TheTraibe

 彼是20年ほど前の事でしょうか。一時期、手話に注目が集まった時期が有ります。このように書くとあの曲が頭に流れてくる方も多いのではないでしょうか?

 碧いウサギ ずっと待ってる 独りきりで震えながら〜♪
 淋しすぎて死んでしまうわ 早く温めてほしい〜♪

 これですよ、これ。酒井法子の歌う『碧いうさぎ』。当時放映されていた『星の金貨』というTVドラマの大ヒットに伴って、主題歌であったこの曲も大ヒットしたわけです。
 この当時からですよね、「兎は寂しい思いをさせると死んでしまう」なんて風説が流布されたのは。ウサギを飼っていたから解りますが、兎って意外に自分勝手というか、犬よりは猫の近い生き方の動物だと思います。機嫌が良いとすり寄ってくるし、そうでない時は「触るな」と言わんばかりの態度を取ったりもする。
 寂しいと死んでしまう。そんな事は絶対に有りませんから!

 因みに、清純派とされていた酒井法子はドラッグをやっていた事が明らかになり、芸能界をほぼ追放されてしまいました。最近、映画やテレビで見かけることもありません。その当時のワイドショーでこの不祥事を取り上げる際にバックに『碧いうさぎ』が良く流れていまして、僕よりもう一世代後に産まれた人にとっては「ドラッグやっている人が歌っていた曲」といった認識の方が強いのかも。
 時代が変われば、曲の受け取り方も変わってしまうという事なのでしょうかね?

 ってことでミロスラブ・スラボシュピツキー監督作品『ザ・トライブ』です。
 聾学校に入学したセルゲイ。一見すると平穏にも思えるこの学校の裏では、売春や窃盗を繰り返す組織が存在した。その組織に所属する事になったセルゲイは次第に頭角を現し、停車するトラック運転手への売春斡旋業を担当する事になる。そこでくすねたお金を使い、彼はアナと寝るのだが・・・。

 この映画の言語は手話であり、本作には字幕は存在しない。オープニングでこのようなクレジットが表記され、幕が開く。全編手話でのみ構成された世界を描いた野心作!
 当然僕は手話は皆目分からないので、どのような会話が交わされているのか分かりません。こちらに伝わってくるのは演じる役者たちの表情や素振りであって、そこから彼らが何を考えているのか想像を巡らせるしか有りません。ですから、観た人によって色々と解釈に食い違いは生じるかも。

 ところで、本作を観るために映画館へと出かけた際、聾唖者の方々が多くいました。手話でやり取りをしていたので間違いないと思いますが、彼らはこの映画を観てどう思ったのでしょう?
 彼らにとって日常言語でもある手話が言語となっている映画です。手話については無知な僕とは違い、細かいディテールまでストレートに伝わったはず。でも物語の内容は意外と酷く暗いお話しでして・・・本作について何を思ったのか。少し聞いてみたかったり。
 というか、日本人の手話とアメリカ人の手話。これって一緒なのでしょうかね?もし一緒だとしたら数少ない万国共通語であるという考え方もできるのかもしれませんが・・・どうなのだろう?

 それはさておき、日本では映画やドラマの中で障害を持った人たちを善として描く傾向が強い気がします。なにか特殊な能力を持っていたり、人を信じやすかったり。おそらく「一つ一つの表現が差別だと指摘されると、その対応に面倒くさいから」といった面がある様な気もします。
 しかし、本作の描き方はある意味でバリアフリー。つまり障害を持っている人たちだって悪さをする時にはする。所謂何処の世界にでもいる「無軌道な若者」という言葉は障害を持っていない人にだけ当て嵌まる言葉ではなく、一般人から見るハンデキャップを背負った人でも金のために悪さを考える奴はいるし、恋もすれば、嫉妬もする。それをいたってシンプルに描き切った作品だと思うのです。

 この映画では(おそらく)童貞青年のセルゲイが、売りをやっているアナと組織からくすねたお金を払って寝て、童貞を捨てる。そんな件が有ります。
 そこでのセックス描写が妙に生々しく、アナは挿入は許してもセルゲイにキスだけはさせない。そんなポリシーを持ってるようですが、乳繰り合っていくうちに快感を得て、最後にキスも許します。この事によって童貞戦士だったセルゲイのハートに火が付き、一方通行の恋が生まれ、悲劇の引き金となる。
 でもこういった痴情のもつれは世間にはよくある話でして、ラストのあまりにシュールな暴力描写の数々だけを見て「聾唖者に対して凶暴な悪印象を植え付けようとしているのではないか」などと評するものがもし有ったとするならば、それは違うと思います。若気の至りは誰にでもある物で、その行動が褒められたものではないにしろ、若者特有の悶々とした苛立ちは上手く描かれているように思います。
 そういった意味ではこの映画の立ち位置は平等であり、まさにバリアフリー映画だと言わざるを得ないように思うのです。確かに映画の内容が好きか嫌いかについては、また別の話ですが・・・正直、僕は苦手です。やっぱ年喰ったせいもあるのか、好き勝手やる若者を見ると「まったく今の若者は…」なんて言葉がボソッと出てくるようになりましたから。

 ★★☆

 2015 #34 伏見ミリオン座にて鑑賞

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