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先日、一つのニュースが話題になった。横浜市が行った市民向けのアンケートで、努力をすれば報われると思っている人が昔と比べて大幅に減っているというものだ。

「努力すれば報われる社会か」を尋ねたところ、肯定的な見方は15.2%で、バブル景気にわいた28年前の88年度に行われた調査と比べて39ポイントも減少し、意識の大きな変化がうかがわれた。
「努力報われる」バブル時代から39%減少 毎日新聞 2016/09/17


努力と表現すると言葉自体が何か特別な意味合いを持ってしまい、そもそも努力の定義は? といったズレた話になってしまうが、これは「頑張る」とか「誠実に取り組む」、「真面目に働く」と言い換えても意味は変わらないだろう。

成長が止まり収入も減り続けている状況を考えればやる気が失せるのも理解できるが、努力に意味が無いと考えることは果たして正しいのか。

■努力は報われる、かもしれない。
努力は必ず報われる……。

これは今年AKB48を卒業した高橋みなみさんが、AKB48グループの総選挙で上位にランクインした際の言葉だ。ここまで愚直に言い切れることはある意味凄いと思うが、仕事の場面に限定して考えてみると、案外正しく見える一方、間違っている面もある。

成功した人のほとんどは努力をしている。したがって「努力は必ず報われる」という言い方は成功した本人にとっては正しい。

ただ、ドライに考えればこれは相当に偏った発言だ。成功してるからそんなことを言えるんだ、というひねくれた指摘は的を射ている。これを「生存バイアス(サバイバーバイアス)」という。

もう随分前になるが、イチローが朝にカレーを食べていると話題になった。この話を聞いて、甲子園を目指す野球チームが毎朝カレーを食べて甲子園出場を実現したとする。これは朝カレーが野球上達につながった事例と言えるのだろうか。朝カレーの効果を正しく測定する際には、朝カレーを実施しても甲子園に出られなかったチームも含めて測定する必要がある。「生き残った人」だけを見ていると極めて偏った結果になるということだ。

世の中には努力が報われた人より努力が報われなかった人の方が(多分)たくさんいるので、高橋みなみさんの言葉は生存バイアスの観点で見れば間違っていることがわかる。

ただ、その一方で成功をしている人が皆努力をしているのなら、成功の条件として努力が必要である事は間違いない。

つまり努力は報われる、努力は報われない、はどちらも正しい。じゃあどうすれば良いんだということになるが、成功したければ努力をするしかない、という答え以外は出ない。結果的にそれが報われなくてもだ。

■夢は手を伸ばした1mm先にある。
AKB48のプロデューサーで作詞家の秋元康氏は、「夢は手を伸ばした1mm先にある」とアドバイスをしているという。これは限界を超えてガンバレ、という意味に取れる。まるでブラック企業の社長が言いそうな、綺麗すぎて都合の良い言葉に聞こえなくもないが、実際に指導・アドバイスをする立場になると言葉の意味が分かる。

多分、AKBのメンバーに採用された時点でその人はある程度タレントとしてのセンスに恵まれ、将来性も見込まれているはずだ。一方で全員が人気アイドルになれるわけもなく、グループアイドルならばメンバー間で大きな格差が生まれることもあるだろう。結果的にやる気を無くし努力をする気力を失う人もいるに違いない。

せっかく採用した人が成功をつかむ寸前で脱落してしまう様を見れば、なんとかならないものかと思うのも当然だ。そんな時に出てきた言葉として、これは秋元氏の本音であることは間違いないと思う。

最近ではバラエティ番組等で度々見かけるHKT48の指原莉乃さんは、過去にスキャンダルを起こした際、迷惑をかけたのでAKB48を辞めたいと秋元氏に伝えると、芸能界に執着心のない人はいらない、辞めたいなら辞めればいい、と突き放されたという。

結果的には辞めずにHKT48へ移籍となったようだが、これは駆け引きではなく額面通りの言葉だろう。一度でも部下や後輩をマネジメントしたことがある人ならば分かると思うが、やる気が無い人のモチベーションを上げることは極めて難しい(そして馬鹿らしい)。なぜならやる気は後からついてくるからだ。

