00r

以前、安倍総理が国会の答弁でパートの月収を25万円と話したことが話題になった。そんなに稼げるパートがどこにいるんだ、正社員だってもっと低い人もいる、と野党から集中砲火の状態だった。

この答弁については例え話をしただけ、パートで25万とは言ってない、など反論もしているようだが、収入の話は生活と直結しており、それだけ多くの人が気にしているということだろう。

■年収300万円が負け組だった時代。
経済評論家・森永卓郎氏の「年収300万円時代を生き抜く経済学」という書籍がベストセラーになったのは2003年、10年以上も前だ。当時、年収300万円は決して恵まれた数字とは言えない、はっきり言えば負け組とみられていたということだ。平均年収400万円程度と、当時から10年経ってさらに1割ほど下がった今となっては、正社員の身分で年収300万円ならば負け組とはとても言えないだろう。


ではもっと低い給料では生活は出来ないのだろうか。お金のプロであるファイナンシャルプランナーとしてアドバイスしてみたい。

※計算を簡略化するため、本文の収入は原則として税金・健康保険料・年金保険料を引いた後の手取りで表記します。収入・支出ともに首都圏の水準を前提にします。

■まずは結婚。
多くの人が結婚を考える30歳前後の平均年収は、20代後半が339万円、30代前半が384万円となっている(民間給与実態統計調査・平成25年・国税庁)。タイトルに書いた年収240万円は平均をかなり下回る。月給20万円でボーナス無しという前提で、首都圏ならばコンビニや飲食店の深夜アルバイトでも上回ることが出来る、決して高くはない水準だ。ただ、これでも二人で結婚をすれば世帯年収が480万円になり、十分生活出来る金額だろう。

支出については、一人暮らし二人分の生活費より二人で一緒に暮らした方が支出は確実に抑えられる。

家賃を月に10万円、年間120万円と考えてもまだ360万円の余裕がある。家賃を含めて月の生活費を30万円(年間360万円)としても、120万円貯金が出来る。これだけ余裕があれば、例えば子供が出来てどちらかの収入が何割か減っても、収支はギリギリでマイナスにならずに済む。一時的なマイナスならば結婚してから貯金をしておけば十分耐えられる。

結婚式にお金がかかるというのも誤解だ。結婚式の平均価格は300万円程度ということになっているが、今は10万円もあれば式を挙げられる。少人数結婚式専門で有名な「小さな結婚式」では税込6.7万円だ。余裕のある人だけお金をかければ良い。

お金が無いから結婚出来ない……ではなく、お金が無いからこそ結婚すべき、ということになる。

■衣食住はどうすれば良い?
収入が二人合わせて500万円未満というのは、平均的な世帯よりも低い。首都圏ならばなおさらだ。では生活できないほど低いのかというと全くそんな事は無い。まずは衣食住の住から考えてみたい。

現在、都内でファミリー向けの新築マンションを買うと最低でも5000万円はかかる。通勤の利便性を考えると6000万円位はすぐに超えてしまう。自分が普段、住宅購入の相談でアドバイスをするのも価格帯としてはおおよそ6000万円程度だ。

この価格帯で家を買う人は、都心部に本社を構える大手企業で長時間労働の激務に従事している。そこで通勤時間を少しでも短くする必要があるため、埼玉や千葉ならば何割も安く買えるのにこれだけ高い金額を払って都内に買わざるを得ない。つまり高い収入を維持するために高い家を買うという、ある意味でおかしな状況に陥っているわけだ(だから在宅勤務が普及すれば都内の不動産価格は大きく下がってもおかしくない)。

収入の低い人が無理して都内に住む必要は全くない。不動研住宅価格指数(旧東証住宅価格指数)を見ても、東京・神奈川の不動産価格は千葉・埼玉より3割ほど割高だ。当然これは賃料でも同じで、収入の低い人は埼玉か千葉に賃貸で住めば良い。最近では駅近が好まれるため、駅から少し離れるだけでも賃料は下がる。当然、その地域の物価には不動産コストも含まれるため、都内より千葉・埼玉の方が物価も安いことが多い。

■コンビニ弁当は贅沢です。
次に衣食住の食だが、これはもう外食を辞めて下さい、というのがシンプルな回答になる。例えば1人当たり食事だけで5000円、2人で1万円かかるお店は飲食店としては安くは無い。ただ飲食ビジネスの構造上、食材費は料金の3割程度しか掛かっていない。

