映画感想「ヒトラー〜最期の12日間〜
【評価】★★★★
【感動】★★
【笑い】★★★
【エロ】★
【凄味】★★★★★
試写会が当たったんで行ってきました。
いやー、凄い映画。凄い。いろんな意味で凄い。

ヒトラーの秘書のユンゲという女性が一応、主人公です。
ヒトラーの最期、そしてナチスの崩壊までが描かれています。
ただし、「ユダヤ人虐殺」についてはあまり描かれていません。
「シンドラーのリスト」のような映画ではありません。
ひたすらヒトラーの最期と、ナチスの崩壊、ベルリン陥落までを描いています。
その描き方も半端じゃないんですよ。
ベルリンがソ連軍に包囲されて、砲撃の音なんか聞こえてくるのに、ヒトラーは絶対に勝てる、という確信を持ってます。
んで、作戦会議なんかでも、「こっちの師団を西に移動して、ソ連軍を挟み撃ちにして撃滅だぁ、ウヒヒ」なんて景気の良いことを言うわけ。
だけど、現場で頑張ってる将校なんかは、そんな師団なんかはもう戦闘不能状態に陥っていることは承知しているわけです。
みんな『んな、無茶な』と思ってるんだけど、でも、ヒトラーには逆らえないんです。
ですから、ヒトラーが得々と作戦をたてているのを、じっとりといやーな汗を流しながら見守っているのです。
でも、実はヒトラーも、どうにもならない、ということを薄々感づいているのですが、「やーめた」なんて言えないわけで、「あーすればいい、こーすればいい」なんて演説をぶつんです。
で、黙っていられなくなった将校が「無茶ですよ!!」なんて口を開きでもしたら、ヒトラーはヒステリーを起こしてしまい、将校たちを侮辱して、あげくの果てに「お前らのせいだ!」なんて言うんです。
そのヒスの起こし方が、なんというか、本物もこんな感じだろうなーという熱演ぶり。
やたらとジェスチャーが激しくて、声の抑揚なんかも例の調子なわけです。
いや、あのね、すごく笑ったんですよ。
なんか、まるでちょっとしたコントみたいでさ(笑)。
ギャグだったら笑えるんだけど、ガチでやってるんで笑えない。笑えないんだけど、これをコントととらえると笑える。笑えるんだけど、ガチだから笑えない…って、ちょっと半笑いでした。個人的に笑えた。
なんというか、リミットブレイクしてしまった人間の怖さみたいなのが見えて、すごく怖い反面、すごく笑えるんだよね。


で、その場面の次には、次々とドイツ兵が攻撃されていき、もう白虎隊みたいに未成年なんかも徴発してるわけ。
んで、お下げの少女なんかが「ドイツ兵」として戦ったりしてるの。
さらに、戦闘の素人である市民も、「ベルリンを守れ」と戦ったりするんです。
そんなん関係ねえぜ、とばかり、情け容赦なく攻撃を加えるソ連軍。
バッタバッタと殺されまくるドイツ人。
いやー、なんか、ひたすらひたすら殺されまくってるのよ。
そんな描写が延々と続くの。
で、一部の良心的な軍医なんかが、病院の中で傷ついた兵士なんかを手当するんだけど、もう焼け石に水。
内科医なのに外科手術に徴用されて、しかも糸鋸とかで手足を切断したりするの。
もう、戦時下だから、何でもあり。

で、幾人かの将校なんかは「国民を巻き添えにしないように」とヒトラーに進言するんだけど、ヒトラーは「国民なんぞ知らん、犠牲はやむをえない」と言うだけ。
続々と犠牲になるベルリン市民。
そんな描写が延々と、ひたすら描かれてるんですよ。
もう、これでもか、これでもか、って感じ。

