読書感想「彼女の哲学」
彼女の哲学
海老沢 泰久
光文社
2007-02


【評価】★★★
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海老沢泰久さんの短編集です。
「一度の機会」「十年」「彼女の哲学」「小型ボート」「ショーケースのケーキ」「ウエイター」「小田原まで」「夜の色」「すみれ荘」「将来」の十編がおさめられています。
基本、恋愛物ですね。
以前、海老沢さんの恋愛物を読んで、
「ヘタだなぁ〜〜」
と思ったことがありますが、
この本におさめられている短編は、
一九九六年を下限として、主に二〇〇〇年代に書かれていますから、
九四年に直木賞を受賞してからのものですね。
そのせいか、ある程度は「読める」ものが多いです。
ただ、まあ「巧く」はないんですなぁ。
特に会話がなんか「ヘタ」なんですよね。
ただ、あまりに「ヘタ」すぎて、逆に「巧い」んじゃないかと思っちゃうくらいでして、「ウマヘタ」かもしれませんねぇ。
海老沢さんって、ドキュメントというか、取材源があるものを「再現」するといいますか、そういうのは突出してうまいんですが、
こういう虚構ものはきつい感じがします。
ただ、ある程度は場数を経ているせいか、それなりに「読める」レベルに仕上げてきています。
とはいえ、うーん、これが文学史に残る名作かというと…スポーツ物のほうがいいなぁ……と感じました。

また、ホステスとの恋愛物が多いのが気になりました。
海老沢さんって、キャバクラとかで遊んでたのかなぁ…。
まあ、直木賞作家ですから、金はあるでしょうし、
編集者が連れてってくれるかもしらんけど、
ホステスっつーか、飲み屋のねーちゃんを口説いても、
あんまおもろないやろ。
しょせんは「金持ってるかどうか」なんやから。
そんな、女の子がいるキャバクラなんて、僕は行ったことないですから、感情移入できないし、
ホステスなんて、金ありゃいけんべ、と思うんですよね。
金金金ですよね。金で愛は買えるし、愛は金がないと買えないし。
もちろんね、そういう飲み屋のねーちゃんをネタにしたのって、
それこそ江戸時代あたりからある「文学の伝統」なんでしょうけど、
でも、今日日の飲み屋のねーちゃんって、
それこそ「金」「金」「金」というイメージがありまして、
昔のような雅さがないんじゃないか。あさましいだけで。

この本の主題といいますか、描いているのって、キルケゴールの思想というか、発想なのかな。
というのも、こういう記述があるのね。
「人間は誰でも最初は自分のまわりの具体的な物や人を愛する。しかし、いろんなことを知ると、そのうちに自分の頭の中に抽象的な対象をつくりあげて、それを愛するようになる。国家だの人類だの自由だの神だのといっている連中はみんなそうだ。硬直した自意識だってそのひとつさ。そんな実体のないものを愛してどうする? 本当の自分を見失って、人間関係を貧しくするだけじゃないか。これはおれがいっていることじゃないぜ。どっかの哲学者が『死に至る病』という本の中でいっているんだ。でもそれは本当のことなんだよ」(75頁)
そう考えてみると、この短編の男たちって、みんな「幻想の中の女」を追い求めていて、「現実の女」との間の齟齬に悩んでいるんですよねぇ。

まあ、さらっと読めるし、そこそこ面白い本でした。
ただ、他人に勧められる本ではないです。



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