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9月7日、飲食店の口コミサイト・食べログを運営するカカクコムの株価が急落し、取引時間中には1555円と年初来最安値を更新した。原因はその直前に起きた炎上騒動によるものと思われる。その後株価は持ち直し、幸いなことに炎上以前の水準に戻している。

炎上の原因は飲食店経営者がツイッターで、食べログの星の数(ランキング)が突然下がった、これは食べログが提供する有料の予約システム導入を断ったことが原因ではないのか、とつぶやいたことがきっかけだ。このつぶやきはツイッター上で大量に拡散された。「食べログは口コミで決まるはずの星の数をお金で操作しているのでは?」と、サイトの信頼性にまで疑念が発展した。

なお、この件について食べログは、星の数・ランキングを恣意的に操作することは無いと取材に答えている(「食べログ」の標準検索は「広告枠」とカカクコム 「いきなり3.0点にリセット」の理由は  ITmedia ニュース 2016/09/08)

改めて食べログが炎上した根本的な問題を考えてみたい。

■食べログは口コミサイトなのか?
食べログは口コミサイトである……多くの人がそのように認識していることは間違いないだろう。しかし、カカクコムはITメディアの取材に対し、店舗から広告料や予約システムの利用料としてお金を受け取っている事をハッキリと説明している。

食べログの表示画面を見ると、左から標準・ランキング・口コミ数・ニューオープンと4つの表示方法を選択できるようになる。例えば東京都のレストランを探そうとトップページで東京を選ぶと、まずは「標準」が表示される。この画面で、より詳細な場所や飲食店のカテゴリを選んだり、星の多い順(ランキング)に並び替えることが可能だ。

食べログの説明によるとこの「標準」は広告料の影響が加わっており、飲食店向けの案内でもランチタイムやディナータイムに上位表示するための広告メニューがある。これはネット上で誰でも見ることが可能だ。現在最も高額なプランは「プレミアム10プラン」という名称で月額10万円+税金で広告表示や予約機能等を提供しているようだ(「食べログ店舗会員のご案内」のページより)

ただし、ITメディアの取材時点(9/7)ではこの「標準」の表示順位が広告料の影響を受けていることが食べログのサイト上では明記されておらず、記者から広告だと分かる表記はしないのか?との問いに「今すぐに変更する予定はないが、表記などについて検討していく」とカカクコムは回答している。

本稿の執筆時点(9/20)では、「標準」とだけ表示されていたものが「標準【広告優先】」という表記に変更がなされている。また「標準」の並び順について、というリンクもあり、FAQの一番上で以下のように説明されている。


Q 「標準」はどういう順番で並んでいるのですか?
A 食べログの広告サービスを利用しているお店が優先的に表示されています。
「標準」検索では、情報を積極的に発信されているお店をより多くの皆様に紹介するという考え方に基づいて、食べログの広告サービスを利用して様々な情報を登録・掲載中のお店が優先的に表示されています。広告サービスのプランや使用する機能によっても優先順位は変わります。

FAQ あなたの疑問にお答えします 食べログ・公式サイト


■広告表示の無い広告はステマである。
ここ数年、ステマという言葉が各種メディアで吹き荒れた。ステルスマーケティング、略してステマは簡単に説明すると「コンテンツのフリをした広告」だ。例えば話題の商品を取材した記事に見せかけて実は企業がお金を払って宣伝を出版社にお願いしていた、あるいは芸能人がブログで「私のお気に入りの化粧品はコレ」と愛用品を紹介するフリをしてメーカーからお金を受け取っていた、と言った事例だ。

現在こういった広告は問題のある宣伝手法として、JIAA(インターネット広告推進協議会)でガイドラインが策定され、広告である事を明記するように取り決めがなされている。記事のタイトル、文中、文末等にPR・広告・スポンサード、といった表記が付いた記事を見たことがある人も多いだろう(実際は広告の表記をつければ何をやっても良いわけではないが、本稿の意図からズレるので割愛する)。

