当研究協会の会員のみなさんの中でも一番おなじみの峯太郎作品といえば、やはり「名探偵ホームズ」シリーズだろう。
学校図書館の本棚にずらりと並んだ「少年探偵団」シリーズ、「怪盗ルパン」シリーズとともに、読書体験の原点である方は三十台以上なら数多いとおもう。
しかしみなさんは、その表紙が時期によっていろいろなものがあるということはお気づきだっただろうか。学校図書館ではセットで購入するので、なかなか気がつきにくい。私も古本屋で一冊づつ集め始めてから気が付いた。
当会会員で作家の北原尚彦氏は「大傑作翻案、山中ホームズ」(『シャーロック・ホームズ秘宝館』所収)で、こう指摘している
「本シリーズは何度も何度も出し直されたため、装丁が何種類もある。最初のいちはオレンジ系の背表紙だったが、のちに白系に変わった。また白系でも、背表紙のデザインが何種類もある。「名探偵ホームズ」というシリーズ・タイトルがいちばん上にあったり、真ん中にあったり。タイトル下のマークが、ホームズの正面顔だったり横顔だったり。なかのイラストまで、途中から変わってしまう。」
この目まぐるしい変遷については、かねてからの謎であったが、当会顧問でポプラ社でこのシリーズを編集しておられた秋山憲司先生にうかがったところ、その理由が氷解した。当時は高度経済成長時代でインフレが進行し、何度も定価を付け替えなくてはいけなかった。その際にうっかり古い本を出荷してしまわないように、表紙のデザインを変えたということだそうだ。
ただしカバーを変えただけで出荷し直すというわけではない。現在と違って当時の本は、奥付にちゃんと定価が印刷されているので、そのようなことはできない。おそらくポプラ社にあった古い本は全て断裁処分になったが、取り次ぎや本屋に残っていた在庫を間違えないように、こういった配慮がなされたのではないだろうか。
古本の強者北原氏でさも「これらを全て集めていては、場所をとって仕方がないので、わたしは自分がリアルタイムで読んでいたバージョン(白系、マークは正面顔、シリーズ名は上)で、一セット揃えることにした」といっているのだから、まさか全部のバージョンで集めようと思う人はいないだろうが、自分が読んでいたのはどのバージョンだったかという参考にもなるとおもうので、私の手元にある限りの種類を御紹介しよう。
1:昭和30年10月15日発行、「世界名作探偵文庫」初版。表紙の地は黄色。定価130円。
ホームズは最初は単独シリーズではなく、「世界名作探偵文庫」の一部であった。その際の第一巻であるから、峯太郎のホームズの初登場である。カバー絵、挿絵も後年のものとは違い、それぞれ牧秀人、有安隆が描いている。
2:昭和31年3月25日発行、「名探偵ホームズ全集」初版。表紙の地は青色。定価150円。
ホームズの売れ行きが好調であったので、ホームズ単独のシリーズとして出し直すことになった際の表紙がこれである。表紙、挿絵の画家は前シリーズと同じだが、表紙デザインが少し変り、地が青色になり、「名探偵ホームズ全集」というシリーズ名がつけられた。このときすでに全二十巻が予告されている。
3:昭和34年5月5日発行、第六版。定価180円。
これも表紙、挿絵画家は同じだが、さらにデザインが変り、城と王冠のイラストが入った。背表紙は白を地としているが、表紙はオレンジと白の二色である。このときはすでに全巻が発売されている。また裏表紙には江戸川乱歩賞の記念品であるシャーロック・ホームズ像の絵が描かれているのが特徴的である。
4:昭和45年3月30日発行、版記述なし。定価280円。
このときからカバー画家が変わり、柳瀬茂となり、カバー表全面をイラストが占めるようになり、背表紙からカバー後までクリーム色になった。挿絵は変わらず有安隆だが、会員の中島ひろ子さんが以前中の挿絵も時期によって差し替えられていることがあると指摘されていることから、改版時期に奇麗に印刷がでなくなった挿絵を新しいものと交換した可能性がある。これについては、さらなる研究を期待している。背表紙にホームズの正面像がはいり、さらにその背後に赤い丸がかかれている。同様のイラストが裏カバーにもえがかれている。
5:昭和46年7月20日発行、版記述なし。定価350円。
これはカバー絵が牧秀人とあるが、サインは「Sigeru」とあるので、柳瀬茂のミスプリだろう。4からの変更点は、ホームズ正面像の後の丸がなくなったこと、「名探偵ホームズ」というシリーズ名が上にいったこと、「原作ドイル 山中峯太郎」が下にはいったことである。さらに裏カバーは今までクリーム色一色だったのが、クリーム色と白の二色になった。
6:昭和49年1月30日発行、第38版。定価480円(カバーのみ記述)。
カバー絵柳瀬茂、挿絵岩井泰三で、挿絵画家がかわっている。いままでの水彩調からペン画になった。表カバーは変更はないが、背表紙のホームズ像は横顔のメダル風になり、一番下の「ポプラ社」の上下に線がひかれた。
このほかにも、さらにペーパーバックの「名探偵ホームズ」があるが、これは版型がちがうので、ここでは扱わない。
以上のように、さまざまな表紙が登場する「名探偵ホームズ」シリーズだが、おそらく同時期に同様に出版されていた「怪盗ルパン」シリーズや、「少年探偵団」シリーズも、同じような、表紙の変遷があるのだろう。先日訪れた江戸川乱歩の旧宅にも、「少年探偵団」のシリーズが何組も所蔵されていた。多分版が変わるごとに献本されたのだと思う。
さらにカバーを取った下の裸本の表紙デザインや、上述の挿絵の変遷も調べればさらに面白いことがわかるだろうが、今はそこまで手がまわらないので勘弁していただきたい。このシリーズは会員でもファンが多いので、さらなる研究を期待している。
また、ここに紹介した以外にも、別のデザインのカバーがあることは十分予想される。これを機会に、みなさん御自分の本棚をもう一度見直して、また別のデザインの「名探偵ホームズ」があったら、ぜひ御一方ください。また、この表紙は何年まで使われていた、ということがわかる事も重要です。ぜひメール、お手紙で、自分の「名探偵ホームズ」はこの表紙で、何年に発行されたということをお教え下さい。
新しい情報は順次御紹介の予定です。よろしくおねがいします。
このように「山中峯太郎研究協会報」第七号で書いたところ、さっそく顧問のS先生から御指摘をうけました。
これは昭和四一年七月三十日第十六版で、カバー絵は牧秀人、挿絵は有安隆です。ちょうど上記のものの3と4の間にはいるもので、背表紙の城がなく、カバーは青と白の二色で、江戸川乱歩賞のホームズ像も掲載されています。
このほかにも表紙のバリエーションを御存じの方は、どしどしお寄せ下さい。(2002/11/14)
