サックスはジャズ・ユニットの花形です。ロック・バンドで言えばヴォーカル的なポジションということになります。ご存知のように、サックスは1種類ではありません。詳細はウィキペディア:サクソフォーンを参照して頂くとして、ジャズで使用される主要なタイプとしては、ソプラノ・サックス、アルト・サックス、テナー・サックス、バリトン・サックスが挙げられます。ソプラノ/アルト/テナー/バリトンというワードは、学生時代の音楽の時間にいずれかのグループへと振り分けられた経験を誰もが持っているはず。要は音の高低を示している訳です。


ただ、ジャズ界にソプラノとバリトン・サックス奏者はあまり多くありません。ソプラノ使用例としてはジョン・コルトレーンの"My Favorite Things"が著名ですが、彼の本職はあくまでもテナー。アーリー・ジャズ期の人気管楽器奏者シドニー・ベシェ【過去記事】が、ソプラノ・サックスを初めてジャズに持ち込んだとも言われますが、彼の場合もメインはクラリネットでした。ソプラノ・サックス専門の奏者はほとんどおらず、マルチ・リード奏者が時々使うといった感じになります。


バリトン・サックス奏者も同じくマイナー。Gerry Mulligan【関連記事】、Sahib Shihab【wiki】、Cecil Payne【wiki】らが有名どころですが、彼らにしてもそれほど人気・知名度が高いとまでは言えません。やはりあくまでもマニアック系に止まります。バリトンの特徴的な音はとてもクールですが、楽器自体がデカイだけに流れるようなソロというよりももっさりした音になりがちという印象を個人的には持っております。


残るアルトとテナーがサックス界のTop2ということになる訳ですが、横並びのBIg2ではなく、テナー奏者の方が圧倒的に数が多くなっております。ジャズにお詳しい方なら、数十人単位でテナー奏者の名前をスラスラと挙げていけるはずです。100人以上挙げられる方だっているはずです。これに対し、アルト奏者はそれほど数は多くありません。テナー:アルトの比率は、10:1ですと過小すぎると思いますが、7:1あるいは8:1くらいではないかと個人的には考えております。


つまり、ジャズ・サックス奏者と言えば、王道はテナー・サックス。大半がテナーで、少数派としてアルト奏者。僅少ながらソプラノ/バリトン・サックス奏者もいる、といった感じになります。実際、スウィング・ジャズ期の奏者であれば、コールマン・ホーキンス、レスター・ヤング、ベン・ウェブスター、モダン・ジャズ期であれば、コルトレーンやソニー・ロリンズ、オーネット・コールマンなど著名どころはほとんどテナー奏者ということになります。


今回は少数派であるアルト奏者作品を紹介しますが、まずはこれまで紹介したアルト奏者作品を少し整理しておきます。


スウィング・ジャズ期から活躍するアルト奏者として真っ先に思い浮かぶのがベニー・カーター大師匠です。


60枚目:Benny Carter "Further Definitions'"【1961】

97枚目:Benny Carter "Swingin' The 20's"【1958】


カーター大師匠は、アルト吹きですが、同時にテナー/トランペットも吹いてしまう達人。しかもアレンジャー/バンドリーダーとしても数多くの名演に絡んでいるジャズ・レジェンドです。


同じスウィング・ジャズ世代では、長らくデューク・エリントン楽団のソロ奏者として活躍したジョニー・ホッジズ【wiki/ウィキ】も名手として知られております。



モダン・ジャズ世代では、何といってもチャーリー・パーカーです。


72枚目:Charlie Parker "Charlie Parker With Strings"【1949/1950】


巨匠、邂逅ス【4】The Quintet "Jazz at Massey Hall"【1953】

巨人、邂逅ス【9】Charlie Parker "Jam Session"【1952】


チャーリー・”バード”・パーカーは、モダン・ジャズ誕生に大きく貢献した歴史的ジャズメンです。ジャズ愛好家が「最も偉大なジャズメンは?」と質問された場合、理論上の唯一の正解は「チャーリー・パーカー」ということになります。延々と続くアドリヴ・ソロを展開し、その超速ソロは神がかり的。ジャズの歴史上最大のイノベーションであったモダン・ジャズの誕生を主導したバードが、少数派のアルト奏者だったというのも興味深いところです。


3作目の"Jam Session"は、前述ベニー・カーター大師匠、ジョニー・ホッジズとバードの偉大なアルト奏者3人が世代を超えてジャムるというアルト愛聴家にとっては涙腺崩壊ものの歴史的セッションです。



