすべきか、セットで提案をしてほしいと思います。

■医療と経済政策の共通点。
なぜこんなことを書くのかというと、エキタスさんだけでなく、先日のシールズのデモなどを見ていても、自らの主張に根拠を持たせて多くの人に受け入れられる形にする……という当たり前の事をやらないケースが最近多くみられるようになったからです。

医療の世界ではEBM・根拠に基づいた治療(エビデンス・ベースド・メディシン)が原則とされています。ここで言う根拠とは効果がある事が科学的に認められている、という意味です。その逆にあるのが民間療法です。

民間療法が全て効果が無いという事ではありませんが、効果が有るか無いか分からない事を医者は実施しません。経済政策は多くの人の命に関わるものです。したがって、医療と同じくらい慎重に根拠を示すべきですが、エキタスさんの提案は全て「民間療法」の域を出ていません。

自分は普段、シェアーズカフェ・オンラインというウェブメディアの編集長として書き手に執筆指導をしています。日本語になっていない、読んでいて疲れる、こんな記事書くと訴えられる、など罵倒に近いほど厳しい指導をしていますが、特に注意して伝えているのが根拠をきっちりと示すことです。根拠のない意見はただの妄想です。

ここで言う根拠とは、データ・ファクト・ロジック(数字・事実・論理)です。もし自分が運営するウェブメディアで、最低賃金を1500円に上げれば低所得者は救われる上に景気は回復する、という主張をエキタスさんのHPにあるような文章で書き手が書いたら、真っ赤に添削して書き直しを命じると思います。それくらい根拠が全く示されていません。

なんでそんな根拠を示さないといけないんだとか、デモでそんな複雑な話が出来るわけない、と思うかもしれませんが、そこまでしないと一般人は説得できませんし、HPならばスペースは無限ですから説明できないということはありません。

デモへの批判記事を書くと、声を上げる権利はだれにでもあると反論を受けることもあります。それは間違っていませんが、デモに耳を傾ける義務は一般人にも政治家にもありません。根拠のある主張ならば反対意見の人でも耳を傾ける可能性はありますが、ただ文句を言っても無視をされるだけです。

デモはシンプルで絶対的に正しい意見を主張するには一つの手段になりえると思いますが(例えば薬害エイズ問題で厚労省に抗議をしたデモなど)、経済的な問題、しかも最低賃金という複雑でまだ結論も出ていない問題を主張するには手段としてあまり向いているとは思えません(これはあくまで私見ですが)。

長くなってしまいましたので、続きは次回書きたいと思います。

【参考記事】
■マクドナルドの「時給1500円」で日本は滅ぶ。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43641340.html
■なぜスイスのマクドナルドは時給2000円を払えるのか?
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43721475.html
■安定した雇用」という幻想。~雇用のリスクは誰が負うべきか?~ http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/41886861.html
■最低賃金1500円を要求する人たちが勘違いしていること。 http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/46343813.html
■世帯年収1350万円でも住宅購入を迷う夫婦の「理由」
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/46317540.html

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
シェアーズカフェ・オンライン 編集長
●ツイッターアカウント @valuefp  
フェイスブックはこちら 
ブログの更新情報はツイッター・フェイスブックで告知しています。フォロー歓迎します^^。
※レッスン・セミナーのご予約・お問い合わせはHPからお願いします。
※レッスン・セミナーのご案内はこちら


●住宅購入の本を書きました。
住宅ローンのしあわせな借り方、返し方 (日経DUALの本)
中嶋 よしふみ
日経BP社
アマゾンランキング: 住宅ローン部門最高1位 総合最高141位 
楽天ブックス:住宅ローン部門最高1位




シェアーズカフェからのお知らせ
 ■シェアーズカフェでは住宅・保険・投資・家計管理など、お金に関するレッスンを提供しています。中嶋が直接指導します。
 ■シェアーズカフェが士業・企業・専門家向けのウェブ・コンサルティングを行います。


著者プロフィール


シェアーズカフェ店長 ファイナンシャルプランナー
中嶋よしふみ。現在、34歳(FPとしては多分若手)。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。

2012年2月に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5ヶ月で月間アクセス14万件を突破。2013年は総アクセス500万件超(配信先も含む)、ヤフーのトップニュースに4回掲載される。ファイナンシャルプランナーとしてブログのアクセス数はダントツの日本一を誇る。

2013年4月にはアゴラ研究所主催の連続金融セミナーに登壇。山崎元氏、ライフネット生命現会長・出口治明氏、元マネックスユニバーシティ代表取締役・内藤忍氏など、金融業界を代表するメンバーと共にセミナー講師として参加(担当は住宅購入)。

2014年は住宅金融支援機構(フラット35)でセミナーを2回行う他、日本FP協会・長野支部にてFP向けセミナー(継続教育研修)に登壇。

現在、シェアーズカフェのブログのほか、日経マネー、日経DUAL、言論プラットフォーム・アゴラ、ブロゴス、ヤフーニュース個人、ハフィントンポスト等で執筆中。老舗情報サイト・オールアバウトでは住宅カテゴリでガイドを務める。

その他、日経新聞でコメントが掲載されるなど、多数の媒体で情報発信を行う。

対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを行う。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業を行っている。

プライベートレッスンでは、お客様ごとに最適化したレッスンと適切なアドバイスを組み合わせて高度なコンサルティングを提供中。他に無い独自のサービスがお客様の支持を得ている。

現在は専門家が書き手として多数参加するウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを編集長として運営するほか、ブログ執筆による集客の経験とノウハウを生かして士業・企業向けにウェブコンサルティングも提供する。

お金よりも料理が好きなFP。パティシエも兼任。

メディア掲載・取材協力の詳細はこちら。

※レッスン・セミナー・相談は全て中嶋が直接対応します。ご予約・お問い合わせはシェアーズカフェの公式HPからお願い致します。


このページのトップヘ