一食1500円の食事に5000円も払っていると考えれば、外食は贅沢の極みということになる。1500円あれば家族4人分の夕食を作ってもおつりが出る。

とある人気お笑い芸人は、売れていない頃でも相方が料理上手でいつも旨いモノを食べていたから、ハングリー精神が他の芸人より弱かったかもしれない、といった話をしていた。貧乏生活でも料理をすれば美味しい食事は簡単に作れるということだ。

今はネット上に一生かかっても作り切れないほど多数のレシピが掲載されている。知人が運営する野郎飯というレシピサイトでは分量を「たべたいだけ」と表記しているが、こういったブログを読むと料理なんてテキトーに作っても十分旨く出来ることが分かる。料理好きな自分からすれば手料理と比べればコンビニ弁当でさえ贅沢だ。

■全身ユニクロでお洒落になる方法。
衣食住と、これら三つの水準を低く抑えると生活の満足度が大幅に下がる。ただ、高いお金を出さなくてもセンスと工夫で補うことは十分可能だ。住まいと食については既に書いた通りだが、衣服でも同様だ。

現在、最速でおしゃれに見せる方法というファッション本がベストセラーとなっている、メンズファッションバイヤーMB氏によれば、全身ユニクロでもお洒落に見せることは十分可能だという。詳しくは本書を読んでほしいと思うが、洋服は価格やブランドよりも「ドレスとカジュアルのバランス」が重要なのだという。



MB氏が書籍や各種コラムでお勧めする商品を見ると、確かにお洒落で品質の高い洋服がユニクロで売られている事が分かる。例えば具体的に商品名を挙げるなら、エキストラファインメリノのセーターはユニクロのタグを隠せば1万円と言われても信じてしまうほどの品質だというが、定価は3000円程度だ。

スーツが必要な人でも、現在ユニクロでオーダーのシャツ、そしてセミオーダーのジャケットまで始めたようだ。同じ素材のパンツを合わせればスーツとして着用できる。上下合わせて2万円程度だ。特にこだわりの無い人ならこれで十分過ぎるだろう。誰もスーツのタグなんて見ない。

ファッションセンスに自信の無い人はゾゾタウンでおなじみのスタートトゥデイが運営するWEARというアプリで、お洒落な人を真似すれば良い。購入する服はユニクロでも、もっと安いGUでも十分だ。ブランド物がどーしても欲しい人はネットオークションを利用すれば中古の服をユニクロ価格で手に入れる事も可能だろう。

■低収入は情報でカバーできる。
このように見ていくと、結局は情報次第で収入の低さはかなりの部分でカバーできることが分かる。情報の入手に必要なネット環境も、携帯電話ならば格安SIMを使えば月に1000円ちょっとで利用できる。自宅のネット環境もパソコンも安物で十分だ。物価が上がったと言われる現在でも、まだまだローコストで生活をする事は十分可能だ。

最近ではミニマリストと言って無駄なものは一切持たない生活が話題になっている。確かにミニマリストを実践している人の部屋を見ると、すっきりとした空間がかえって豊かに見える。ゴチャゴチャとモノの多い部屋の方がよっぽど貧乏臭い。これもセンスということになると思うが、洋服店でも高級ブランドのお店は商品を山積みにして販売することはまずない。数が多い事は高級感を醸し出す際に邪魔になるからだ。

■バイキング式のレストランで給仕を待つ君たちへ
最後に、ローコストの生活術は良いとして、低い収入のままではいたくない、なんとか抜け出したい、という人にはこんな記事を紹介したい。元祖アルファブロガーとして有名な小飼弾氏が8年ほど前に書いた記事だ。

404 Blog Not Found:バイキング式のレストランで給仕を待つ君たちへ

記事の内容は、無料(もしくは安価)で利用できる図書館やインターネットなどを指して、世の中にはあなたを助けてくれる人は居ないかもしれないが、「宛名の無い善意」が多数ある、これらを利用して自助努力を重ねれば苦境を抜け出すことは出来る、と書いてある。つまり「料理」は沢山並んでいるのだから、料理が無いと嘆くより自分でお皿に取り分ければ良い、自己責任という大袈裟な話ではなくお皿に盛るという「自助努力」をすれば良いだけだ、と話を食べ放題のバイキングになぞらえて説明している。

この記事が書かれた2008年当時、自分はいつかファイナンシャルプランナーとして独立をしたいと考えていたが、全く将来は見えていなかった。周囲でも誰一人として自分がFPとして成功できると思っている人は居なかった。お金の相談でお金を受け取る、というビジネスモデルがそもそも全く一般的でなかったのだからある意味で当然だ。

ただ、この記事に勇気づけられたことは良く覚えている。こうやって無料で読める記事を自分が沢山書く理由の一つに、「宛名の無い善意」で食えるようなったという感謝の念がどこかにあることは間違いないと思う。

