これまで「First Step:どれから聴くか」で紹介した作品のほとんどは、1950年代中盤から1960年代中盤までのいわゆる「モダン・ジャズ黄金期時代」に発表された作品です。3〜5人編成で演奏されるスタイルで、より詳細な分類ではハード・バップ、モード・ジャズ、ソウル・ジャズと呼ばれるジャズです。

現在、一般的に”ジャズ”と呼ばれる音楽は、基本的に「モダン・ジャズ黄金時代」に録音された作品を指すのが通常です。ですので、基本的にモダン・ジャズ黄金時代の作品を紹介することが自然と多くなります。

モダン・ジャズ黄金時代以前にももちろんジャズはありました。というよりも、1940年代までに完成したスウィング・ジャズ/ビッグ・バンド・ジャズ、1940年代初頭からはじまったビ・バップ旋風があったからこそ、モダン・ジャズ黄金時代が到来したと考えられております。

ただ、これら黄金時代以前の作品をこのブログではほとんど紹介してきませんでした。1930年代/1940年代の作品は、残念ながら録音状態があまりよろしくありません。これが最大の理由。また当時はアルバムという概念が希薄で、この時代の作品で現在販売されているものは大量の録音がセットになったコンプリート・レコーディングものか、ベスト盤が主流。いきなり10枚セットというのはマニアならいざ知らず、通常のリスナーにとっては敷居が高すぎます。これがふたつめの理由です。つまり、黄金時代以前のジャズは、媒体の問題で聴きにくく、よって紹介もしにくいという事情がございます。

モダン・ジャズ以前の代表的スタイルであるスウィング・ジャズ/ビッグ・バンド・ジャズは、ジャズ本来の素晴らしさである「単純に聴いて楽しいジャズ」。モダン・ジャズとは異なるシンプルな魅力がこの時代のジャズにはあります。

この時代の代表者としては、ルイ・アームストロング、デューク・エリントン、カウント・ベイシーらの名前が真っ先に上がります。彼らは演奏者であると同時に、バンド・マスターであり、アレンジャー。彼らは演奏することではなく、スタイルを提示することで、ジャズという新しい音楽を完成に導いた歴史的功労者でした。偉大なるジャズ・ジャイアンツたちです。

スイング期のジャズはもうひとつ別の視点からも観察できます。エリントンやベイシーらの楽団で演奏し、ジャズの発展に大いに貢献した偉大なるプレイヤーたちに注目する視点です。コールマン・ホーキンス【Coleman Hawkins/1904年生まれ/サックス奏者/ウィキペディア】、レスター・ヤング【Lester Young/1909年生まれ/サックス奏者/ウィキペディア】、ベニー・カーター【Benny Carter/1907年生まれ/サックス奏者/米国版ウィキペディア】、ベン・ウェブスター【Ben Webster/1909年生まれ/サックス奏者/米国版ウィキペディア】らがその代表格。オールド・スクール的なプレイヤーと考えて差し支えないと思います。

1940年代のビ・バップ期のスター、チャーリー・パーカーは1920年生まれ。モダン・ジャズ黄金期のスター・プレイヤーは、マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンが1926年生まれ。ソニー・ロリンズは1930年生まれ。彼らと比べると、先に挙げた4人は20年以上も前に生まれた世代。活躍した時期が大幅に異なります。彼らの全盛期はモダン・ジャズ期ではなく、その前のスウィング期。ビッグ・バンド単位で録音される時代でしたので、プレイヤー個人名義のジャズは基本的に存在しない時代に活躍したが故に、現在その演奏を聴くのは困難なプレイヤーたちです。

ホーキンス、ヤング、カーター、ウェブスターらの功績は大きく、若き日のパーカー、コルトレーン、ロリンズらは彼らをアイドル視し、彼らのようになりたいと練習に励み、ジャズ・プレイヤーの道を志したそうです。

録音技術が発展した1950年代以降、少ないながらもスウィング期の大物たちにも録音のチャンスがありました。往年の名プレイヤーによるいわば懐メロ的な録音と言えると思います。今回はそんな背景を持つ作品を紹介いたします。



Benny Carter "Further Definitions'"【1961】
ベニー・カーター 「ファーザー・デフィニッションズ」【1961年録音】

繰り返しになりますが、今作は1961年録音ですが、いわゆるモダン・ジャズ系の作品ではありません。スウィング期に活躍したかつての大スター、ベニー・カーター名義。つまり録音時点で最先端バリバリのプレイヤーではありません。

では聴いて古くささ/違和感を感じるのか。全くそんなことはありません。素晴らしいのひとこと。ジャズを語る際にしばし使われるキーワード「スウィング」の意味がこの作品を聴けばわかるはず。「スウィングしなけりゃ意味がない」という至言の正しさが身に染みるはず。

更に素晴らしいことに、今作にはコールマン・ホーキンスも全面参加。カーター名義ではあるものの、先ほど触れたかつての4大巨頭のうち2人がガッチリと手を組んだ作品ということに。ちなみに今作の米国版ウィキペディアの解説にはソロの演奏順まで記載されております。

と、ここまで今回の記事を書いて、大変ショッキングな事実が発覚。Youtubeをいくら探しても、"Further Definitions"の音源が見つかりません・・・。

この事実が解った段階で今回の記事を破棄することも考えました。が、やはりスウィング・ジャズの素晴らしさは是が非でも伝えたいと考え、別の音源を引用することで続行させていただきます。

【2013年12月3日追記:アップロードされた音源を発見しましたので追加します。】

まずは今作の1曲目に収録されている"Honeysuckle Rose"。ファッツ・ウォラー作のスランダード。


これまで紹介してきたハード・バップ主体のモダン・ジャズとの違いが分かっていただけるでしょうか。これがスウィング・ジャズです。素晴らしい内容。

【ここからは旧記事のまま】

"Further Definitions"では3曲目に収録されている"Crazy Rhythm"。1937年パリでの録音とのこと。


次に"Further Definitions"では8曲目に収録されている"Doozy"。映像は1987年日本公演の模様とのこと。


カーターは1907生まれですので、この時点で80歳。

"Further Definitions"からの音源は紹介できませんでしたが、スウィング・ジャズの雰囲気は十分伝わったのではないかと思います。ビ・バップ/ハード・バップと比べるとかなり明朗で、明るく楽しいジャズと言えるのではないかと。

モダン・ジャズが今ひとつ肌に合わないと感じていらっしゃる方にもお薦めできる内容かと思います。
   

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Benny Carter
Benny Carter and His Orchestra
Benny Carter Quartet
The Benny Carter All-Star Sax Ensemble