Charlie Parker "Kim"。1952年録音。娘に捧げた曲です。バードのソロに注目して頂きたいところです。

p:Hank Jones/b:Teedy Knotick/d:Max Roach。









チャーリー・パーカー以降に登場したアルト奏者は、常にバードと比較されるという宿命を背負うことになります。ソニー・スティットは、「チャーリー・パーカーの模倣者」と揶揄されたりもしたそうです。ただし、スティットはテナーも吹く両刀使い。


82枚目:Gene Ammons/Sonny Stitt "Boss Tenors: Straight Ahead from Chicago 1961"【1961】


103枚目:Sonny Stitt "Only The Blues"【1957】



ジャッキー・マクリーンは実験精神の旺盛なモダン・ジャズ期を代表するアルト奏者でした。


55枚目:Jackie McLean "4,5 & 6"【1956】



エリック・ドルフィーもアルト奏者ですが、彼の場合、フルート/ベース・サックスなど複数楽器を完璧に使いこなすマルチ・リード奏者。アルト奏者という小さな枠で語るのは不可能な怪物です。


Jazz探求【4】Eric Dolphy "Far Cry"【1960】

ライヴ盤列伝【12】Eric Dolphy "The Illinois Concert"【1963】




今回紹介するジュリアン・”キャノンボール”・アダレイも、モダン・ジャズ期を代表するアルト奏者。しばしば「チャーリー・パーカー以降に登場した最も重要なアルト奏者」と評されることもあります。


これまで紹介したキャノンボール作品は以下の通り。


18枚目:Cannonball ADDERLEY "Somethin' Else"【1958】

63枚目:Cannonball Adderley "Cannonball's Bossa Nova" 【1962】

79枚目:Cannonball Adderley "The Cannonball Adderley Quintet In San Francisco"【1959】



これに加え、"Kind of Blue"Session期のMiles Davisグループにキャノンボールは参加しておりました。


"Kind of Blue"に関係してはいるのですが、キャノンボールはどちらかというと挑戦的な作風ではありません。基本的にはストレート・アヘッド系で、理屈をごちゃごちゃとコネるタイプではありません。マイルス・グループ脱退後は、弟のNat Adderley【過去記事】とのグループで、明快なソウル・ジャズ路線の作品を連発します。ソウル・ジャズ系ピアニストの名手Bobby Timmons【過去記事/】がしばしば彼らのグループに参加しているのも聴きどころのひとつです。


一方で、キャノンボール作品は平易なソウル・ジャズ作品ばかりで、あまり刺激がないという考え方もたしかに可能。コルトレーンやオーネット・コールマン作品に期待する「このアルバムではどんなことをするのか」というワクワク感が若干足りません。ですが、革新的であることだけがジャズの唯一の美点ではありませんし、グルーヴ職人的存在も確実にジャズの一部です。


今回はアダレイ兄弟グループによるルーティン・ワーク的なアルバム"Them Dirty Blues"【1960】を紹介します。








The Cannonball Adderley Quintet "Them Dirty Blues"【1960】
キャノンボール・アダレイ・クインテット 「ゼム・ダーティー・ブルーズ」【1960年】


パーソネルは以下の通り【参照 wiki:Them Dirty Blues】。


as:Cannonball Adderley

cor:Nat Adderley
b:Sam Jones
d:Louis Hayes


名手ばかりの充実したパーソネル。以上4人は全曲参加ですが、ピアノに関しては曲によってBobby Timmons/Barry Harrisが入れ替わります。


ティモンズは人気がありますし、私も大ファン。彼のピアノは聴き手の心をくすぐりワクワクさせる魅力があります。しかもティモンズ作の名曲"Dat Dare"も演っているのですが、今回は敢えてティモンズはずしを断行し、バリー・ハリスがピアノを弾く2曲を取り上げます。


ティモンズを聴かせろ!という方で、今作収録"Work Song"を聴きたい場合はこちら。"Dat Dare"はこちら



3曲目収録"Easy Living"。

Bop的なスタート。クールなアルトが絡んでスタート。先ほど紹介したチャーリー・パーカーの音源と聴き比べると解るかと思いますが、やはりモダン・ジャズ世代のアルト奏者にとってバード・パーカーの影響は絶大であることが解ります。







7曲目収録"Them Dirty Blues"。

渾身のブルーズ・ナンバー。ブルーズ愛聴家として推しどころです。サム・ジョーンズの素晴らしさも聴きどころ。名演だと思います。