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先日から長谷川豊氏に関する問題が各種メディアで報じられています。

ことの発端は長谷川豊氏が自身のブログで「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!」と題した記事を公表したところから始まります(「本気論 本音論」 2016/09/19 その後タイトルは変更)。

刺激的なタイトルが付けられた記事には多数の批判が集まり、本人がその批判に反論をしたことでさらに騒動は拡大しました。結果的に長谷川氏は出演しているテレビ番組を二つも降板することになったようです。

記事には「自堕落な生活で多額の費用がかかる人口透析を受ける事になった人を健康保険で救う必要はあるのか?」といった事が書かれていますが、タイトルや内容に問題があったことはすでに報じられていますので言及しません。

自分が心配していることは今回の騒動をきっかけに、ブログは質の低いものである、ウェブで記事を書くことは危険なことである、といったおかしな認識が広がってしまう事です。

ウェブメディア編集長の立場から、そして自らブログやウェブで記事を書いている立場から、長谷川氏が暴走した原因を探ってみたいと思います。

■長谷川氏は人気ブロガー?
長谷川氏のHPを見ると、フジテレビ退職後に始めたブログは1ヵ月で400万人の来訪、2700万PVを記録した、とあります。この数字だけを見れば大手経済誌のウェブメディアに匹敵する数字です。

長谷川氏の記事は過去にもたびたび話題になり、騒動を引き起こしてきました。要するに炎上です。自分は2年近くも前に以下のような、長谷川氏を批判する記事を書いた事もあります。

*元フジテレビアナウンサーが主張する「専業主婦が増えれば少子化は解決する」という意見がいまさら過ぎて頭痛が痛い。
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/41836684.html
*女性の社会進出は少子化の原因なのか? ~少子化を止める二つの方法~
http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/41852206.html

当初、自分が長谷川氏の記事を読んで感じた疑問は「なんでここまで粗雑な文章を書くんだろう?」というものです。上記記事でも書いた通り、自身の意見をハッキリと主張する一方で、全くと言っていいほどその根拠を示さないのです。

長谷川氏はフジテレビでアナウンサーをやっていた人物ですから、普通に考えて頭の悪い人物ではないはずです。テレビ出演のレギュラーが週に8本もあると説明していましたので、炎上ブログでお小遣い稼ぎをする必要もありません。今回のトラブルを受けて、彼は喋る仕事にだけ集中していれば良かったのに、といった指摘もありました。金銭的に考えればそれが最も効率が良いはずです。

■長谷川氏はブログジャンキー?
フジテレビを不本意な形で退職した長谷川氏はその経緯をブログで書いたところ、上記のように多数のアクセスを集めました。これは本人にとってもこれまで味わった事が無いほど刺激的なものであったのかもしれません。ブログで異例を通り越して異常というほどにアクセスを集めた経験が長谷川氏に強く影響を与えたのではと思われます。

テレビでも多数の視聴者に毎日見られていたと思いますが、目の前にあるのはテレビカメラと視聴率という数字だけです。一方、ウェブであればアクセス数が表示されるだけではなく、ツイッターやフェイスブックでも多数の反響をダイレクトに、そしてリアルタイムに得ることが出来ます。

経験をした事が無い人は分からないかもしれませんが、これは極めて楽しい状況です。自身が書いた文章を誰にも直されることなく公表できる、ついさっきまで書いていた記事が日本中で爆発的に読まれる。このような状況はテレビや新聞、雑誌といった従来のメディアではありえません。ブログだからできることと、そこで得られる快感に長谷川氏がハマったのはこれがきっかけではないかと思われます。

■ブログは自己責任?
その後も長谷川氏は多数の記事を公開していますが、多忙な状況で丁寧に記事を書くことは大変です。雑で良いのなら文章は簡単に書けますが、多くの人に読んで貰える形へと整えるには非常に手間がかかります。

しかし雑に書かれた文章でも多数のアクセスを集めることで、長谷川氏はこういう書き方でも別に良いんだ、という認識を深めたのではと思います。これが一つ目の勘違いです。

そして長谷川氏自身も丁寧に100点満点の文章を書いているという自覚は無かったと思われます。それでも70点とか80点くらいの内容ならばまあ問題はないだろう、仮に問題になっても自分のブログだから自己責任で誰にも迷惑はかけない、といった認識があったことも推測されます。

ネットとテレビを使い分けていた、といった発言に「ネットなら何を書いても良いのか」といった批判もありましたが、テレビはあくまで依頼された仕事、ブログは100%自己責任で書いている、という区分けをしていたのでしょう。

自分もブログを書く一方で依頼された記事を書いていますので、このあたりの感覚は分かります。自己責任であるブログの方が踏み込んで書けるわけです。

ただ、今回の記事は多くの人がアウトだと認識しています。70~80点という認識とは随分ずれていますが、これは多数のアクセスを集めていることからきている勘違いだと思われます。

