ジャズ愛聴家にとって、ピアノ・トリオ作品は少し意地悪な言い方をすると安全牌的な存在と言うことができるでしょうか。まぁ、それなり名前の通ったピアニストのトリオ録音盤を買っとけば大体期待に応えてくれるはず、と言った感じです。そして、オスカー、レッド・ガーランド、ビル・エバンス作品をはじめ、良く知るピアニスト作品を次々と聴いて行くわけです。楽しくて仕方がありません。もっと聴きたくなります。何年もかけて数十枚、人によっては数百枚聴いて行くはずです。


この作業があるレヴェルに達すると、なかなか次に聴くべき作品を見つけ難くなっていきます。私は時代を更に遡って、スウィング・ジャズ世代のベテラン・ピアニストの作品に活路を求めました【カテゴリ:1940年代以前のJazz】。逆に、オン・タイムのジャズ・シーンに目を向ける方法もありえます。もうひとつの選択肢は、モダン・ジャズ黄金時代に録音を遺したマイナー系ピアニストに取り組むことです。1950年代/1960年代に録音されたジャズ作品は山のようにあります。我々のようにガイドブック片手に過去にさかのぼって「名盤」を聴いている世代の知らぬマイナー系ピアニスト作品は数え切れぬほどあります。それらを「発掘」していく訳です。


前回、取り上げたJohn Wrightもそのうちのひとり。今回紹介しますHerman Foster【wiki】も同じくマイナー系ピアニスト。マイナーではありますが、ジョン・ライトと比較するとハーマン・フォスターの方が知名度は高いのではないでしょうか。ハーマン・フォスターは1928年生れですので、マイルス/コルトレーンとほぼ同世代。何らかの理由で視力を失い、盲目のピアニストすることを余儀なくされたそうです。1950年代にLou Donaldsonのグループで活躍。彼の人気盤"Blues Walk"【1958】にもサイドマンとして参加しておりました。


前掲wikiのDiscographyを参照して頂くと解りますが、1960年代初頭に3枚のリーダー作を吹き込んだ後リーダー作は途切れ、1980年代に1作を録音したようですが、レコーディング・アーティストとしては大きな成功を手にすることなく、1999年に70歳で亡くなっております。録音数が少ないからと言って、その演奏家の魅力が低いとは必ずしも言えませんし、逆に多いからと言って優秀とも言えない訳ですが、我々ジャズ愛聴家は主に録音を聴くしか彼らを知る術はありませんので、録音数=メジャーかマイナーかと判断せざる得ません。エンターテインメントの世界ですので、必ずしも優秀であることが成功に繋がるとも限りませんし、もちろん時代の流れに左右されます。フォスターの生年から考えると、本来であれば1950年代中盤のジャズ全盛期に録音を開始し、ある程度の地位を確立していれば、ロックやソウル・ミュージックにジャズが押されはじめた1960年代も乗り切れたのかもしれません。まぁ、本当の所はわかりませんが。


私もマイナー盤発掘の過程で、数年前に日本盤が再発されたタイミングで"Have You0 Heard"【1960】を入手できました。でなければ、未知のピアニストのままだったかもしれません。







Herman Foster "Have You Heard"【1960】
ハーマン・フォスター 「ハヴ・ユー・ハード」【1960年】


パーソネルは以下の通り【参照:Discogs】。


p:Herman Foster

b:Earl May【wiki
ds:Frankie Dunlop【wiki


アール・メイ、フランキー・ダンロップ共に中堅といった印象。ダンロップは1960年代にモンク・グループで活躍した印象があります。




1曲目収録"Herman's Blues"。

だんだんとフォスターのテンションが上がっていき、1分台中盤から乱暴とも思えるほどに。2:20からメイのベース・ソロ。3:00過ぎからフォスターとダンロップの丁々発止。



2曲目収録"Volare"。

9分を越える長尺曲ですが、山あり谷ありで最後まで楽しく聴けるはず。ピアノ・トリオ構成で長尺曲を退屈させずに聴かせ切る力は凄いと言わざるえません。


おまけでもう1曲。1984年に20年ぶりにリリースされたリーダー作"The One and Only"【discogs】収録 "Smoke Gets In Your Eyes"。邦題「煙が目にしみる」として知られるヒット・チューン。

ご存知のように"Smoke Gets in Your Eyes"と言えば、コーラス・グループThe Plattersの大ヒット曲。しっとりとした曲調【" target="_blank" title="">youtube音源】。プラターズ音源を確認した後、フォスター版を聴いて頂くと、技術と創造力を使いつつ、いかにして彼がこの著名曲を料理したかが解って興味深いと思います。ガラリと雰囲気を変えてしまっております。先ほど紹介した"Herman's Blues"との親和性も垣間見え、ハーマン・フォスターという魅力的なピアニストの特徴が良く表れていると思います。