食べログは口コミサイトであり、一般的なメディアではない。しかし、食べログの仕組みはCGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)と言って、ユーザーが作り上げていく「メディア」でもある。過去に人材採用サイトのインタビューでは、カカクコムの社員が当社のサイトはCGMである、とも明言している。そうであるならばPR表記は必須だと言える。今まで広告表記が無かったことは明らかに問題だろう。

では、遅ればせながらも広告の表記をした事で問題は一件落着となったのだろうか。実際はそうではなく、おそらくこれからが食べログにとっての正念場ではないかと思われる。なぜならほとんどのユーザーはそもそも食べログに「広告料」という概念があるとは思っていなかったからだ

当初の炎上は星の操作疑惑からスタートしたが、その後は「なんで口コミサイトなのにお店から広告料を受け取ってるのか?」というビジネスモデルへの疑問がさらに拍車をかけたようにも見える。

※ただし、広告優先とまで明記してFAQの一番目立つ場所に説明を加えたこと自体は評価して良いと思う。大抵のメディアはいかに広告表記を目立たせないようにするか、という馬鹿な努力と工夫をしている。

■ぐるなびに載っていないお店に価値があった?
食べログがスタートする以前、飲食店の情報サイトとして圧倒的な存在感を示していたのが「ぐるなび」だった。一方で誰もが見られる情報サイトに載ってしまったお店に対する違和感を持つ人も一定数おり、SNSサイトのミクシイ全盛期には「ぐるなびに載っていないお店」といったグループが作られ、何万人も参加者がいた。

食べログは2005年にスタートと飲食店の情報サイトとしては後発だと思うが、短期間でこれだけの影響力を持つにいたった理由はお店からの宣伝ではなくユーザーにとって「自分たちの側に立っているサイト」という印象を強く与えたことが勝因だろう。現に、ぐるなびやホットペッパーにPR表記を載せるべきといった話にはならない。これらのサイトはお店発の情報であると多くの人が理解しているからだ。

食べログが広告表記をせざるを得なくなった理由は、メディアとしてそれだけ利用者から信頼されていた証だった事も意味する。しかし、そのビジネスモデルは正しいのだろうか?

■広告と口コミは相反する。
過去の資料をみると食べログは2009年から飲食店向けに有料で広告商品等を販売していたようで、昨日今日に始まったことでは無い(飲食店クチコミサイト「食べログ」、店舗向けの有料情報掲載サービスを開始:ITpro 2009/03/11)。

炎上騒動の発端となった飲食店経営者の告発について、自分は確認するすべはない。しかし、経営者の言い分は予約システムの購入を断ったら星の数を減らされた、というとんでもない内容である。これが事実であればサイト存続の危機だろう。

ITメディアの記事ではアルゴリズム(計算式・ルール)の変更で9月6日に一斉に星の数が変動したという。飲食店経営者の話を「星の恣意的な変更は一切無い」という前提で考えれば、広告や予約システム導入による順位の変動と星の数の変動を誤解した、あるいは誤解させるような説明があったのではないかと推測される。

しかし誤解がどちらかに、あるいは双方にあったのか、誤解させる意図は無かったのか、これは食べログの信頼性に関わる極めて重要な話だ。本来であればカカクコムにとって第三者委員会を作って検証するレベルの深刻な問題ではないのか。

厳しいことを言えば、新しい広告商品や予約システムの販売時期とアルゴリズムの変更時期が重なってしまえばこういったトラブルが起こる可能性は予見できたはずだ。混乱を避けるためにも事前に飲食店側に、あるいはユーザーも含めてアルゴリズム変更を公表するべきでは無かったのか。グーグルは検索結果を大きく変える変更を行う場合、事前に告知をする事もある。これは見習うべき事例だろう。

そして、さらに言えば食べログはそもそも広告商品に手を出すべきでは無かったのではないだろうか。飲食店からは広告料を受け取り、一方でユーザー向けには口コミサイトとして運営し、両者に異なる姿を見せるかのようなビジネスモデルが炎上の根本的な原因ではないのか(店舗に広告や予約システムの販売をしていなければ今回のような問題は起きようがない)。今回の炎上はそういった齟齬・ズレが原因となった、起こるべくして起こったトラブルではなかったのか。

