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持ち家には二つの幻想がある。「持ち家は資産である」と「持ち家は賃貸よりも有利」の二つだ。果たしてこれは本当か。結論を言うと間違いだ。

■3つの資産価値とは?
まず持ち家は資産かどうかについて、言及してみよう。住宅ローンを組んで家を買った場合、一般的な感覚としては返した分だけ自分のものになる、といった所だろう。これが一つ目の幻想だ。

住宅は買ったとたんに2、3割価値が下がると聞いた事がある人は多いだろう。販売側の利益が乗っているだけでなく、買ってすぐに売ろうとすれば、手数料がかかって、結果としてそれぐらいは損をするからだ。したがって頭金は2割くらい入れないと、買った時点で債務超過(借金が資産を上回る状態)になりかねない。

また、経年劣化を考慮すると家の価値は毎年のローン返済額と同じかそれ以上に落ちていくケースが多い。家の価値は、住める・貸せる・売れる、の3点しかない。ローンを返し終わった築35年のマンションに一体どれだけの価値があるのか? 売っても貸しても大した金額にならず、買い手・借り手が簡単に見つかるとも限らないので、時間がかかればその分だけ損失は膨らむ。住み続けるには大規模な改修や建替えで新しいマンションが買える位の費用がかかる事もある。三つの価値はいずれも大幅に減る事は分かっているわけだから、家は資産だと言い張る事には無理がある。

つまり「返済した分だけ自分のものになる」のではなく「返済した分だけ消費していく」と考えたほうがより実態に近い。住宅はいつか壊れて使えなくなるのだから、家を買う事は「家賃の長期前払い」であって、それ以上でもそれ以下でもない(細かい説明は「割引現在価値法」で検索すれば説明しているサイトは沢山ある)。結局、「持ち家は資産である」という考えは経年劣化(企業会計で言う減価償却)を無視した無茶な考えである事は容易に分かるだろう。

■一軒家・土地の資産価値はどうか?
マンションでなく土地付きの一軒家ならば? という疑問もあるかもしれない。土地は建物と違って経年劣化は無いし、企業会計でも減価償却の対象にならない。しかし、土地付き一戸建てを買い、買値のうち半分が土地の値段だったとして、当然のことながらそれが30年後、40年後にどれ位の価値があるかは全く分からない。土地の部分に限って言えば不動産投資だからだ(家の価値はゼロになり、かえって撤去費用がかかると考えたほうが良い)。バブル期には日経平均が将来9万円になる、と予想した人も居るが、さて、人口が大きく減っていく日本で30年後に土地の値段はどうなるか、なかなか興味深い部分でもある。

自分は基本的に株や不動産などの資産価格は予想出来ないし、するつもりも無い、という立場を取っているが、半歩踏み込んで予想材料の提供をしてみたい。

将来日本の人口が減る事はほぼ確実だが、これは将来不動産の買い手が減る事も意味する。先が読めない経済指標が多い中、人口動態はダントツで確実性の高い数値だ。

厚生労働省が発表する平成22年度の簡易生命表によれば、生まれた子供のうち、37歳まで生きているのは男性の場合10万人中98,246人。37歳というのは家を買う平均的な年齢だ(home’s調べで36.9歳・端数は切り上げ)。

生存率は98%以上だから、37年後の37歳の日本人の数は出生数とほぼイコールだ。2011年時点の37歳(1974年生まれ)は2,029,989人、37年後の37歳(2011年生まれ)の人口は1,057,000人。計算をすると48%減となり、半数近くまで減る計算だ。少なくとも今後37年間は不動産の買い手が減り続ける事は「既に決まっている」。

■人口ボーナスと持ち家。
人口ボーナスという言葉がある。生産年齢人口(15歳~64歳の人口)が増える事によって、経済成長にプラスの影響がある状況を指す。その逆が人口オーナスで、生産年齢人口が減る事によって経済成長に悪影響を及ぼす状態を言う。不動産のような資産価格は複雑な要因が影響する。当然のことながら不動産の買い手は日本人だけでなく、日本企業や外国人・外国企業も含まれる。数だけで決まるわけでも無いので、このデータだけでは断言できるはずもないが、人口が減り、買い手の一部が大幅に減る事は容易に予想される。株や不動産の世界では価格が上がる事を「買われた」とも言う。買い手が減ればどうなるかは、説明するまでも無い。

と、必要の無い予想まで書いてしまったが、将来不動産価格が上がるかどうかや、持ち家に資産価値があるかどうかは実は重要な話ではない。多額の借金を抱えてたった一個の不動産に資産を集中させる事が家計管理の上でどれだけハイリスクなのか多くの人が理解していない事、こちらの方が大きな問題だ。

住宅の購入を検討されている方には以下の記を参考にして欲しい。
●小学生でも分かる住宅ローンの計算方法 
●持ち家の予算はチキンレースか?
●住宅購入における予算の決め方 その1 その2
●繰り上げ返済は本当にお得なのか? 前編 後編
●「持ち家と賃貸はどっちが得か?」とか「家賃を払うのはもったいない」とかいまだに言ってる不動産業者やファイナンシャルプランナーは、相当ヤバイ その1  その2
●9割も売れ残る新築マンション ~空室率40%の時代に備えて~

次回は永遠のテーマとも言える持ち家と賃貸の比較について決着をつけたい。

続きを書きました!→●そろそろ決着をつけたい「持ち家と賃貸はどちらが得か?」というくだらない論争

※この記事は大きな反響を受けたため、それも取り入れて4本続きの記事になりました。
●持ち家は資産か? 持ち家に関する二つの幻想
●そろそろ決着をつけたい「持ち家と賃貸はどちらが得か?」というくだらない論争
●「持ち家は資産だ!」という反論が来た(謝罪も有り) 
●リスクとの付き合い方 持ち家議論へ頂いた反響への回答

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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著者プロフィール


中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー(FP)、シェアーズカフェ店長、シェアーズカフェ・オンライン編集長。「保険を売らないFP」。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。開業から10年間、一貫して対面相談とウェブで情報発信を行う。2014年、シェアーズカフェ株式会社に法人化。現在は日暮里駅近くに事務所を構える。

情報発信は東洋経済オンライン、ITmediaビジネスオンライン、プレジデントオンライン、JBプレス、日経DUAL等の経済誌で執筆する他、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等で執筆・出演・取材協力多数(めざましテレビ、報道2001、スッキリ他、メディア掲載・取材協力の詳細を参照)

著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」、「一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人(大和書房)」。住宅本はAmazon・楽天ブックスの住宅ローンランキングで最高1位、Amazon総合ランキングでは最高141位。

対面ではファミリー世帯向けにプライベートレッスン(相談)を提供。生命保険の販売を一切行わず、金融機関・不動産会社のセミナー・広告等の業務も全て断り、相談料だけを受け取るFP本来のスタイルで営業中。

プライベートレッスンでは独自のカリキュラムを顧客ごとに最適化、相談・アドバイスと組み合わせて高度なコンサルティングを提供。特に住宅購入の資金計画、ライフプラン全体のアドバイスを得意とする。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。

2013年にはマネー・ビジネス分野の士業や専門家が参加する自社メディア、シェアーズカフェ・オンラインを設立、編集長に。2014年よりYahoo!ニュースに配信中。他にも編集プロダクション、専門家向けの執筆指導(オンラインサロン)、社長専属の編集者などの業務も提供。FP事業とメディア事業を車の両輪としてシナジーを経営者として日々追求。

お金よりも料理が好きな79年生まれ。

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