ここ3回続けてご紹介してきた作品は、ジャズの基本から少しはずれた変わり種作品ばかりでした。が、”変わり種”などというと例外的で常道からはずれた作品というニュアンスを含んでしまうようにも思いますが、そもそもジャズは今も昔も限りなく自由な音楽です。完全な定型がなく、革新的なスタイルが登場し、しばらく経つとそのスタイルを打ち破る新しい別のスタイルが台頭してくる。時には、ルネッサンスのごとくかつて流行したスタイルが蘇ることもあります。ですから変わり種とは表現しましたが、別に奇異な作品であることは意味しません。


1960年代、ジャズ界をある外国の音楽が席巻します。それは、ブラジル発の音楽ボサ・ノヴァ。1950年代後半にブラジルで起こった新しい音楽の潮流、ボサノ・ヴァですが、フランス映画『黒いオルフェ』【1957年/フランス=ブラジル合作/監督:マルセル・カミュ】のサントラで使用され世界中で大ヒット。その影響はジャズ界にも押し寄せます。数々のビッグ・ネームがボサ・ノヴァを採り上げた作品を発表。一大潮流を作り出しました。


かつてこのカテゴリ2枚目でご紹介したOscar Petersonの"We Get Request"。一曲目の"Corcovado"も実はボサ・ノヴァの第一人者アントニオ・カルロス・ジョビン【Antonio Carlos Jobim】の作品。ボッサの名曲とジャズが自然体で融合した好例だと思います。言われなければ、純ジャズとして受け入れられるでしょう。言われてみれば、なるほどと思える。ジャズとボサ・ノヴァの相性の良さの証明です。


ジャズの演奏家がボッサを取りあげたのは数多くございますが、今回ご紹介するのはクインシー・ジョーンズ【Quincy Jones】の作品。彼はそもそもプレイヤーではなく、作曲家・編曲家。モダン・ジャズ全盛期の1950年代半ばに新しい形のビッグ・バンド・ジャズを模索。名曲に新しいアレンジを施し人気を博します。後に映画音楽も多数てがけ、黒人俳優シドニー・ポワチエの出世作『夜の大捜査線』【1967年】やサム・ペキンパーのバイオレンス映画『ゲッタウェイ』【1972年】のスコアを担当。さらにはポップスのプロデュースも手がけ、マイケル・ジャクソン【Michael Jackson】の歴史的ヒット作"Off The Wall"【邦題「オフ・ザ・ウォール」1979年】、"Thriller"【邦題「スリラー」1982年】を世に送り出したことで知られます。


常に最先端を行く男クインシー・ジョーンズ。彼が当時の流行最先端ボサ・ノヴァをどう料理するのか。驚くべき成果があがります。やはりクインシーは天才か。そう思わずにはいられない傑作が生まれました。




Quincy Jones "Big Band Bossa Nova"【1964】
クインシー・ジョーンズ 『ソウル・ボッサ・ノヴァ』【1964年録音】


1曲目の"Soul Bossa Nova"をどこかで聴いたことのある曲かも知れません。十年ほど前、ブラジル代表のロナウドがビーチサッカーに興じるNIKEのCMでかかっていた記憶がありますし、その他色々な場面で使用されている曲です。この1曲目でガツンと来るのではないでしょうか。Jazzであるとか、Bossaだとかいうジャンルに関係なく、MUSICとして優れた曲で、非常に楽しい編曲が施されております。普段ジャズでは使われることのない様な風変わりな楽器も使用されているようで、コミカルな響きも聞こえてきます。


youtubeより、"Soul Bossa Nova"を。


作曲はクインシー自身のものもありますが、御大チャールズ・ミンガス【Charles Mingus】作品やラロ・シフリン【Lalo Schifrin】、そしてボッサの大物Antonio Carlos Jobim【アントニオ・カルロス・ジョビン】作品も多数。これら多種多様な曲ですが、クインシー・マジックにかかればひとつながりの作品のごとく料理されてしまいます。まさにトータル・アルバム。前回ご紹介したGil Evans同様、クインシ−は歴史的アレンジャーとして評価されて当然だと思います。


参加メンバーももの凄いの一言。ローランド・カーク【Roland Kirk/afl】、ラロ・シフリン【Lalo Schifrin/Piano】、ジム・ホール【Jim Holl/Guitar】、パーカッションではブラジルのJack De Rio、Carlos Gomezなども参加しております。


Jazzかと言えばJazzではない。それでは、純粋なBossaかといえばおそらく違うのでしょう。これはもう聴いて判断していただくしかないのですが、クシンシーによる極上の音楽、そうとしか表現できません。


ついでといっては何ですがもう1枚ご紹介。



Stan Getz/Joan Gilberto  "GETZ/GILBERTO"【1963】
スタン・ゲッツ/ジョアン・ジルベルト『ゲッツ/ジルベルト』【1963年録音】


こちらも"Big Band Bossa Nova"と並ぶ人気の作品。永遠のベストセラー作品と言っても過言ではありません。白人サックス奏者スタン・ゲッツが、ボッサの生みの親のひとりとされるブラジルのギタリスト/ヴォーカリストのジョアン・ジルベルト【Joan Gilberto】と共作した作品。ボッサの"神"でジルベルトの盟友、アントニオ・カルロス・ジョビンの曲を全面的にフューチャーした作品です。


こちらも1曲目の"The Girs From Ipanema"【邦題「イパネマの娘」】であまりにも有名。どこかで耳にしたことがあるのではないでしょうか。気の抜けたようで味のあるジルベルトのヴォーカル。穏やかに控え目に響くゲットのサックス。イージー・リスニングの代表のような作品です。仕事をしながら何となく聴くのにうってつけな一枚だと思います。




5曲目では、先ほども触れたオスカー・ピータソンが"We Get Request"の冒頭で取りあげた"Corcovado"も歌つきで演奏されます。両者の解釈の違いで全く別物のように聞こえます。これもJazzを聴く醍醐味です。


更にもう一枚。ボッサの本家本元、まさに家元Antonio Carlos Jobimの代表作をご紹介します。




Antonio Carlos Jobim "Wave"【1967】
アントニオ・カルロス・ジョビン『波』【1967年録音】


1967年にアメリカのジャズ・レーベル、CTIのために録音した作品。大物アーティストたちに取りあげられ大人気となっていたジョビンのアメリカ上陸作品ということに。


ベースにRon Carterも参加。いわゆるJazzとはほど遠い内容ですが、ジャズ専門誌のオール・タイム・ベストのような企画では必ず取りあげられ、CDショップでもジャズ・コーナーでみかけることもあります。


全編インストゥルメンタルで、イージー・リスニングを代表する作品でもあります。ジャズ、イージー・リスニング、ノサ・ノヴァ、多数のジャンルを代表する作品ということに。


内容はいたってシンプル。ジョビン・メロディーの集大成のような作品で、聴き心地がよく、一生懸命聴くといういよりも何かをしながら聴くのにうってつけの作品です。



実り多きジャズとボサ・ノバの出会い。この他にも多数、素晴らしい作品が遺されております。いずれまた機会を見計らってご紹介したいと思います。


今回ご紹介したQuincy Jones "Big Band Bossa Nova"【1964】の評価
【聞きやすさ】AA
【歴史的意義】A
【スタイル】Bossa Nova/Jazz
【演奏形態】Big Band
【メイン】Big Band

   

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Quincy Jones
Quincy Jones and His Orchestra
Quincy Jones and His Band
Joao Y Astrud GilbertoWith Antonio Carlos Jobim and Stan Getz
Antonio Carlos Jobim