これは悪意や故意があったというより、慌てて広告表記をつけたことからもうかがえるように、本来慎重さが求められるメディアにとっての広告の扱いがあまりに雑だったということだ。

新聞・雑誌・テレビなどの各種メディアは報道やコンテンツの制作と広告の関係を極めて慎重に扱っている。企業からカネを貰ってるからあの会社の不祥事をニュースで扱わないんだ、などと疑われればメディアとして存続すらできなくなるからだ。

■食べログの理念はどこにあるのか?
カカクコムで食べログの立ち上げに携わった村上敦浩氏(現・カカクコム取締役)は過去のインタビューで以下のように答えている。

――グルメサイトは以前「ぐるなび」や「ヤフーグルメ」などが先行して有名でしたが、なぜあえてグルメのサイトを作ったのですか。

村上 私自身も食べ歩きが好きでいろんなサイトを利用しましたが、なかなか身近でいい店が見つからなかったんです。だいたいのサイトは店がお金を出す広告型のサービスで、大規模なチェーン店や有名な店は載っていても、実は身近にありながらも知られていない本当に美味しいお店が出ていません。それに、サイトを見て実際に行ってみると、店側の提供している情報とこちらの期待していたことが違っていたりしてがっかりすることもよくありました。

「食べログ」村上敦浩さんインタビュー(上):口コミの集積がビジネスになった理由 WEBRONZA 2012/12/21


これは食べログの理念として分かりやすく、ユーザーもまさにこれを求めて利用していたのになぜ広告を導入したのか、ということになるだろう。

前述の通り食べログが飲食店向けに広告や予約システムを売っている事はウェブを検索すれば簡単に出てくる。隠していたそぶりは全くなく、広告表記も開始した現在ではステマとは言えない。しかしユーザーに提供する価値として、そもそも飲食店に広告を売るべきなのか? 広告と口コミが同居している時点で口コミの信頼性が落ちてしまうのではないか? 当初の理念と明らかにずれているのではないか? ということになる。

食べログでは誹謗中傷コメントを禁止するなど、ガイドラインもかなり厳しく運用している。これは当然の措置だが、店舗から広告料を貰いながら口コミサイトを運営しているのであれば、都合の悪い口コミを削除しているのでは?という疑いにつながってしまう。

そんな事はやっていないと説明しても信用するかどうかはユーザーの判断だ。繰り返すが口コミと広告は相反するもので、広告を掲載するのであれば「飲食店の経営に一切携わっていない企業」に限定すべきだろう。余計なお世話の一言で片づけられそうだが、食べログが本来ユーザーに提供するコアとなる価値は何か?と考えれば、口コミとそこから生まれる星の数の信頼性に食べログ自身があまりに鈍感すぎるのではないのか。

■やったモノ勝ちのビジネスからの脱却を。
IT系のビジネスでは散々トラブルを起こしながらも急速に発展し、最終的にはルールを整えて、なんだかんだで便利なサービスなので支持されるようになる、というものは少なくない。Youtubeはその代表格で、現在進行形では配車アプリのUber(ウーバー)や民泊サイトのAirbnbがあげられる。

現在キュレーションアプリでは圧倒的な強さを誇るスマートニュースも、開始当初は他社の記事を勝手に掲載するという無茶苦茶なアプリだった。一方でその便利さからユーザーは瞬く間に増加し、まさにやったモノ勝ちのビジネスそのものだった。しかし、その後は藤村敦夫さんというウェブメディア業界で実績のある有名な人物を役員に迎え、メディアとの関係修復に努めた。具体的にはボロクソに批判をされながらも、執行役員である藤村氏が自らお詫び行脚をすることでトラブルを収めたという(SmartNews藤村厚夫「読者はどうやってコンテンツと出会うのか?」 cakes 2015/09/21)

自分が運営する小規模なブログやメディアにまで藤村氏があいさつ回りに来た、と言えばそれがどれだけ徹底した対応か分かるだろう。現在は当然のことながら記事の無断利用はなく、関連リンクや広告の表示で配信元に利益を還元する形へとビジネスモデルを変更し、多数のメディアと良好な関係を保っている。