■自己責任ではなく自助努力を。
先日、最低賃金を時給1500円に上げろ、というデモを批判した記事(最低賃金1500円を要求する人たちが勘違いしていること。)を書いた際には一部に反発もあった。今回の記事も、最低賃金で計算すれば240万円なんてもらえない、という反論が必ず来るだろう。しかし、最低賃金は働いた経験が一切ない高校生にも適用されるものであり、高校生と同じ水準の賃金で何十年も働くつもりなの?ということになる。

デモの批判記事への反響を受けて書いた、最低賃金1500円デモの批判記事を書いたら主催者から反論が来たので回答してみたでも説明したように、生活の保障は国が失業保険や生活保護で行うべきであり、その点についてはもっと強化すべきだが、最低賃金はセーフティネットではないということだ。いつ潰れるか分からない企業に生活の保障を求めることはあまりに危険だ。

子育て支援や社会保障が充実していて、勤務先がブラック企業でなければ、今回書いたように収入が低くても平穏無事な生活を送る事はできる。国の役目はこういった面で生活を下支えする事であり、無理やり最低賃金を上げることではない。

(蛇足になるが、平均年収が1000万円を超えるような就職ランキングでも上位にある人気企業では、過労死基準を超える長時間の残業が横行している。非正規雇用者の低賃金は度々批判されるが、大手企業はその反対側では優秀な人に高給を払いながら限界まで長時間労働を強いている。自分はそういった人の相談に多数のっているが、このままでは死んでもおかしくないのではと心配になってしまう。とても誰もが出来る、あるいはうらやむような働き方ではない)

衣食住に収入、いずれも工夫と自助努力で改善は出来る。困難な状況に陥った人であっても、生活保護や失業保険の貰い方でさえネット上には書いてある。

「自己責任なんて大袈裟な話ではなく自助努力を」

自分が受け取った言葉を、改めて自分も贈りたいと思う。

【関連記事】
■最低賃金1500円を要求する人たちが勘違いしていること。
■最低賃金1500円デモの批判記事を書いたら主催者から反論が来たので回答してみた。
■マクドナルドの「時給1500円」で日本は滅ぶ。
■なぜスイスのマクドナルドは時給2000円を払えるのか?
■警察OBが生活保護の水際作戦で採用されている件と、超簡単な突破方法。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
シェアーズカフェ・オンライン 編集長
●ツイッターアカウント @valuefp  
フェイスブックはこちら 
ブログの更新情報はツイッター・フェイスブックで告知しています。フォロー歓迎します^^。
※レッスン・セミナーのご予約・お問い合わせはHPからお願いします。
※レッスン・セミナーのご案内はこちら




著者プロフィール


中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー(FP)、シェアーズカフェ店長、シェアーズカフェ・オンライン編集長。「保険を売らないFP」。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。開業から10年間、一貫して対面相談とウェブで情報発信を行う。2014年、シェアーズカフェ株式会社に法人化。現在は日暮里駅近くに事務所を構える。

情報発信は東洋経済オンライン、ITmediaビジネスオンライン、プレジデントオンライン、JBプレス、日経DUAL等の経済誌で執筆する他、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等で執筆・出演・取材協力多数(めざましテレビ、報道2001、スッキリ他、メディア掲載・取材協力の詳細を参照)

著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」、「一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人(大和書房)」。住宅本はAmazon・楽天ブックスの住宅ローンランキングで最高1位、Amazon総合ランキングでは最高141位。

対面ではファミリー世帯向けにプライベートレッスン(相談)を提供。生命保険の販売を一切行わず、金融機関・不動産会社のセミナー・広告等の業務も全て断り、相談料だけを受け取るFP本来のスタイルで営業中。

プライベートレッスンでは独自のカリキュラムを顧客ごとに最適化、相談・アドバイスと組み合わせて高度なコンサルティングを提供。特に住宅購入の資金計画、ライフプラン全体のアドバイスを得意とする。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。

2013年にはマネー・ビジネス分野の士業や専門家が参加する自社メディア、シェアーズカフェ・オンラインを設立、編集長に。2014年よりYahoo!ニュースに配信中。他にも編集プロダクション、専門家向けの執筆指導(オンラインサロン)、社長専属の編集者などの業務も提供。FP事業とメディア事業を車の両輪としてシナジーを経営者として日々追求。

お金よりも料理が好きな79年生まれ。

ご予約・お問い合わせはこちら。(レッスン・相談は中嶋が対応します)。

 


このページのトップヘ