これまで、「初めてのジャズ」にふさわしい作品を51枚紹介してきました。最多登場となったのは6作品を紹介したマイルス・デイビス。これは私がマイルス狂人であるという恣意的な理由からなのですが、一歩引いて客観的に見ても、マイルス作品が多くなってしまうことはモダンジャズ名盤史に照らし合わせて、それほど非常識なことではないと信じております。

しばらくの間、マイルス作品を自重してきたのですが、ここでもう1作紹介。今取りあげる「Kind of Blue」という作品が、ジャズの歴史上最重要作品であることに争いはありません。どのハンドブックを参照しても100%言及されているはずです。

問題は、この作品が「ファースト・ジャズ」にふさわしいか、という点。はじめてジャズに接する方にお薦めすべき内容かどうかです。

たしかに、少しクセがある作品です。もの凄くわかりやすい作品とは言えません。現在進行型四部作のような美しいメロディ・ラインで聴く者を虜にするタイプの作品ではありません。ただ、かといって難解な作品とも言えないはず。第一印象の耳障りは良くないかも知れませんが、なぜか印象に残る作品。そんな感じだと思います。

音楽的素養のない人間が、音楽理論に触れる危険性を感じながらも、今作の理論的な側面について少し触れてみようと思います。

この「カインド・オブ・ブルー」という作品は、”モード・ジャズ”を完成させた作品としてジャズ発展史上、重要な作品として評価されております。では「モード・ジャズ」とはなんなのか。

ウィキペディアの「モードジャズ」の項によれば、コード(和音)進行ではなくモード(旋法)進行を用いる奏法を指すそうです。今作はそのモード進行によるジャズを完成させたとされております。・・・わかりません。自分で書いていてもわかりません。

では、同じくウィキペディアで「モード(旋法)」の項を参照すると、「(ハード・バップまでのコード進行では)和音の構成音の範囲でしかアドリブは可能ではなかった」【=スケールの限界】のが、「(モード進行を取り入れることで)地味に陥る危険性をはらみながらも、自由な発想でアドリブ演奏できるようになった」とあります。原文を少々私が改変してしまいましたが。

ハード・バップ時代は、メロディアス(わかりやすい=劇的)に曲をプレイできる一方で、和音からはずれた音は使えず制限が大きかった、しかし、モード・ジャズではアドリブの範囲が広がった、ということのようです。

完全には理解できそうにありませんが、なんとなくわかります。ハード・バップに比べモードジャズは、地味に陥る危険があり【デメリット(1)】、メロディアスさは失った【デメリット(2)】半面で、アドリブの範囲が広がった【メリット】ということのようです。ジャズはアドリブが命です。ライブならなおさらです。そのアドリブの可能性が広がったというのは、理論的にきっともの凄いことなのでしょう。

とはいうものの、先述したようにデメリットもあります。最初にこの作品をこの「First Step:どれから聴くか」で取りあげるべきかどうか逡巡していると書きましたが、それがまさにこの点。メロディアスではない点です。思わず口ずさんでしまうような、お風呂に入ったとき口笛で吹いてしまうようなメロディアスさが感じられない点です。

と、色々書きつらねてきましたが、要は”音楽”です。聴けばわかる、合わないと感じたなら無理して聴くこともないんじゃないか、と。あまり深く考えずにチャレンジするくらいでいいんじゃないか、と。

ちなみに、音楽的素養を一切持ち合わせない私のような単なる音楽ファンですら、ガツンときました。一時は死ぬほど繰り返し聴いていました。だからほとんどの方は受け入れ可能なはず、ということでこのカテゴリで紹介可能と孤独に認定した次第です。



Miles Davis "Kind Of Blue"【1959】
マイルス・デイビス 『カインド・オブ・ブルー』【1959年録音】

メンバー構成が尋常ではありません。

マイルス:トランペット
ジョン・コルトレーン:テナーサックス
キャノンボール・アダレイ:アルト・サックス
ビル・エバンス、ウィントン・ケリー:ピアノ
ポール・チェンバース:ベース
ジミー・コブ:ドラムス

中でも白人ピアニスト、ビル・エバンスの参加が目を引きます。エバンスは、当時のジャズ界にあって突出した理論家として知られていました。新しいものを追い求め続けたマイルスにとって、モードジャズの完成にエバンスの参加は必要不可欠だったといわれております。

ただ当時、マイルスが白人ピアニストを選んだことで一部から猛烈な反発があったとか。エバンス自身がそのような偏狭な批判を嫌い、マイルス・グループへ継続的に参加することを断念。これ以降、生涯に渡ってあまり多くのプレイヤーと交わることなく、独自グループの活動に専念することになってしまいます。

とにかく、モードジャズの完成を宣言した今作の中から、1曲目に収録された象徴的な曲"So What"を。


まぁ、そういうことです。結局、理論うんぬんじゃなく、聴いてどうか。音楽はこれがすべてです。何千文字を費やして語ろうが、最終的には聴いて楽しいかどうか。コードだろうが、モードだろうが、聴いてる方にとってはどうでもいいんじゃないかと。

たしかに、素人目(耳?)にもこれまで紹介してきたジャズと比べ”ズレ”みたいのなものを感じなくもありません。より抽象的になった感じを受けます。

その一方で、何とも言えない異質な雰囲気をたしかに感じ取れます。何が違うのかを説明する力は私には備わっていませんが。

4曲目の"All Blues"。こちらも人気曲。


この「モード・ジャズ」は、数多くのライブ/スタジオレコーディングでの試行錯誤を経て"Kind of blue"で完成したと考えられております。



Miles Davis "Milestones"【1958】
マイルス・デイビス 「マイルストーンズ」【1958年】

「カインド・オブ・ブルー」の1年前に発表されたこの作品はモードジャズ完成一歩手前の作品とされております。

5曲目収録の"Milestones"


WOWO JAZZ FILEのテーマ曲にも使われていました。

この時期のライブを収録したのがこちら。

 



上が「At Newport 1958」。ニューポート・ジャズ・フェスでのライブ収録。下は、「Jazz At The Plaza」。1958年プラザホテルでのライブを収録。ピアノはビル・エバンス。

このあたりのライブ盤と一緒に聴くと、マイルス・グループの変遷、モード・ジャズへの道がより深く理解できると思います。

      

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