私はジャズ愛好家であると同時に、熱烈な映画ファンでもあります。「一番好きなジャズ・アルバムを一枚挙げろ」と訊ねられると困るのと同様に、「一番好きな映画を一本挙げろ」と言われると困惑します。無理に決まってますので。あるジャンルが好きであれば好きであるほど、こだわりが生まれ「ベスト1は?」という質問に答えづらくなる。この感覚は多くの方にご理解頂けるのではないでしょうか。


ジャズ同様に、映画に関しても私は偏愛体質です。私が最も好むジャンルの映画は、西部劇と時代劇、そして犯罪映画。つまり、芸術性を重んじる高尚な映画愛好家ではありません。そして古いジャズを愛聴するの同様に、映画に関しても古い作品を好みます。1940年代から1960年代、そして1970年代くらいまででしょうか。


興味深いことに、西部劇の歴史はジャズの歴史に驚くほど良く似ております。サイレント映画時代の1920/1920年代に勃興し、1940/1950年代に全盛期を迎え、1960年代は斜陽期、1970年代にリアリズムを追究した結果、衰退。1980年代には死に体に。ジャズの繁栄と衰退史と完全にシンクロしております。これは日本の時代劇にも同じように当てはまります。


それはさておき、個人的な意見を述べさせて頂くと、ハワード・ホークス監督の『赤い河』【1948年/ウィキ】という作品が生涯ベスト1映画の候補として思い浮かびます。デュークとあだ名された西部劇の大スター、ジョン・ウェイン主演作。大変著名な作品ですのでご存知の方もいらっしゃるはずです。






ラストの決着の付け方がちょっと違和感を感じなくもないのですが、私にとっては大変魅力的な西部劇です。今でも毎年一回は見直しております。


なぜジャズ名盤紹介のブログでアンタは西部劇について語っているんだということに当然なっちゃう訳ですが、この『赤い河』という作品についてのある批評家(誰だったか失念しました)の分析が大変面白いと感じた記憶があり、それが今回紹介するジャズ作品ともちょっとだけ関係してきます。


『赤い河』には、3人の重要な人物が登場します。牛追いたちの長く過酷な旅を描いたロードムービーですが、牛追いグループのリーダーで中年男を演じるのがジョン・ウェイン、彼と長年仕事を共にしている老人を盟友ウォルター・ブレナンが演じます。そして今回の旅で初めて雇われた若者の拳銃使いにモンゴメリー・クリフト。この三者の友情と対立を軸にストーリーは進んでいきます。


『赤い河』が優れたドラマ作品たる所以は、老人・中年・若者という三者三様の価値観がぶつかり合うから、といった趣旨のことを件の批評家は述べておりました。その説を読み、なるほどねと私は膝を打った訳です。黒澤明の『七人の侍』が凄いのは、経験のあるリーダーで中年男・勘兵衛がいて、対照的なキャラクターとして無軌道な若者・菊千代がいてこそ魅力的な作品になっている訳です。『風の谷のナウシカ』のユパ様、『踊る大捜査線』のいかりや長介などなど、若者が暴走するのを止める役目をベテランが果たし、より深いドラマを作り上げるパターンは今や小説や映画では王道となっております。


ここでジャズに話を戻しますが、ジャズは世代間の闘争的な歴史を持ちます。スウイング・ジャズ全盛期にビ・バップが生まれ、後にハード・バップへ進化。その後も新世代が登場し、新しいジャズを提示してきたのがジャズの歴史です。世代の断絶が前提のようなもので、多くの作品は同世代/同じ傾向のジャズメンたちによって録音されるのが通常です。


ですが、ジャズの場合、世代の断絶は必ずしも悪ではなく、全く問題はありません。同じ傾向のジャズメン、同世代のジャズメン同士でレコーディングした方がより刺激的で新しいジャズが生み出される可能性は高まります。ですが、それと同時に、ジャズの奥深さは振幅の大きさであることも重要です。楽器構成やパーソネルなどありとあらゆる組み合わせが試されてきたことで、とんでもなく実り多きディスコグラフィが形成されてきた歴史があります。当然、スタイルの異なる異世代のジャズメンたちによる激突セッションが多数企画されてきました。これは同世代セッションとは異なる魅力を持っております。


