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前回の記事「持ち家は資産か?」では、持ち家は家賃の前払いでしかないと説明した。今回論じる「持ち家と賃貸はどちらが得か?」という比較に関して、まずは問題設定が的外れだ。「持ち家の方が賃貸より得」と言い切っている場合も多く、この間違った断言が二つ目の幻想だ。重要な事は「損得」ではなく「資金繰り」、つまり「支払いが出来るか・出来ないか」である。


■収入と支出の困った関係
生活費の多くは「固定費」としての性質が強く、生きている限り確実に費用が発生する。一方、不況が長引く現在、将来にわたって安定して収入を得られるかどうかは多くの人にとって不確実だ。

将来の支出は確実なのに、将来の収入は不確実。

このアンバランスさが家計リスクの根本にある。支出の確実性をさらにアップさせるのが住宅ローンだ。自己破産(あるいはそれに近い債務整理)でもしない限り、ローンから逃げる事は出来ない。 

■経営者は利益より資金繰りを優先する。
経営者に資金繰りと利益、優先するのはどちらか?と聞いてみれば100人中100人が資金繰りと答えるだろう。資金繰りが止まる事は会社の破綻を意味するから、利益が出る・出ない以前の問題だ。家計でも破綻をするのは資金繰りが止まった時だ。持ち家と賃貸の比較では、この資金繰りという視点が圧倒的に欠落している。

「持ち家の支払い総額」が賃貸で住み続けた場合と比べて多いか少ないか、と考えている時点で、途中で支払いが出来なくなるリスクを無視している。自分は普段のレッスンでは必ず最初に「人生にはリスクがあるからファイナンシャルプランニングを考えないといけない」と説明する。リスクを無視するのなら、そもそもファイナンシャルプランニングを考える意味は無い。雑誌や書籍で見かける比較のシミュレーションは細々とした間違いなど突っ込み所は沢山あるが、一番の問題はここだ。家計管理は経営者と同じように、資金繰りを最優先で考えるべきだ。

確実な支出を不確実な収入でまかなう以上、支出の弾力性を失う事はリスク上昇につながる。順調な人生を送ってきた人はリスクに鈍感な傾向にあるが、そういう人ほど高額なローンを組めるのは皮肉な話だ。もちろん、結果的に持ち家が有利な「場合」も当然あるだろう。これは株を買えば儲かる可能性がある、という事と同じ程度の話だ。リスクの絡む判断で「絶対」はありえない。

■持ち家は生活必需品ではない。
住宅は生活必需品(ニーズ)だが、持ち家は趣味の世界(ウォンツ)だ。誤解をされないように言っておくが、自分は持ち家をことさら否定しないし、個人的には家を買いたいと思っている。損得の観点からではなく、ただ「欲しい」からだ。端的に言って、持ち家でしか出来ない事はほとんど無いが、賃貸でしか出来ない事は結構ある。不動産の購入は、損得の観点で考えるべきものではないし、持ち家への過剰なこだわりも捨てるべきだ。

繰り返すが、自分は持ち家否定派ではなく、ニュートラルな立場だ。家を買いたい人は前回と今回書いたような話を前提知識として踏まえて欲しい、というだけの話だ。買いたい人は予算の範囲で買えば良い。赤の他人がケチをつけることではない。

あるファイナンシャルプランナーは著書の中で「持ち家と賃貸はどっちが得か?というテーマでの執筆依頼は多いが、全て断っている。条件を少し変えればどっちが有利かいくらでも変えられるからだ」と書いている。おそらくこの説明が持ち家と賃貸の比較に関する全てを物語っているだろう。もう一言付け加えるなら「重要な事は損得ではなく資金繰り」ということになる。

■前回の記事に対する想像を超える多数の反響について。
前回の記事には想像を超える多数の反響を頂いた(これはトゥギャッターにまとめた)。中には批判や、じゃあどうすればいいんだ? という声もあった。

