鴎外の「舞姫」のモデルであり、恋人であったエリーゼの正体をさぐった最新刊本。前回ご紹介した「鴎外の恋人」が出たすぐあとに出て、ちょっと話題になりました。
前の本はいかにもマスコミ人らしい思い込みと強引さが鼻について、読んでいて正直不愉快になりました。結局の所今まで発表された説と同じ人物だし、それにクロスステッチ用の金属板からむりやり頭文字を読み取り、それと頭文字が一致しているから…というだけが「鴎外の恋人」の新たな点であり、後半は彼の帰国後どうやってエリーゼを追い返すかという事実をなぞるに終っています。
それにくらべてこちらの「鴎外の恋」は、非常に好感の持てる本です。
まったく思い込みをもたずに地道にこつこつと資料を調べる姿は、研究者としてあるべき姿だと思います。著者はベルリン在住であるという地の利があり、時間をかけてじっくり調べることが出来るということもありますが、ここまでしてベルリンの資料を徹底的に調べるというのは、いままでになかったことなのではないでしょうか。さらに著者はベルリンは爆撃によってかなりの公文書が失われているということを指摘しております。「鴎外の恋人」で「ヴィーゲルト」姓が一人しか見つからなかったといっていて、そこで調査を打ち切っていますが、それにくらべて「鴎外の恋」ではそれ以外にも教会の記録などさまざまな方法を使って丹念に調べています。また「舞姫」における記述と実際の町との比較をして、鴎外がどこをモデルにして作品にしたのかということも追求し、そういった努力は最終的に全て一致する一人の「エリス」にいきあたることになります。
この本は文学研究として面白いだけでなく、推理ものとしても十分楽しめるでしょう。おすすめです。