これまで紹介したベテランと若手が激突した作品は以下の通りです。



53枚目:Dizzy Gillespie conducted by Lalo Schifrin "Free Ride"【1977】


1940年代初頭台頭組のBe-Bop世代Dizzy【1917年生まれ】が、かつての弟子でサントラ界で大成功を収めたLalo Schifrin【1932年生まれ/過去記事】をアレンジャーに迎えて吹きこんだフュージョン/ジャズ・ロック的作品。


68枚目:Coleman Hawkins "With The Red Garland Trio"【1959】


スウィング・ジャズ世代を代表するサックス奏者ホークが、モダン・ジャズ世代のピアニストRed Garland率いるTrioと共演。


巨人、邂逅ス【5】"Duke Ellington & John Coltrane"【1962】


スウィング・ジャズの代表者Duke Ellingtonがモダン・ジャズ世代のトップランナー的存在だったコルトレーンと共演。


巨人、邂逅ス【6】Dizzy Gillespie "Sonny Side Up"【1957】


1940年代初頭のBe-Bop期台頭組のDizzy、その少し下の世代のSonny Stitt、1950年代中盤台頭組のSonny Rollins。3人ともモダン・ジャズ世代ですが、その内部で微妙に世代が異なります。


巨人、邂逅ス【7】Duke Ellington "Money Jungle"【1962】


スウィング・ジャズの代表者Duke Ellingtonがモダン・ジャズの鬼才Charles Mingus、Max Roachを迎えて録音したピアノ・トリオ作品。噛み合ってるのか、噛み合ってないのか、いまひとつ伝わって来ない内容に。


変わり種Jazz【23】Dave Brubeck Quartet Feat.Jimmy Rushing "Brubeck and Rushing"【1960】


モダン・ジャズ世代の人気白人ピアニストDave Brubeck率いる定番Quartetが、スウィング・ジャズ期にCount Basie Orchestraの看板ヴォーカリストだったJimmy Rushingをまさかの大フィーチャー。珍妙なる組み合わせですが、意外や意外掘り出し物的好盤に。


巨人、邂逅ス【9】Charlie Parker "Jam Session"【1952】


モダン・ジャズの代表者であるCharlie Parkerがスウィング・ジャズ世代の代表的アルト奏者Benny Carter、Johnny Hodgesと共演したJam Session盤。アルトの名手が3人顔を揃えた点も貴重。



そして、今回取り上げるのは、ベテラン・テナー奏者コールマン・ホーキンスと若手のソニー・ロリンズが激突した"Sonny Meets Hawk"【1963】です。



ソニー・ロリンズは、ご存知モダン・ジャズ系の大人気テナー・サックス奏者。これまで紹介したソニー関連作品は以下の通り。


21枚目:Sonny ROLLINS "Saxophone Colossus"【1956】

51枚目:Sonny Rollins "Work Time"【1955】

ライヴ盤列伝【3】Sonny Rollins "A Night At Village Vanguard"【1957】

巨人、邂逅ス【6】Dizzy Gillespie "Sonny Side Up"【1957】


今作録音時、人気絶頂だったソニーにとってコールマン・ホーキンスはあこがれの存在だったそうです。というよちも、ソニーに限らず多くのモダン・ジャズ系サックス奏者にとって、少年時代にラジオから流れてくるホークのクールなサックス・ソロを聴いて育ち、彼を模倣しプロを目指したなんてエピソードを良く目にします。


そもそもジャズが出現した当時、サックスはほとんど使われることなく、トランペットやコルネット、クラリネット、トロンボーンが主役でした。後にサックス奏者はアンサンブル要因としてビッグ・バンドに参加するようになり、コールマン・ホーキンスの登場によってはじめて、サックスはソロをとる花形楽器としての地位を確立したと言われております。現在ではジャズと言えばサックスというイメージも強いかと思いますが、それもこれもホークの活躍があってこそ。バードやソニー、コルトレーンの登場も、ホークが切り開いた道があってこそだった訳です。