■食べログはスマートニュースに学べ。
食べログは勝手に情報を載せて欲しくないと店舗側から削除を求められた際(コメントの削除ではなく店舗情報そのものの削除)、最高裁まで争って勝訴し、削除を拒否したこともある。これは法的に正しくとも飲食店経営者には極めて傲慢な態度にうつっただろう。

飲食店から広告費を取る宣伝サイトの側面を持ちながら、メディアとして表現の自由を行使して削除を拒否する。これはあまりに無茶なビジネスモデルでは無いのか。スマートニュースは記事の配信元にはリンクや広告の表示で利益を還元しているが、食べログは有料で広告を売り、予約システムも有料で提供している。本来は店舗があるからこそ食べログが成り立つと考えれば、お金を取るのではなくその真逆で還元をするべきではないのか。掲載拒否も法的な妥当性とは別の観点から当然受け入れるべきだ。

裁判で勝って法的に問題は無いからこれで良い、という判断も一つの意思決定だろうが、広告表示を見たユーザーや、広告を売り込まれたり削除について裁判まで争う状況を見た飲食店がどのように判断するか、そしてどのようなイメージを持つかは全く別問題だ。

■食べログが信頼回復をするには。
食べログが将来にわたって安定した運営をするには、すでに書いたように第三者委員会による炎上トラブルの検証、飲食店向けの広告販売の停止、スマートニュースがやったような徹底した店舗との良好な関係構築など(場合によっては予約システムの無料開放など利益の還元)、そこまでやらないと信頼できる口コミサイトから、お店の情報が載っているだけのサイトに転落してしまう可能性があるように見える。

これはビジネスモデルの根本的な変更となるが、ユーザーや飲食店と良好な関係を保つためにも、それが求められているタイミングではないのか。

先日、ラーメン店の店先に貼ってあった「食べログで話題の店」といったロゴ入りのステッカーを見て、思わず後ずさりをしてしまった。これが過剰反応なのかどうか分からないが、全ての判断はユーザー次第、ということになる。自分の目から見て、食べログはサイト存亡の危機といっても過言ではないほど危険な状態に見える。

ユーザーの口コミと信頼で成長した食べログが今後信頼を回復することはできるのか、注目したい。

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中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
シェアーズカフェ・オンライン 編集長
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著者プロフィール


中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー(FP)、シェアーズカフェ店長、シェアーズカフェ・オンライン編集長。「保険を売らないFP」。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。開業から10年間、一貫して対面相談とウェブで情報発信を行う。2014年、シェアーズカフェ株式会社に法人化。現在は日暮里駅近くに事務所を構える。

情報発信は東洋経済オンライン、ITmediaビジネスオンライン、プレジデントオンライン、JBプレス、日経DUAL等の経済誌で執筆する他、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等で執筆・出演・取材協力多数(めざましテレビ、報道2001、スッキリ他、メディア掲載・取材協力の詳細を参照)

著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」、「一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人(大和書房)」。住宅本はAmazon・楽天ブックスの住宅ローンランキングで最高1位、Amazon総合ランキングでは最高141位。

対面ではファミリー世帯向けにプライベートレッスン(相談)を提供。生命保険の販売を一切行わず、金融機関・不動産会社のセミナー・広告等の業務も全て断り、相談料だけを受け取るFP本来のスタイルで営業中。

プライベートレッスンでは独自のカリキュラムを顧客ごとに最適化、相談・アドバイスと組み合わせて高度なコンサルティングを提供。特に住宅購入の資金計画、ライフプラン全体のアドバイスを得意とする。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。

2013年にはマネー・ビジネス分野の士業や専門家が参加する自社メディア、シェアーズカフェ・オンラインを設立、編集長に。2014年よりYahoo!ニュースに配信中。他にも編集プロダクション、専門家向けの執筆指導(オンラインサロン)、社長専属の編集者などの業務も提供。FP事業とメディア事業を車の両輪としてシナジーを経営者として日々追求。

お金よりも料理が好きな79年生まれ。

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