今回は、天才の系譜【4】Thelonious Monk/セロニアス・モンクJazz探究【10】Thelonious Monk "Brilliant Corners"【1958】に続く、3度目のThelonious Monk作品の紹介となります。


セロニアス・モンクは、1963年5月に来日公演を行っております。そのうち5月21日に東京のサンケイホールで行われたコンサートはCBS/SONY Recordsによって録音されておりました。ですが、すぐに音源化されることはなく、1969年にLPレコードとして【discogs】、1972年には2枚組LPの完全盤【discogs】としてCBS/SONY Recordsからリリースされました。内容が日本公演ということもあってか、日本先行発売といいますか、当初は国内のみでのリリースに止まりました。モンクが亡くなった1983年以降は"Tokyo Concert"など様々なタイトルが付けられた上、発掘音源的な形で世界中でリリースされたそうです。現在最も入手の容易なCDは2枚組の完全版。ジャケット・デザインは1973年CBS/SONY盤とは異なります。


モンクの東京公演を収録した"Monk In Tokyo"を是非ともお勧めしたい最大の理由は、日本で録音されたからという理由からではありません。単純に楽しいからです。もちろん今を遡ること50数年前にモンクが我が国にやってきてくれ、しかもその模様が録音されていたという事実は、日本人ジャズ愛好家/モンク愛聴家の心をくすぐることは否定できません。ですが、それはあくまでもプラスα的な付加価値にすぎず、ジャズ作品としてシンプルに素晴らしいと言う理由から是非とも紹介したいと考えました。


どの点で素晴らしいのかといいますと、まずはモンク独特の音楽性を堪能できるという点です。モンクは他に類を見ないスタイルの作風で知られる作曲家でもあります。"Monk In Tokyo"には彼の代表的な楽曲が多数収録されており、しかもワン・ホーン・カルテットによる演奏ですので、複雑すぎると感じることのなしにストレート・アヘッドな形でモンク独特の世界観が表現されます。言い換えれば、大変聴きやすい内容になっております。ライヴ録音盤独特のブロークンなスタイルの演奏にはなっておらず、スタジオ録音盤に近い明確で洗練された内容となっております。


モンク楽曲が勢ぞろいしており、モンク・サウンドのベスト盤的なアルバムとしての価値があるのではないかとさえ思います。










Thelonious Monk "Monk In Tokyo"【1963】
セロニアス・モンク 「モンク・イン・トーキョー」【1963年】


パーソネルは以下の通り【参照:Discogs Monk In Tokyo】。


p:Thelonious Monk

ts:Charlie Rouse【過去記事
b:Butch Warren【wiki
ds:Frankie Dunlop【wiki


全編を通じて大活躍するのは実はモンクではなく、テナー王者のチャーリー・ラウズ。モンク・サウンドの体現者として、モンクの魂が乗り移ったかのごとき渾身のブロウを聴かせ続けてくれます。モンクらしいソロは所々で散見されますが、演奏の中心はあくまでもラウズ。ですが、サウンドはモンクのものです。


Disc1の1曲目収録"Straigh,No Chaser"。言わずと知れたモンクの代表曲。youtube音源が埋め込みリンク禁止設定のため、youtubeでご視聴になってください。聴く価値はあるはずです。以下のリンクをクリックすると別ウインドウで開きます。

youtubeで"Monk In Tokyo" Straight,No Chaserを聴く


モンクが口火を切り、その後ラウズらが続きます。モンク・ワールドに心が躍ります。1:00辺りから早くもラウズのソロがスタート。伸び伸びとスムーズなブロウに魅了されるはず。3:20辺りからモンクのソロ。たどたどしいのがモンクの流儀。5:50から6:10辺りでウォレンにソロが受け渡されますが、ちょっとタイミングが曖昧でモヤっとしますが、彼のウォーキング・ベースそのものはベースライン至上主義者のハートをガッチリと掴むはず。7:30過ぎからダンロップ。9:00でメロディに回帰。


知名度的には地味なパーソネルに思える可能性もありますが、個々のソロは大変魅力的。リズム・セクションも快調この上なく、モンクの選別眼の高さが伺えます。



Disc1の6曲目収録"Bemsha Swing"。

0:50からラウズの素晴らしいソロ。2:10からモンク。このアルバム全編を通じてラウズは素晴らしく、印象に残るのはモンクのピアノではなくラウズのテナーの音になるはずです。もちろんワン・ホーン・カルテット構成ですので必然的に印象的なメロディを吹くのがラウズという事実もその印象を強くしている訳ですが、その点を考慮してもラウズの存在感は突出しております。モンク・サウンドの顔として大活躍です。モンクの手となり足となって、彼の音楽性を支えていると言っても過言ではありません。


ご存知のように、1950年代のモンク・グループのサックス奏者は頻繁に入れ替わっていました。John Coltrane、Sonny Rollins、Johnny Griffinらが代わる代わるフロントを務めました。契約など外的な要因もあったはずですが、誰も定着しませんでした。1960年代に入ってラウズが加入すると、モンクが音楽活動を停止する1960年代末までモンク・サウンドの担い手であり続けます。"Monk In Tokyo"でもラウズの素晴らしさはいかんなく発揮されていると思います。文字通りモンクの手となり足となり、モンクズ・ミュージックを鳴らし続けているといった感じでしょうか。"Monk In Tokyo"を紹介するということは、実はチャーリー・ラウズを紹介したいということなのかもしれないとすら思います。


youtubeに音源があまりなく今回は2曲のみの紹介となりますが、個人的にはラウズによる泣きのサックスが心にしみるDisc1の2曲目"Pannonica"およびDisc2の2曲目"Hackensack"も必聴と考えております。


最後に驚異的な影像を。実は1963年来日時、モンクはTBSだったでしょうか、日本のTV局でライヴを行っております。生放送だったのかはわかりませんが。その映像がなぜかyoutubeにアップされております。38分。



3:00台に徘徊するモンク。理由はわかりません。自由なんです。立ち居振る舞いから常人でないことが映像からは伝わってくるはずです。変人を演じているようには思えません。モンクがどう行動しようとラウズと他のメンバーは一切気にせず淡々としているコントラストも興味深い点。その後もモンクはしばしば席を立ち歩き回ります。モンクがソロを弾いている映像を目にすると「ミスタッチ」の定義を変更せざる得ないと感じるはずです。正確性とはなんなのか。技術とはなんなのか。いやいや正確な技術力はどのような分野でも最も必要とされてしかるべきものであることは当然です。ですが、ほんのひと握りの者だけは、その大原則すら超越してしまうということなのでしょう。ジャズ界ではモンクこそがほんの一握りの例外に当たると考えるべきだと思います。