■雑に書いた方が読まれる、という炎上ブログの発想。
長谷川氏は書き殴ったものではあっても面白くて質が高い記事だからアクセスを集めていたと勘違いしていたフシがありますが、これが二つ目の勘違いです。彼のブログが多数の人に読まれていた理由はそのほとんどが知名度によるものです。それだけテレビに出ていたことの影響力は大きいわけです(これは芸能人のブログがケタ外れのアクセスを集めていることや、芸能関連の記事が他分野の記事より多数読まれていることからも分かります)。

長谷川氏のブログはとても公表する水準には達していないものも散見されます。自分が過去に批判した記事はまさにそれで、まともなメディアであればまず掲載されることはありません(詳細はリンク先を参照)。長谷川氏は執筆のプロでは無いので仕方のない面もありますが、本来であれば編集者が細かくチェックをするか添削や執筆指導が必要なレベルです。

「ウェブは馬鹿と暇人のもの」の著者でウェブメディア編集者としても有名な中川淳一郎氏も、長谷川氏が批判への反論記事の中で「世の中には、歪んだ正義感を振りかざす、ネット上でしかうっぷんを晴らすことのできないバカが田舎の公衆便所の小バエのごとく、大量にいます」と酷い書き方をしていることについて、以下のように指摘しています。

比喩を用いるのにはある程度のセンスが必要なんですよ。センスが悪いと途端に偏見が透けて見えてしまい、いらぬ反感を買う。それが、長谷川氏書くところの「田舎の公衆便所」という表現なのです。これは、都会に住む長谷川氏が田舎の衛生状況をバカにしていると捉える人もいるかもしれない。田舎の公衆便所を一所懸命毎日磨いている人が気分を害するかもしれない。

~中略~

とにかく、炎上させないためには余計なツッコミポイントを与えないことが重要で、そのために心掛けなくてはいけないことは、「当事者の感情を悪い方向に揺さぶらない」ことなのですね。だとしたら、関係者がいそうなものをどうでもいい文脈で出さないというのが重要です。

出典:炎上しないための文章作法 余計な比喩を使わず、具体的関係者がいそうな単語を極力外せ おはようさぎ(中川淳一郎氏のブログ) 2016/09/25


■書き手は「当事者」を納得させる必要がある。
普段、編集長として書き手に執筆指導をする際には、面白いとか役に立つ以前にまずはトラブルを起こすような記事を書かないように、記事が炎上して自身が損をするだけなら自業自得だが誰かに迷惑をかけることは許されない、とアドバイスをしています。

記事の中で企業や人や商品に言及すれば、現在ではかなり高い確率で当事者の目に入ります。その際、当事者が納得する文章でなければいけません。批判記事であればなおさら当事者がぐうの音も出ないほどスキのない内容に仕上げる必要があります。この点についても長谷川氏は当事者である透析患者の団体から抗議を受けた上に番組降板で取引先にも迷惑をかけていますから、大失敗をしているわけです。

長谷川氏は透析や医療費について問題を提起するのであれば、多くの人に受け入れられる形で、解決方法を根拠と共に提示するべきでした。

例えばすでに医療費を減らす試みはなされていますが「1年間病院に行かなかったら奨励金を払う」といった自治体もあるようです。ただ、これで起きることは健康の促進ではなく受診の抑制に過ぎず、かえって病気のリスクが高まる可能性もあります。民間では健康な人の保険料を引き下げる生命保険はありますが、これを健康保険でやってしまえば生まれつき病弱な人や持病のある人には極めて不利な仕組みになります。

……と、このように事例を挙げて健康の促進を促しながら医療費を抑制するにはどうすればいいのか、丁寧に論を進める記事を長谷川氏も書こうと思えば書けたはずです。ただ、それには非常に時間がかかります。丸1日かかってもおかしくありません。

長谷川氏の批判に対する主張を読むと、彼は丁寧に記事を書いていないし書く必要はない、書かなくても良い、というか書かない方が良い、なぜならちょっと炎上するくらいの方がたくさん読まれるから……と考えていたとしか思えない印象を受けます。

本来は自身の知名度を利用して丁寧に問題提起をすれば、炎上どころか信頼を得て医療に関する番組から司会を任されるといったことも実現できたはずです。彼はそういった可能性を自ら潰してしまったわけです。

■3つ目の勘違いが降板につながった。
長谷川氏は番組降板を伝える謝罪記事で、ネット上での出来事がテレビ番組の降板につながったことに非常に驚いていますが、これが3つ目の勘違いです。現在ではネット上での騒動が企業や政府を動かす事は珍しくありません。

「保育園落ちた日本死ね!!!」という匿名で書かれた文章を挙げて、こういった記事もあるのだからタイトルに殺せと書いても大丈夫だと思ったと長谷川氏はブログで書いていますが、まさにこれはネット上の出来事が現実まで波及した事例です。