ホーキンスと同世代で、ジャズ・サックスの代表者の意のニックネームPresと呼ばれたレスター・ヤングですら、「本当のプレズはオレなんかではなくホークなんだよ」と言ったとか。


これまで紹介したホーク関連作は以下の通りです。


68枚目:Coleman Hawkins "With The Red Garland Trio"【1959】


95枚目:Coleman Hawkins "Hawkins! Alive! At the Village Gate"【1962】


巨人、邂逅ス【10】Eddie "Lockjaw" Davis "Very Saxy"【1960】


巨人、邂逅ス【11】"The Famous Esquire Jazz Concert 1945"【1945】


ホークに関して、もうひとつ重要な点があります。1939年に彼はスタンダード曲"Body and Soul"を録音しておりますが、実はこの演奏でホークはメロディラインをほぼ無視してしまいます。この演奏は当時衝撃的に受け止められ、後にBe-Bop誕生の端緒のひとつとなったと考えられるようになります。ホークはバードやディジーより以前にバッパーだったということに。


Coleman Hawkins "Body and Soul"【1939】



その後、モダン・ジャズ黄金時代突入後、ほとんどのスウィング世代のサックス奏者たちは、それまで同様スウィング・スタイルの演奏を続けることになりますが、ホークはモダン・ジャズ的なアプローチに挑戦。Milt Jackson、Red Garland、Thelonious Monk/John Coltrane、Max Roachらモダン・ジャズ世代の若手たちのレコーディングに積極的に参加していきます。この点でLester Young、Ben Webster、Benny Carter、Johnny Hodgesのような同世代のサックス奏者とホークは異なります。






Sonny Rollins/Coleman Hawkins "Sonny Meets Hawk"【1963】
ソニー・ロリンズ/コールマン・ホーキンス 「ソニー・ミーツ・ホーク」【1963年】


"Sonny Meets Hawk"のパーソネルは以下の通り。


Tenor:Sonny Rollins/Coleman Hawkins


Piano:Paul Bley
Bass:Bob Cranshaw/Henry Grimes
Drums:Roy McCurdy


ロリンズのグループにホークが加わる形で構成されました。白人フリー・ジャズ系ピアニストPaul Bley、Grimes、McCurdyは今作の二か月後に行われた東京公演にも参加しております【参照:Discogs Sonny Rollins Tokyo 1963】。


4曲目収録"Just Friends".

原盤では左チャンネルがホーク、右がソニーとなっていますが、このyoutube音源はごちゃまぜになっております。先手がホーク【0:12-031】、後手がソニー【0:31-】です。2:19から再びホーク。3:15過ぎから先手ホーク後手ソニーでコール・アンド・レスポンス。途中でひっくり返ります。噛み合ってるのか、噛み合ってないのかいまひとつわかりませんが、不思議な魅力を感じてしまいます。



5曲目収録"Lover Man".

こちらの音源は、きちんと左右が分かれており、左チャンネルがホーク、右がソニーです。



ソニーは方向性に悩み、絶頂期だった1950年代末に失踪事件を起こします。"ブリッジ"事件【ウィキ/1950年代の項】。もちろん、ほどなくして復帰することになるのですが、1960年代初頭はソニーにとって難しい時期であることに変わりはありませんでした。コルトレーンのように、アヴァンギャルドからフリーの道を行くのか。あるいはバッパーであることを貫くのか。もしくはソウル・ジャズ路線なのか。


"Sonny Meets Hawk"に、痛快なサックス・バトル的なものを期待すると肩透かしを喰らったような印象を受けるかもしれません。ですが、悩めるソニーにとって、子供のころからのあこがれだったホークとの共演は意味のあることだったはず。実際にホークにアドヴァイスを求めたのか、あるいはホークは背中で語ったのか。それは解りませんが。逆に、柔軟なホークもソニーから大いにインスパイアされたはずです。


ベテランと若手、異なるバックグラウンドを持つ2人の名手がぶつかったことで起きた化学反応を堪能できるはず。聴けば聴くほど味が出るタイプのアルバムです。











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