読書感想「逆説の軍隊」
日本の近代 9 逆説の軍隊

【評価】★★★
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中央公論社の「日本の近代」というシリーズの歴史書です。
著者は戸部良一という防衛大学校の先生。
専門書っぽいですが、一般の人にもわかりやすいように平明な文章で書かれています。
日本の軍隊、特に陸軍を中心に、その歴史を描いています。

日本軍というイメージは、例えば精神主義的だとか、どうしても狂信的なイメージで語られてきました。確かに、太平洋戦争末期は狂信的で非合理的な特徴がありましたが、日本軍は当初から非合理的なものでも、狂信的なものでもなく、むしろ極めて合理的な組織だった、としております。
今までの日本軍を題材とした本は、すぐさまその非合理性を糾弾する、みたいなところがあったので、「ああ、普通の本とは視点が違うな」と感心してしまいました。

そもそも、日本軍は実は開明的な側面もあった、と著者は指摘しています。
徴兵制がはじまった当時、日本人にはあまり「時間」という観念がなかったのですが、軍隊では「分」「秒」という小単位での行動が多く、そこで時間観念と規律を身につけた兵士たちを通して、やがて工場やオフィスでの労働・勤務形態へと波及していったそうです。
また、兵器生産のための陸海軍の工廠が近代化をすすめたほか、日本で最初に三角測量で地図を製作したのは陸軍参謀局だとか、日本ではじめて洋楽器による西洋音楽を演奏したのが軍楽隊でした。
徴兵制を通じて、兵士たちは近代的な考え方に触れ、その態度と行動パターンを身につけたのであり、軍隊は近代を牽引する役割があったことを指摘しています。
近代的なもの=軍隊という時代が確実に存在していたのです。

また、徴兵制の変遷についても、わかりやすく触れています。
徴兵制というと、20以上の若者は強制的に引っぱられる、と考えていたのですが、そうとは限らないみたいですね。
あと、日本では徴兵忌避の風潮があったようで、人びとは様々な抜け道を使って、なかなか一筋縄で軍隊に入るということはなかったみたいです。
また、アメリカやイギリスなんかでは、割と大学出の人間が軍隊に志願したりするらしいのですが、日本では大学出の人間は軍隊に入りたがらない傾向があるらしいです。
日本のエリートは軍隊を馬鹿にする傾向があるみたいです。
確かに、「軍人=バイオレンス野郎=脳みそが筋肉=体育馬鹿」という思いこみがありますよね。(笑)

また、大正デモクラシーで、人びとが民主主義的な政党政治に触れたことと軍隊の関係についても詳細に触れています。
日露戦争勝利によって、国民の国家目標が失われました。国民の間では一体感・連帯感が弱まり、意欲の減退、無気力が蔓延し、頽廃的となっていったそうです。その影響を、軍隊ももろに受けていたようです。
軍紀を破り、集団脱営したり、暴力事件をおこしたりなど、不祥事をおこしたりすることが多くなります。
また、師団増設のため徴集者を増やしたことも問題の一因でした。
徴集者が増えれば、それだけ素行の悪い者も入営するわけで、そのために精神教育が強調されてくるようになります。
また、デモクラシー社会となったために、軍人軽視の風潮があったようです。
陸軍軍人の常識欠如については、新聞雑誌等で指弾され、議会でも問題となっていたといいます。
特にシベリア出兵のさいには、官費の満州旅行気分の者が多く、士気が低かったそうです。
そのため、軍紀違反者が続出し、ある中隊では、隊長が兵を殴ったところ、なんと隊長が中隊全員のリンチを受けて重傷を負う事件が発生したといいます。このような噂は国内に伝わり、陸軍批判の材料となりました。
そんな中、第一次大戦後の世界的な軍縮運動で、軍人の経済状態が悪くなったことも士気低下につながったようです。
軍縮のためリストラにあい、また容易に出世できない人事の閉塞。
そのため、青年将校は転職の準備に精を出したり、老将校は愚痴ばかりでヤケになったりしていたようです。
軍人は馬鹿にされることもあり、東京の市電では、将校のマントや乗馬用の靴に着けている拍車が邪魔だとして乗客に忌み嫌われたといいます。軍服を着て街を歩くことを嫌がる将校もいたそうです。
その反動が、太平洋戦争などで噴出するのでしょう。
ここいらへんの軍人軽視の社会風潮については、僕は全然知らなかったので、すごく興味がありました。
軍人って、馬鹿にされてたんですねぇ。
僕のイメージでは、軍人を馬鹿にしたら、すぐさま鉄拳制裁→集団暴行→病院直行というものがあったんですが、そういうわけではないんですね。
リストラの悲哀なんて、冴えないサラリーマンみたいじゃないですか。(笑)

さらに、第一次世界大戦は戦争という概念を変えたといいます。
いわゆる、国家総力戦という概念です。
兵員の大量動員。大量に消費される軍需品。軍需品を補給するため、軍需工場には女性を含めた労働者を大量動員。あらゆる物資は軍需品の大量生産のため使われます。食料品や日用品は統制もしくは配給を実施せざるをえず、そうなると国家の仕組み自体を戦争遂行に適合するように変えていかなければなりません。
国が存続するために必要なすべての資源を投入し、国民全体が敵と戦う国家総力戦の時代が到来するわけです。
こうなると、軍人だけで国防を遂行することはできず、国民全体がそれぞれ役割に応じ国防の任を果たすべき、と考えられるようになります。
ですが、社会風潮としては軍人軽視なわけで、そこいらへんのフラストレーションがかなり軍にはたまっていたようです。
その鬱積は、太平洋戦争で爆発していきます。

当然、日本は国家総力戦の体制が整わないまま、太平洋戦争へ突入していきます。
兵器も、大多数の歩兵部隊は第一次世界大戦のレベルの三八式歩兵銃、すなわち明治三十八年式の歩兵銃を使っていたといいます。
アメリカは自動小銃の時代でした。
第二次世界大戦を、日本軍は第一次世界大戦の兵器で戦ったことになります。
そりゃ、負けるわな。

とりあえず、勝てない戦争に引きずり込まれていく様なんかも描かれていて、面白かったです。
知られていない意外な日本軍の姿がありました。
日本軍の官僚組織が、自分の既得権益を守るために汲々として、政党勢力と対決し、やがて強力に政治介入を果たすところなども的確に書いています。
組織が既得権益を守るために惰性で存続するというのは、どこかの国の現在をうつしだしているような気もします。
現代の日本を考えるさいに、やはり過去の失敗から学ぶべきなんだろうと思いました。

ただ、この本は日本陸軍を中心に描いているので、海軍が好き、という人には向いてないかもしれません。
陸軍と海軍の対立はほんの少し描かれているだけでした。
とはいえ、日本軍を知るためには必読の本であることは間違いがありません。
一般向けに書かれているし、わかりやすく面白かったですね。
「逆説の軍隊」という題名も、本書の内容をよく示している優れた題名だと思います。

とりあえず、杉村太蔵クンはこの本を300回くらい読んだ方が良いです。(笑)



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