■やる気は後からついてくる。
個人的な体験になるが、自分は編集長としてウェブメディアを運営している(ヤフーニュースにも配信中)。社労士や税理士、司法書士などの士業や大学教授、コンサルタントなど、マネー・ビジネス関連の専門家が書き手として参加している。

編集長なんて偉そうな肩書きで何をやってるんだと言われそうだが、執筆指導が主な役割だ。執筆はセンスに大きく左右されるため参加の時点でふるいにかける。したがって参加をしている書き手はそれなりにセンスがある人だけなのだが、指導についてこられずに辞めてしまう人も多い。

せっかく手間を掛けて指導をしたのにコチキショウと思う反面、もったいないとも思う。中途半端なところでやめてしまえば成果が出るはずもないからだ。実際に執筆指導の結果、最近では多数のアクセスを頂くことも増えてきた。そして記事の反響として、書籍の執筆依頼やテレビ・雑誌・新聞・ラジオ等の出演・インタビュー・コラム執筆の依頼など、書き手には多数の実績がある。

■なぜ努力をする人としない人の差は開くのか。
自分自身が本来はまともに食えない職業であるファイナンシャルプランナーとして食えるようになったのだから、ウェブで文章を書くことの効果は実証済みだ。言ったとおりにやれば必ずうまく行く、なぜなら俺がそうだったのだからとアドバイスをするが、真面目に実行した人だけが成功する。したがって上記の成功事例は一部の書き手に集中している。

成功体験のある人は努力をしないともったいないとわかっているから、モチベーションが上がって努力を重ねてさらに成功する。成功体験のない人は努力の意味が分からずにモチベーションも出ず、何もしないから成果は出ない。すると努力をする人としない人の差は絶望的なほど大きく開く。

執筆ペースを書き手に任せていることもあり、以前はやる気が無い書き手に一生懸命声掛けをして記事を書かせようと頑張っていたが、ほとんど意味が無いことに気づいてやめた。やる気のない人を相手にするくらいなら、やる気のある人にアドバイスをしたほうがよっぽど意味があるからだ(今では上記の通り、やる気は後からついてくるから成果が出るまで頑張るように、と最低限のことだけ全員に伝えている)。

アンケートで努力に意味が無い、と答えている人は単純に成功体験が無いのだろうが、努力が無駄になったらもったいないと考えている限り成果は出ない。チャンスが回ってきたらその時に頑張ります、という人は一生成功出来ないだろう。チャンスは準備が出来ている人にだけまわって来るからだ。これは会社員でもフリーランスでも同じだ。

以前自分が書いた記事をきっかけに大手経済誌の取材を受けた事があった。終了後にまた何かあればご連絡を……と編集者の方に話したところ、「ぜひまた面白い記事を書いて下さい。その時にお声掛けさせてもらいますから」という回答をもらった。

編集者は面白いネタがあるかどうかわからない状態で声をかけることはできない。準備が出来ている人にだけ声がかかるということだ。その時「あ、これが世の中の仕組みか……」と少し理解できた気がした。

つまり知らぬ間に自分の仕事ぶりは思った以上に多くの人に見られていて、「努力なんて報われないよね」などと考えていると、気づかないうちに上司や取引先に「コイツは使えない」とジャッジされているということだ。

■努力が報われる方法。
話を改めて冒頭のアンケートに戻すと、努力が報われないという回答について、努力を極めて狭い範囲で考えているように見える。これは質問もあまりよくないと思うが、努力が報われるかどうかはその人のセンスや適性の有無も当然関わる。

元陸上選手の為末大さんは自身のツイッターで、現役時代に努力が結果に与えた貢献度は10%程度と書いている。世界一になれるかどうかでいうともっと貢献度は低いともいう。つまり陸上などのスポーツ分野は才能に恵まれているかどうかで結果がほとんど決まってしまうという。身も蓋も無い話だが事実なのだろう。

