ひさしぶりの更新となります。この間、東日本大震災が発生してしまいました。地震大国に暮らす我々日本人にとっても想像を超える揺れで、東北地方の津波による被害は未曾有。私個人は何の力にもなることが出来ず、ただ心からのお悔やみとお見舞いを申し上げることくらいしかできません。

おそらく、東北地方にもジャズ・ファンの方が多数いらっしゃると思います。もしかすると、津波でレコード、CDのコレクションを失ってしまった方もいらっしゃると思うとなんとも言葉に出来ません。もしかすると、現段階では音楽のことなど考える余裕すらない生活を強いられているのでしょうか。

被災された方が、少しでも早く音楽や映画、スポーツ観戦などの娯楽を楽しむことができ、少しでも心が安まる生活に戻れるよう微力ながら心より願っております。

今回、ご紹介するのはラロ・シフリンというアーティストです。これまで紹介してきたプレイヤーたちとは少し異なる、言うなれば異質な存在のジャズ・アーティストです。彼の扱う楽器はピアノですが、ピアノ・プレイヤーとして名を成した訳ではありません。彼は、アレンジャー、そして作曲家として成功しました。そして、彼が最も成功したジャンルは、映画のサウンドトラックの作曲家としてで、ジャズ・アーティストとしてではありません。

なぜそんな中途半端な存在のシフリンを紹介するのかと言うと、彼のジャズ作品は非常に聴きやすく、わかりやいため。このブログの趣旨とも合致するからです。

シフリンはアメリカ人ではありません。アルゼンチン生まれ育ち、大学でクラシックを学んだ後、渡仏し、そこでもクラシックを学びます。ところが、留学を終え帰国してからジャズ・ミュージシャンとして活動するようになります。1958年ディジー・ガレスピーの知己を得、彼に曲を提供。これを気に入ったガレスピーにより、グループのメンバーに抜擢され、1960年に渡米することになります。


Lalo SCHIFRIN "Piano,Strings and Bossa Nova"【1962】
ラロ・シフリン 「ピアノ、ストリングス&ボッサ・ノヴァ」【1962年録音】 icon

先ほど、シフリンは作曲家/アレンジャーとして成功したと申し上げましたが、そのスタイルは以前紹介したクインシー・ジョーンズと似ております。自作曲、他人の曲を集め、再アレンジし、一枚のトータル・アルバムに仕上げる力は超一流。今作は、彼のアレンジャーとしての才覚を一躍知らしめることになります。折からのジャズ・ボッサブームに乗り、録音された作品です。

ただ問題は、シフリンの初期ジャズ作品の多くは現在入手困難な点。今作もHMVでは長い間、品切れ状態です。

youtubeに今作のタイトル/ジャケット違い作品"Insensatez"からの音源がありましたので、紹介します。1曲目収録"The Wave"。


5曲目収録"Silvia"。


聴いて頂くとわかると思いますが、非常に心地よいメロディ。かといって、ボッサ特有のまったりした雰囲気ではなく、攻撃的。新進気鋭のアレンジャーがよく知られたジョビンのメロディを自分色に染めようとアグレッシブに解釈したと考えるべきかと。

このアルバムは12曲収録ですが、ほとんどの曲が3分以内。全部聴いても30分程度です。が、1曲目から最終曲までの流れが尋常ではありません。よどみなく、最初から最後まで一気に聴かせます。まるで12曲で1つの曲かのごとくです。

入手は難しいかもしれませんが、中古店などで見かけたら是非とも検討してみてください。



Lalo SCHIFRIN "Black Widow"【1976】
ラロ・シフリン 「ブラック・ウィドー」【1976年】 icon

この作品は、中期の代表作とされている作品。この後で紹介するサントラ作家として活躍していた時期の作品で、ジャズというよりも、フュージョン、あるいはインスト・ロック的内容で、好き嫌いの分かれる内容かもしれません。

youtubeより6曲目に収録されている"Baia"という曲を。


ここからは、サントラ作家時代のシフリン作品を。誰でも一度は耳にしたことがある怒濤のシフリン・ワールドが展開します。



ラロ・シフリン 「ミッション:インポシブル」【TVドラマサントラ】 icon

TVドラマ「スパイ大作戦」のテーマ曲。後にリメイク映画「ミッション:インポッシブル」でも使われました。


Lalo SCHIFRIN "Enter the Dragon"【1973】
ラロ・シフリン 「燃えよ!ドラゴン」【1973年録音】 icon

世界中を席巻したブルース・リー。このテーマ曲もシフリンでした。


このシフリン作のテーマ曲が果たした役割の大きさは疑いようがありません。

【映画パンフレット研究所/「香港電影【1】ブルース・リー」】



Lalo SCHIFRIN "DIRTY HARRY"【1971】
ラロ・シフリン 「ダーティ・ハリー」【1971年録音】 icon

そして、世界中のサントラ・ファンを熱狂させたサントラ史に燦然と名を刻む傑作がこちら。ブリブリのハードなフュージョン的内容。ベース・ラインのかっこよさに悶絶するはず。「太陽にほえろ!」「ルパン三世」「傷だらけの天使」といった和ものサントラの源泉でもあります。


1970年代のアメリカ、サントラの中心は間違いなくラロ・シフリンでした。アルゼンチンで、クラシックを学び、後にジャズを志した若者が、紆余曲折を経て、サントラ作家として頂点に立ったということに。

この他にも多数傑作サントラを残して現在に至っております。



Lalo SCHIFRIN "TANGO"【1999】
ラロ・シフリン 「タンゴ」【1999年録音】 icon

そして、この作品はスペインの巨匠カルロス・サウラ監督による『タンゴ』というタンゴに情熱を傾けるダンサーたちの映画。しばらくサントラの世界から遠のいていたシフリンが久しぶりに手がけたサントラで、自らの母国アルゼンチン音楽に回帰した作品です。音楽家としてデビューして半世紀を経て、自らのルーツであるアルゼンチン・タンゴに初めてとり組みました。聴いたことのあるメロディが次々と登場し、さながらタンゴの歴史のダイジェスト版的内容。感動的です。

シフリンは、ジャズ・アーティストとしては中堅に止まります。サントラ界では超ビッグネーム。彼自身が望んだ結果かどうかは解りませんが、私のようなサントラ・マニアにとっては、唯一無二の大巨匠です。

ジャズ・アーティストとしては、作品も少なく、入手も困難なのは残念なところ。ですが、聴く価値のある偉大な作曲家/アレンジャーであることは疑いようがありません。是非とも、シフリン・ワールドに触れてみてください。

今回ご紹介したLalo Schfrin "Piano,Strings & Bossa Nova"【1962】の評価
【聞きやすさ】A
【歴史的意義】B
【スタイル】Bossa Nova Jazz
【演奏形態】Big Band
【メイン】Piano

       

iTunes Store(Japan)


Lalo Schifrin
Lalo Schifrin Orchestra and Sextet