敗色濃厚なのに、誰も「降伏しよう」とは言いません。
というのも、第一次世界大戦で、ドイツは一度、降伏しており、「二度目の降伏」というのは、どうしても考えられないらしいんですわ。
もう、明らかに負けなのに、絶対に負けを認めないヒトラー。
むしろ「まだまだ復活できるんだぁ」と本気で考えているヒトラー。
目先の利く人間は、そんなヒトラーのもとを次々と去っていきます。
ますます激昂するヒトラー。
と同時に、ますます激しい攻撃を加えるソ連軍。
ますます殺されまくるドイツ人たち。
あるいは、戦況に絶望して自殺するドイツ人将校。
自暴自棄になって乱痴気騒ぎをするドイツ人兵士。

いえね、そんなのがずーーーーっと続くの。
「もうお腹いっぱい!」って思っていても、淡々とその表現が続くんですよ。
その表現への執念が凄いわ。
もう、凄いとしか言いようがない。

正直言うと、ここいらへんは、受け付けない人がいると思う。
というか、かなり厳しい。
僕は「うーむ」と思いながら見ていました。
しかし、隣の席のおばさんは船をこいでた。
ひょっとしたら三途の川で船こいでんじゃねえの?とかって思ったりもするくらい、頻繁に船をこいでました。うん、ヤツは熟睡してた。


例えばアメリカの映画とかって、戦闘シーンというのは、いわゆる「見せ場」だったりするじゃないですか。
アメリカの映画って、要するに国策映画だから、「いかにアメリカ軍が強いか」ということをアピールする感があることは否めないじゃない。
「ほーら、お前ら、アメリカ軍に逆らったらこんなふうになるんだぜ」
「ほーら、お前ら、アメリカ軍は兵隊同士でこんなに団結してるんだぜ」
「ほーら、お前ら、アメリカ軍の兵士はこんなに勇敢で強いんだぜ」
というアピールであって、それは逆に言えば、
「お前ら、アメリカ軍に逆らうなよ」
と言いたいだけだったりするじゃない。

あるいは、ベトナム戦争系だったりすると、アメリカ軍批判を寛容に受け入れるアメリカ。なぜなら、アメリカは自由の国だから。
ふふ、お前らの国は自由じゃないから、批判も自由にできないだろう?
ふふ、アメリカは自由の国だから、なんでもありなんだよ。
ふふ、アメリカは自由の国、自由の国、自由の国…ふふふふふふ…
って、結局、「アメリカは自由の国」というアメリカという国のプロパガンダだったりするじゃない。

だけどね、この映画の戦闘シーンは、そんな指向性は、ほとんど皆無。
ひたすら「戦争」を描いています。
それが「悲惨」だとか「格好いい」とか、そんな指向性は一切ありません。
ただ、ひたすらひたすら「戦争の現場」が表現されています。
僕は本物の戦場に行ったこともないし、行きたいとも思わないですが、
きっと、本物の戦場って、こんな感じだろうな、というリアリティーを感じました。
そんな表現を延々と見せられると、
「もう戦争やめようよ」と思ってしまいました。
やっぱりさ、人が人を殺すって、異常だって。


で、ヒトラーはやがて自殺するんですが、その後を継いだゲッペルスなんかの死も、きっちりと描いています。
ですから、ベルリンの陥落と、ナチスという組織が崩壊するまでを、美化することも感傷にひたることも放棄して、とりあえず確実に描こう、嘘偽りなく、忠実に描こう、という強い意識を感じました。
なるべく忠実に、そして確実に、「ヒトラーの死と、ナチスの崩壊」を描こう、という意識。そして、それを伝えていかなければならない、という意志を感じました。

なんというか、ドイツ人って、すごく頑固なんだろうなぁ、と思う。
この映画は、「ヒトラーの死と、ナチスの崩壊」を、あいまいにするのではなく、ここで明らかにしておこう、映像として残そう、きちんと後世に伝えよう、という試みといえるでしょう。


なんというか、「歴史を観た」という感じのする映画でした。
これは間違いなくエンターテイメントではない。
だけれども、「エンターテイメントでない」ことを誇るべき映画です。
これは「歴史」なのです。


でもさ、なんか試写会の会場も、終わって出てくる人たちが、みんな通夜みたいに黙りこくってた。
まあ、重ーい映画なんですよ。


ひさびさに感心した映画でした。


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