これまでも出演している番組スタッフ等から「あんなことブログに書いて大丈夫?」といった忠告を一度や二度はされていると思われますが、まさか降板する事態にまで進展するとは夢にも思っていなかったのでしょう。なぜならブログはあくまで自己責任の範囲でやっていると勘違いしていたからです。

不祥事を起こしたタレントが全ての仕事を失った事は過去に何度もあります。タレントに限らず、そしてネットに限らず、別の仕事での評判が他の仕事に影響することは誰にでも起こり得ます。本来このようなことは説明するまでもない話ですが、ブログは自己責任という意識が自己責任=誰にも迷惑をかけない=何を書いても良い、という勘違いを助長したのではと思われます。

長谷川氏の執筆スタイルは「嫌なら読むな」というスタンスも見て取れます。個人ブログで好き勝手に書いて何が悪い、ということでそれはそれで一理ありますが、このスタンスが番組の降板につながったわけです。公共の場と言っても過言ではないテレビの出演者に求められる資質について、甘く見ていたと言わざるを得ません。

■ブログは難易度が高いメディアである。
新聞や雑誌などと比べてブログは一段低い表現だと思っている人もいるかもしれません。書こうと思えば誰でも書けるからです。しかしブログは編集者が介在しないため、一人で完成原稿を書き上げる必要があることから、極めて難易度が高い執筆スタイルです。

ブログで評判になった人が本を出す事は最近では珍しくありませんが、ブログで人気があることは執筆能力の証明であり、出版社から見れば安心して著者として採用できるという側面があります。これはインディーズで売れたミュージシャンがメジャーにデビューするような流れです。

長谷川氏を見ているとブログの仕組みが悪い方に働いてしまったように見えますが、文章がダイレクトに読者へ届くブログは極めてダイナミックで面白い仕組みです。一方でブログは執筆能力や倫理観が求められる仕組みでもあります。

上記の中川氏の指摘にあるような他者への配慮や他にも著作権に関する理解など、実際には誰でも運用できるほど簡単なものではないわけです(なので最近大流行の企業ブログやオウンドメディアの素人運営ぶりを見ていると非常に危なっかしい印象を受けます)。

長谷川氏が今後ブログで何を表現するかは分かりません。今回の指摘はあくまで推測にすぎませんが、何かしらの誤解や勘違いをしたまま記事を書いてきたことは間違いないと思われます。それがたまたま今の時点で爆発しただけで、いつかトラブルになることは必然だったように思います。

反論をしたことで余計に騒動が拡大したことについても、これがテレビであれば嫌々でも上司の指示で早期に謝罪をしていたはずで、あきらかに一人でやってきた弊害が出ているように見えます。

今後も準備不足の状態でブログを書き続けることは得策ではありません。しばらくはブログをプロの編集者にチェックして貰ってから公開をするようにして、執筆能力の向上に努めるべきでは? というのが余計なお世話ですがウェブメディア編集長からのアドバイスです。

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中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
シェアーズカフェ・オンライン 編集長
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著者プロフィール


中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー(FP)、シェアーズカフェ店長、シェアーズカフェ・オンライン編集長。「保険を売らないFP」。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。開業から10年間、一貫して対面相談とウェブで情報発信を行う。2014年、シェアーズカフェ株式会社に法人化。現在は日暮里駅近くに事務所を構える。

情報発信は東洋経済オンライン、ITmediaビジネスオンライン、プレジデントオンライン、JBプレス、日経DUAL等の経済誌で執筆する他、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等で執筆・出演・取材協力多数(めざましテレビ、報道2001、スッキリ他、メディア掲載・取材協力の詳細を参照)

著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」、「一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人(大和書房)」。住宅本はAmazon・楽天ブックスの住宅ローンランキングで最高1位、Amazon総合ランキングでは最高141位。

対面ではファミリー世帯向けにプライベートレッスン(相談)を提供。生命保険の販売を一切行わず、金融機関・不動産会社のセミナー・広告等の業務も全て断り、相談料だけを受け取るFP本来のスタイルで営業中。

プライベートレッスンでは独自のカリキュラムを顧客ごとに最適化、相談・アドバイスと組み合わせて高度なコンサルティングを提供。特に住宅購入の資金計画、ライフプラン全体のアドバイスを得意とする。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。

2013年にはマネー・ビジネス分野の士業や専門家が参加する自社メディア、シェアーズカフェ・オンラインを設立、編集長に。2014年よりYahoo!ニュースに配信中。他にも編集プロダクション、専門家向けの執筆指導(オンラインサロン)、社長専属の編集者などの業務も提供。FP事業とメディア事業を車の両輪としてシナジーを経営者として日々追求。

お金よりも料理が好きな79年生まれ。

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