他にも音楽、漫画、小説など、センスが求められる上にライバルがひしめいている分野も明らかに努力の効率は悪い。本人のセンスに加えて「どこで努力をするか?」は結果に強く影響する。誰も努力していないような業界があればそこは狙い目だろう。自分の場合はそれがファイナンシャルプランナー(FP)業界だった。

例えばラーメン屋を開業すれば、他のラーメン屋はもちろん、周囲の飲食店から弁当屋、コンビニなど、ありとあらゆる飲食関連のビジネスがライバルとなる。一方でFPの場合、ライバルが居ない。俺はスゴイんだぜ、という意味でなく文字通りライバル(同業者)がいない。同業者から客や仕事を奪っているという意識もなければ、奪われているという感覚もない。他の活躍してるFPも同様だろう。こんな業界は他にほとんど無い。どんなに贔屓目に見てもラーメン屋の方が100倍経営は難しい。

■努力の仕方を間違えるな。
自分が編集長として執筆指導をしている税理士、社労士、司法書士などは同じ資格を持っている人が多数いて競争が極めて厳しい。現在はあらゆる士業が食えないと言われるようになった。価格競争で単価も下がり、最近では弁護士まで食えない資格に加わっているとも言われている。その一方、ウェブで記事を書いて情報発信をしている専門家はほとんどいない。つまりウェブで記事を書くという面ではライバルがいないわけだ。

ラーメン屋や飲食店で言えば、すべての飲食店がライバルとの競争で潰れるわけではない。他店と違う価値を提供できているお店だけが生き残る。ほんの少しズレがあるだけでよそとの違いは生まれる。つまり努力の仕方、努力の場所を間違えるな、ということだ。

努力が報われると思っている人がたった15%ならば、努力の仕方や場所、方向性さえ間違えなければ僅かな差が大きな結果になって表れると考えていいのではないか。この記事も生存バイアスの一つかもしれないが、努力なしの成功はありえないことは既に書いた通りだ。多少でも参考になればと思う。

【参考記事】
■1億円の借金で賃貸アパートを建てた老夫婦の苦悩。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/44769829.html
■年収1100万円なのに貯金が出来ませんという男性に、本気でアドバイスをしてみた。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/44746902.html
■破れたソファーと落書きを放置するマクドナルドはしばらく復活出来ないと思う件について。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/42649631.html
■グーグルはなぜ新入社員に1800万円の給料を払うのか?
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/43503648.html
■不動産会社の「大丈夫」が全然大丈夫じゃない件について。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/44077052.html

中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー




著者プロフィール


中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー(FP)、シェアーズカフェ店長、シェアーズカフェ・オンライン編集長。「保険を売らないFP」。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。開業から10年間、一貫して対面相談とウェブで情報発信を行う。2014年、シェアーズカフェ株式会社に法人化。現在は日暮里駅近くに事務所を構える。

情報発信は東洋経済オンライン、ITmediaビジネスオンライン、プレジデントオンライン、JBプレス、日経DUAL等の経済誌で執筆する他、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等で執筆・出演・取材協力多数(めざましテレビ、報道2001、スッキリ他、メディア掲載・取材協力の詳細を参照)

著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」、「一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人(大和書房)」。住宅本はAmazon・楽天ブックスの住宅ローンランキングで最高1位、Amazon総合ランキングでは最高141位。

対面ではファミリー世帯向けにプライベートレッスン(相談)を提供。生命保険の販売を一切行わず、金融機関・不動産会社のセミナー・広告等の業務も全て断り、相談料だけを受け取るFP本来のスタイルで営業中。

プライベートレッスンでは独自のカリキュラムを顧客ごとに最適化、相談・アドバイスと組み合わせて高度なコンサルティングを提供。特に住宅購入の資金計画、ライフプラン全体のアドバイスを得意とする。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。

2013年にはマネー・ビジネス分野の士業や専門家が参加する自社メディア、シェアーズカフェ・オンラインを設立、編集長に。2014年よりYahoo!ニュースに配信中。他にも編集プロダクション、専門家向けの執筆指導(オンラインサロン)、社長専属の編集者などの業務も提供。FP事業とメディア事業を車の両輪としてシナジーを経営者として日々追求。

お金よりも料理が好きな79年生まれ。

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