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『幸福のスイッチ』 保険にはダイヤモンドの輝きもなければ、カラーテレビの便利さもありません。
 けれど目に見えぬこの商品には、人間の血が通っています。
 人間の未来への切ない望みがこめられています。

 これは生命保険のCMで使われている谷川俊太郎の詩ですが、このCMが流れる度に僕はテレビを見入ってしまいます。朗読を我らが田口トモロヲが担当しているからより一層惹きつけられるのかもしれません(トモロヲとエンケンの声には何故か反応してしまう)が、この生命保険会社のCMは本当に良く出来ていると思う。
 例えばあの田口トモロヲ扮する父親とだんだんと成長していく娘が駅で擦れ違うCMなんて数あるCMの中でも最も大好きなもののひとつなんです。
 ただこのCMを観て保険に入ろうと思うかどうかはまた別の話なんですけどね・・・。

 なんてまた無駄な事をダラダラと書いてしまいましたが、別にTVCMの話をしたいわけでも生命保険の話をしたいわけでもありません。冒頭の詩についてちょっと触れたいのです。
 もしこの「保険」という言葉をを「電化製品」に置き換えてみたら一体どうなるでしょう?ちょっと文脈上おかしくなる部分もありますが(だってカラーテレビも電化製品だし)、電化製品という何処からどう見ても機械でしかない代物に人間の血を通わす事って可能なのでしょうか?

 その答えはこの映画の中にあります。
 ということで『幸福のスイッチ』です。
 父親(沢田研二)の反対を押し切り東京のデザイン学校を出て広告会社に勤める怜(上野樹里)。しかし理想と現実の大きな落差に幻滅し、上司とぶつかって辞めてしまう。
 そんな彼女の元に一通の手紙が届く。その手紙には「妊娠中の姉(本上まなみ)の体がえらい事になった」と書かれていた。
 急ぎ故郷に帰る怜だったが、姉の体には何ら異常は無かった。その代わり父親が屋根から落ちて骨折入院している事が発覚。父親の命を受け、怜がイナデンで働く事になるのだが・・・。

 まずはきっと誰もが書くであろうダンジャレを書いておかなければなりません。
 ジュリーと樹里が初競演!これは絶対に狙ったキャスティングだよね。
 まぁ〜それは兎も角、『笑う大天使』『虹の女神』など公開作が続いている上野樹里目当てに観てきた一本なのですが、案外これが良かった。
 ジュリーと樹里の息はピッタリだ!

 まず冒頭に書いた電化製品に人間の血を通わせる事が出来るか否かってことなのですが、この映画を観る限りではそれが可能である気がしました。
 たった一つの機械、それが人の心を暖める事だって出来てしまうのです。無論、電子レンジを使って心を暖めるわけではありません。
 やっぱり長く使っている電化製品には情が移りますよね。僕が今使っているPCだって5年くらい使っているわけですが、このPCは僕が書いたものやネット上で見て来たものを全て知っているわけです。
 例えばHなものとか、スケベなものとか、エロいものとか・・・別にネットを使ってソッチ方面ばっかを観ているわけじゃありませんが、なんだか秘密を共有している同志のような錯覚に陥る事があります。
 ですから自分のPCの中身は人には見せたくないわけです。このPCはまるで自分の分身のような存在なので、それを覗かれるという事は内面を見透かされているような気分になってしまうので・・・こんな風に考えているのは僕だけではきっと無いはずですが、どうなのでしょうか?

 また電化製品は新しい世界を広げてくれる事だってあります。新しい世界といってもネットの世界だけを指すのではなく、この映画で怜と無愛想な老婆のやり取りで描かれていたような本当に当たり前のように身近にあるにも関わらず気がつかなかったものを電化製品が仲介することによってその存在に気づく事が出来る。
 そんな事だってあるのです。そうやって考えると電化製品を売るという仕事は血の通った商品を売る事にも繋がっていくのではないかとフト思ったのです。

 そんな町の電気屋イナデンを経営するのは頑固な父親。
 儲けを度外視してひたすら電化製品を買ってくれた客に対するサービスに努める父親を怜は苦々しく思う。確かに無料で雑用まで引き受けてしまうのですから無駄な事だと娘の目に映っても仕方が無いのかもしれません。
 でも父親と共にいがみ合い罵りあいながらも一緒に働いていくうちに父親の存在の大きさや暖かさに徐々に気がついていく。例え怒鳴られてもその怒号の裏に優しさが隠されている事を発見するのです。
 上野樹里は対外的に強情で強気に振舞っているせいで上手く弱さを人に見せる事が出来ない怜を好演しています。
 同じ父親と娘の話と言えばこの前観た『紀子の食卓』がありますが、あれよりもずっと爽やかな印象が残り、とても清清しくて好きです(一応書いておきますが、別に『紀子の食卓』が悪いと言っているわけではないよ。あれはあれで強烈な映画で僕は好きですし)。

 またロケーションもなかなか良いですね。
 上映開始前に世界遺産に指定された熊野のCMが流れ始めたので「何でだろう?」と疑問に思っていたのですが、この映画は熊野が舞台だったのですね。色鮮やかな蜜柑畑などノンビリとした雰囲気が心地よく、映像もなかなか綺麗。
 実は熊野には一度行ってみたいと思っています。これから寒くなるから行けないかもしれないけれど、来年こそは春になったら・・・とこの映画を観て決意を新たにしたのでした。

 ★★★★

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