前回と今回書いた内容は住宅を考える上で前提となる一般論なので、具体論(予算の決め方など)にはまだ踏み込めていない。一般論だから個別の話にはあてはまらない場合もあると逃げているのではなく、全ての人に前提となる基礎知識を学んで貰って、その上で個人個人の収入や資産、働き方、意向などを考慮してライフプランを考える、というのが、自分が考える正しい手順だ。

住宅の購入を検討されている方には以下の記を参考にされたい。
■小学生でも分かる住宅ローンの計算方法 
■持ち家の予算はチキンレースか?
■住宅購入における予算の決め方 その1 その2
■「持ち家と賃貸はどっちが得か?」とか「家賃を払うのはもったいない」とかいまだに言ってる不動産業者やファイナンシャルプランナーは、相当ヤバイ その1  その2
■9割も売れ残る新築マンション ~空室率40%の時代に備えて~

次回以降は反響への回答と具体論に踏み込んだ話を書いてみたい。

※今回の記事では賃貸と持ち家の金銭的な比較が争点ではないので字数の関係で細かな数字は省いたが、不動産価格は家賃に基づいて決まる以上、持ち家が著しく有利という計算結果が出る可能性は低い。

※一定レベル以上の資産家の場合、相続税の計算上持ち家が他の資産と比べて優遇されるため、持ち家を買う必然性はあるが、相続まで考慮して比較がなされているケースは滅多にない。ただしこれも現在の税法上の話だ。相続税は強化される方向にあるため、数十年後に税制が持ち家に対して不利になっているリスクもある。

続きを書きました!→「持ち家は資産だ!」という反論が来た(謝罪も有り)

※この記事は大きな反響を受けたため、それも取り入れて4本続きの記事になりました。
■持ち家は資産か? 持ち家に関する二つの幻想
■そろそろ決着をつけたい「持ち家と賃貸はどちらが得か?」というくだらない論争
■「持ち家は資産だ!」という反論が来た(謝罪も有り) 
■リスクとの付き合い方 持ち家議論へ頂いた反響への回答

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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著者プロフィール


中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー(FP)、シェアーズカフェ店長、シェアーズカフェ・オンライン編集長。「保険を売らないFP」。

2011年4月にファイナンシャルプランナーのお店・シェアーズカフェを開業。開業から10年間、一貫して対面相談とウェブで情報発信を行う。2014年、シェアーズカフェ株式会社に法人化。現在は日暮里駅近くに事務所を構える。

情報発信は東洋経済オンライン、ITmediaビジネスオンライン、プレジデントオンライン、JBプレス、日経DUAL等の経済誌で執筆する他、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等で執筆・出演・取材協力多数(めざましテレビ、報道2001、スッキリ他、メディア掲載・取材協力の詳細を参照)

著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」、「一生お金に困らない人 死ぬまでお金に困る人(大和書房)」。住宅本はAmazon・楽天ブックスの住宅ローンランキングで最高1位、Amazon総合ランキングでは最高141位。

対面ではファミリー世帯向けにプライベートレッスン(相談)を提供。生命保険の販売を一切行わず、金融機関・不動産会社のセミナー・広告等の業務も全て断り、相談料だけを受け取るFP本来のスタイルで営業中。

プライベートレッスンでは独自のカリキュラムを顧客ごとに最適化、相談・アドバイスと組み合わせて高度なコンサルティングを提供。特に住宅購入の資金計画、ライフプラン全体のアドバイスを得意とする。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。

2013年にはマネー・ビジネス分野の士業や専門家が参加する自社メディア、シェアーズカフェ・オンラインを設立、編集長に。2014年よりYahoo!ニュースに配信中。他にも編集プロダクション、専門家向けの執筆指導(オンラインサロン)、社長専属の編集者などの業務も提供。FP事業とメディア事業を車の両輪としてシナジーを経営者として日々追求。

お金よりも料理が好きな79年生まれ。

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