ブランカニエベス


 幼少の頃、僕の家にも絵本があり、多くのお伽噺と接していたわけです。ところが幼稚園を卒園したあたりからでしょうか?お伽噺に接する機会が極端に少なくなりました。かつては寝る時に聞かされていたはずのお伽噺の内容が、その頃から徐々に混線状態となり、今に至る。
 『シンデレラ』と『白雪姫』、そして『眠れる森の美女』。いずれもディズニーアニメで取り上げられている有名なお話ですが、この三つのストーリーを正確に伝える事が出来る人は一体どれくらいいるのでしょう?ディズニーアニメに接する機会が少ない僕にとっては、例えば毒林檎の設定が一体どのお伽噺の内容なのか?正直、分かりません。
 一時期TVCMがやたらと流されていたアンジェリーナ・ジョリー主演作品『マレフィセント』とか、ちゃんと押さえておくべきだったかな?これでは娘にお伽噺を聞かせてあげる事すら出来ません。
 いや、僕が読み聞かせをする代わりに、この映画を観せてあげれば良いだけの話か?

 って事で、パブロ・ベルヘル監督作品『ブランカニエベス』です。

 絶大な人気を誇った闘牛士である父親を持つカルメン(ソフィア・オリア)。しかし、父親は闘牛の最中に負傷し、再起不能に。そして妻も失ってしまう。病院に長く入っていた父親は、それを機に自分を担当していた看護婦(マリベル・ベルドゥ)と結婚することに。
 ある日、カルメンは父親に呼び寄せられる。父親と一緒に暮らせると喜んでいたカルメンだが、継母は父親に合わせようとしないばかりか、雑用ばかりを押し付け・・・。

 『アーティスト』がアカデミー賞作品賞を受賞した時、「これからモノクロサイレント映画が様々なジャンルで製作されるだろう」と思っていました。ところが見事に僕の予想はハズれ、結局は一発ネタ的状況に。
 クラシックな雰囲気を持ち合わせたホラー映画(例えば館ものの映画とか)をモノクロサイレントで上手く現代的に焼き直せば、面白い映画が出来そうな気がしますけどね。最近のホラーはドンッと急に大きい音を鳴らすことによって驚かせる演出が散見されるので、それが封印されるとなると、後は作り手の腕次第となって面白いと思うのですが・・・ちょっと残念。
 そんなある日、意気消沈する僕の元にこの映画の情報が入ってきたわけです。モノクロサイレント映画で、しかもダーク・ファンタジー。「これは押さえておかなければ!」と思い、早速レンタル!

 いやぁ〜、面白かった。映画のタイトルになっている『ブランカニエベス』は、スペイン語で「白雪姫」という意味。そこに闘牛の要素を付け加えることによって、スペインらしい雰囲気を醸す独特なファンタジー作品に仕上がっているます。スペインというと闘牛とワインくらいしか思い浮かばない僕も満足。

 そこで『白雪姫』です。先ほども書いたように僕は昔聞いたはずのお伽噺について、あまり詳細に覚えていません。「白雪姫ってカボチャの馬車に乗る話だったっけ?」ってレベルですから、本作を観た時にも『シンデレラ』『白雪姫』『眠れる森の美女』の三つの話が同時進行しているような気すらしました。
 そこで「白雪姫」について今更ながら纏めると、継母でもある王女がある日魔法の鏡に尋ねます。「この世で一番美しいのは誰?」と。すると鏡から「白雪姫です」という回答があり、それによって嫉妬に狂う。
 王女は白雪姫の暗殺を企てるが、失敗。そして白雪姫は、七人の小人に助けられる。
 白雪姫が死んでいないことに怒った王女は、毒林檎を使って自ら暗殺を決行。白雪姫は永遠の眠りにつくのだが・・・大体こんな感じで合ってますよね?

 この話をベースにするとなると、確かにストーリーに忠実。7人の小人が6人になっていたりはするけれど、闘牛場の空間などから上手くスペインっぽさを引き出していると思います。
 魔法の鏡といったファンタジックなアイテムも登場せず、プールの水面に映る自分の姿に問いかけるという設定にアレンジされている点も好き。魔法を強調する映画は、あまり好きじゃないので。

 また、ちゃんと人間の醜さが描かれている点も素敵でして、継母を演じたマリベル・ベルドゥが最高の毒婦っぷりを見せつける。金のために一流の闘牛士であったカルメンの父親に近づき、結婚。莫大な財産を吸いつくし、夫となったカルメンの父親は座敷牢に。おまけにカルメンを奴隷の如く扱い、彼女の飼っていたペットである鶏を目の前で美味しそうに頬張る。その憎々しさがハマリすぎ。
 最後のやられっぷりも見事でして、この点に関しては他のお伽噺を実写映画化した数多くの作品と見比べてみたい気はしますね。言葉があまり表現できないサイレント映画という事もあってか、少し大袈裟なくらいな演技が丁度良く、悪女っぷりが強調されているようにも思われました。

 そしてラスト。お伽噺の最後には大抵素敵な王子様が登場して、接吻をする。こんな展開になるところでしょうが、この映画に登場する王子様の接吻ではお姫様は完全には目覚めない。ただ一筋の涙が頬を伝うだけ・・・こんな描写も素敵だと思いました。
 良い出自のイケメンボンボンが、お姉ちゃんにチューしてハッピーエンド。そんな映画は観たくないですからね!世の中、そんなに上手くいくかっての!

 モノクロという事で陰影を上手く強調した映像も美しく、観ていて飽きません。これはうちの娘がある程度物事が分かるようになったら、もう一度観たい映画ですね。お伽噺のように完全なるハッピーエンドではない。だけどそこが美しいという事に気が付いてもらえればなと思います。

 そうそう、スペインの葬式では故人と記念撮影をする習慣があるのかな?遺体の横に並んで写真を撮ってもらうシーンが有ったけれど・・・あまり日本では考えられない習慣だなと思いました。

 ★★★★

 2014 #74

 ↓少しでも心に響くものがあるようでしたらクリックを↓
 人気blogランキングへ