サーチエンジンで山中峯太郎で検索していたところ、とあるホームページで「亜細亜の曙」が少女コミック『南京路に花吹雪』(森川久美・著)の原作だとあった。
これは!見逃せない情報である。あわててインターネットの古本屋を検索するやら、まんだらげまで走るやらしてようやく買い求めた。それも『南京路に花吹雪』だけではなく、その前作の『蘇州夜曲』まで。しかし読んでみると…ああ、やられてしまった。羊頭狗肉の見本のようなものに引っ掛かってしまったのである。
第一主人公は本郷義昭ではない。本郷「義明」なのである。東京の新聞社でもめ事をおこして上海の新聞社に入社した、というくだりは山中が朝日新聞の特派員として大陸にわたったあたりをほうふつとさせるのだが、それからあとがちがう。なにしろこの本郷義明、弱いのである(笑)。うっかりしていて要人を危機に陥らせるわ、自分はしたたかなぐられるわでまったくいいところがない。口だけはたっしゃで日本の侵略に文句はたれるのだが本当に使えないバッタモンである。
「黄子満」という名前の支那人の少年もでてくるが、これがまた元暗殺屋で本郷の手下。しかも性格がひねくれている。山中の作品には絶対でてこないキャラクターである。
もっともすべて読み通してみても、山中峯太郎のやの字も本文にも解説にも作者の裏話にもでてこない。これは巧妙なワナにかかってしまったようである。よくあったでしょう、「エルメス」ではなく「エロメス」とか、「ルイ・ヴィトン」ではなく「ロイ・ヴィトン」みたいな偽物が。あのたぐいである。ずるいぞ、森川由美!!