『潜水服は蝶の夢を見る』 閉じ込め症候群。それは意識が鮮明であるにも関わらず四股、顔面などの麻痺が起きてコミュニケーションが不可能になった状態のこと。しかし動眼神経は正常なため、瞬きによるコミュニケーションは可能である。

 この映画の主人公であるジャン=ドミニク・ボビーはある日突然この閉じ込め症候群に陥ってしまいます。自分の意に反して体は動かず、言語によるコミュニケーションも不可能。コミュニケーションの手段は瞬きのみ。
 そんな彼が20万回以上もの瞬きによって綴った奇蹟の自伝を映画化したものが今回の映画です。ということで『潜水服は蝶の夢を見る』
 第80回アカデミー賞の監督賞などにノミネートされていたジュリアン・シュナベール監督作品。あまりに不思議なタイトルに惹かれてこの映画に興味を持っていました。

 で、この映画のタイトルの意味ですが潜水服とは自由が利かなくなった体の事を指し、蝶の夢を見るの部分はそんな状態であっても心だけは自由に蝶の如く羽ばたくことが出来る。そんなニュアンスが込められたタイトルです。
 一部では『ブレードランナー』の原作でもあるフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』とタイトルが似ていると言われておりますが、別段関連はありません。

 さて日本版も発売されている(はず)の女性誌ELLEの編集長として活躍していたジャン=ドミニク・ボビーがある日突然脳梗塞から閉じ込め症候群となってしまいます。
 人間万事塞翁が馬なんて諺もありますが、仕事にプライベートにと充実した人生を送っていた彼がある日を境に絶望の海へと沈み込んでいくのですから人生は分からないものです。

 僕はこの映画を見るまで閉じ込め症候群なんて意識障害があることすら知りませんでしたが、自分がもしこのような状態に陥ったと考えるならば確実に死を望むでしょうね。意識はあっても体の自由は利かない。コミュニケーション手段も限られる。
 潜水服というより棺おけに入れられたかのような状態で生きながらえる事を考えると人生に絶望しか抱かないでしょう。
 しかし自ら命を絶とうとしても喉元に刃物を突きつけることすら出来ないのですから・・・その恐ろしさたるや想像を絶するものなのでしょう。意識はあるにも関わらず、身体の自由を全て奪われた状態。これほど世の中で恐ろしい物はないのかもしれませんね。

 しかしこの映画のジャン=ドミニク・ボビーは言語学者から瞬きによるコミュニケーション手段を教えてもらい、そして自伝を書き上げます。
 身体的な自由はなくとも創造力という自由は決して奪えない。絶望という深海に指し込む一筋の希望の光がこの瞬きで本を書くという事だったのかもしれませんね。 

 この映画では主観ショットが多用されております。これが閉じ込め症候群に陥ったジャン=ドミニク・ボビーの視点なのだと思うとその潜水服に閉じ込められた苦悩とが映像を通じてヒシヒシと伝わってくるようです。
 テレビを見たくても勝手に消されてしまうし、視界も限定されている。そして意識がある状態で医師の手により片目を縫合される恐怖たるや・・・痛覚は無いという説明はあったけど、これはとても恐ろしい。下手な拷問ホラー映画よりも生々しい描写でした。
 これらの主観ショットにより閉じ込め症候群を疑似体験できたようで、これはこれで効果的な演出でもあり貴重な体験でもあったのかなと思います。

 ただ、ブッチャケ思っていたほど感動はしなかったんですよね。
 閉じ込め症候群となっても妻や子、そして父や友人などの多くの人たちに愛され続けた上に一冊の自伝までも書き上げてしまう。
 そんな彼の人生を少し妬ましく思ったせいもあるのかな?


 ★★★

 2008 #10

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