マダニ感染症。最近よく聞くようになった病名です。春から秋にかけてが多く、マダニにの吸血によって感染する感染症です。マダニとその感染症について調べてみました。  
吸血する昆虫の中でも、このマダニの吸血は特殊になります。蚊などの昆虫と違い、切り裂いて吸血、刺して吸血とは違い、マダニの場合は噛みついて吸血することです。噛みついて切り裂き、口下片と呼ばれるギザギザの歯を差し入れて固定させてしまいます。しかもマダニの唾液に含まれる物質で固めて歯を固定してしまいます。この固定するセメント様物質はかなり強力なようです。引っ張ったくらいでは取れなくて無理に外そうとすると歯の部分や頭部が体内に残ってしまうそうです。この状態になるとさらに感染症にかかるリスクが増えてしまいます。マダニの体液の血液等が逆流してしまうからです。強く掴むとマダニの体液の逆流が起こり、無理に外そうとすると体の1部が残って化膿することもあります。噛まれた場合には病院に行くことが1番安全な方法になります。なぜ強力な固定を行うかというと、吸血の長さによるものと思われます。雌の成虫の吸血は6~10日と長くその間に血液を濃縮しながら吸い続けます。吸血量は1ミリリットルに及ぶそうです。体の大きさは種類にもよりますが成虫で 3~8ミリですが吸血後の全長は1センチを超えるまでになり体重は100倍に跳ね上がります。吸血する場所は柔らかく皮膚の薄い部分を選びます(動物の場合、目、鼻、耳の近く)人間の場合にはさらに吸いやすいといえますね。吸血を終えると自ら噛むのをやめ、宿主の体から離れていきます。この吸血を繰り返し
栄養を蓄え3回目で産卵の準備に入ります。      

吸血されたことに気が付かない場合も多いようですが、確認できた場合は吸血されてから1週間後位から吸血された箇所に紅斑ができたり、風邪の症状のような熱が出たら医療機関に行って相談することが重要になってきます。1~2週間ほどで発熱、嘔吐、下痢、食欲低下、頭痛、筋肉痛などの症状が出るようです。

★マダニ  節足動物、クモのように胴体部分に8本の足があります。1部のマダニには単性生殖が可能なため交尾をしないものもいます。1度に数百~数千個の卵を産みます。マダニは二酸化炭素の臭い、体温、振動などを感知するハーラー器官という感覚器を持っていて獲物が近づいてくるのを待っています。生育場所は山の中の茂みや草むらに住んでいて葉の先などにいて通りかかり葉に接触する動物を待ちます。成虫は3~8ミリで、生息場所は人家の近くにもいて、民家の裏山、裏庭、畑、あぜ道などです。シカ、イノシシ、ノウサギ、ノネズミなどの野生動物が多い地域ほど要注意です。野生動物の通り道などは特に危険です。幼体も刺すようですので注意が必要です。マダニは柔らかい部分を見つけてから吸血するようです。

マダニの感染症はウイルスを保有しているマダニに噛まれて感染します。マダニ媒介性感染症の代表的な疾患を調べてみました。

・日本紅斑熱  潜伏期間は2~8日、症状は痒みのない発疹や発熱。発疹は四肢末端部に出現しやすいようです。発熱、発疹の時点での治療が重要で、ほっておくと重症化してしまいます。日本紅斑熱リケッチアによる感染症で、死亡例があります。

・Q熱  人獣共通感染症でコクシエラ菌によって発症します。自然界ではウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、などの体内に存在する感染力の強い菌になります。人には菌に感染している家畜やペットの糞便、乳、卵から感染します。まれに保菌ダニからの感染があります。早い処置が重要なうえ、宿主からの完全な消失は難しいです。治療が遅れると死に至ります。Q熱の検査、治療を行っている医療機関は4か所のみになってしまい、診断にはQ熱を限定して検査しなければいけませんので、このことから誤診につながる確率は高くなってしまいます。うつ病と誤診されることも多いようで、感染症とみられないで原因不明とされることもあるようです。
症状は風邪に似た症状や精神的症状になります。2~4週間の潜伏期の後、37~40度の高熱を出します。うつ症状や頭痛、筋肉痛、咽頭痛、悪寒、倦怠感などのインフルエンザに似た症状を出します。急性のQ熱は予後良好ですが慢性のQ熱に移行する確率は5%で慢性肝炎、骨髄炎、心内膜炎を起こしやすく症状も長期化します。心臓弁膜症、臓器移植を受けた人、癌、腎臓病などの人が慢性化しやすいようです。

・ライム熱  人獣共通感染症でマダニに媒介されるポレリア(スピロヘータの1種)の感染症。マダニの吸血後48時間を過ぎると感染のリスクが高まるといわれています。早い処置が必要になります。症状は吸血された箇所の近くから赤い斑点が現れ、全身の倦怠感、寒気、頭痛、嘔吐、発熱、関節痛などの症状が現れます。

・回帰熱  回帰熱ポレリアによる感染症。特徴は発熱期と無熱期を数回繰り返すことです。症状は悪寒を伴う40度の高熱を出すことにあります。頭痛、筋肉痛、関節痛、全身倦怠などの症状を表します。発熱期は3~7日続きます。無熱期の症状は発汗、倦怠感が主で5~7日程になります。髄膜炎、黄疸、紫斑、結膜炎、心筋炎、肝炎、脳出血などを併発することもあります。致死率は治療をしないと10%で早い処置が必要になります。シラミによるシラミ媒介回帰熱では死亡率は50%と高くなります。

・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)  SFTSウイルスにより感染します。シカ、イノシシ、ノウサギ、ノネズミ、イヌなどには感染しないで、人間に対して発症します。西日本に多い傾向はあるものの、日本全国に広がっています。マダニの種類にもよりますが、およそ5~15%が保菌しています。症状は1~2週間ほどで発熱、嘔吐、下痢、食欲低下、頭痛、倦怠感、筋肉痛、リンパ節腫脹などの症状が出るようです。重症者は血球貧食症候群を伴い出血傾向を呈することが多く、致死率は10%以上になります。現在、有効な治療法やワクチンはありませんので、早く処置をすることが最善の治療法になります。

・ダニ媒介性脳炎  ウイルス性感染症。日本では1例と少ないですが、東ヨーロッパやロシアには多く発生しています。症状は脳炎による神経症状。

その他に、よく聞くツツガムシ病は、ツツガムシ(ダニ目ツツガムシ科のツツガムシの総称)によって発症します。

・ツツガムシ病  人獣共通感染症でツツガムシリケッチアの感染により発症します。ツツガムシ科に属するのは日本で約100種類。幼虫はネズミに寄生していることが多いそうです。幼虫はオレンジ色、成虫は赤色。ツツガムシ病リケッチアを保有している個体に刺されることで感染します。保菌率は0・1~3%。ツツガムシ病は風土病として恐れられていました。潜伏期は5~14日。症状は39度以上の高熱と体幹を中心とした発疹(顔面、体幹に多く、四肢には少ない)疼痛、倦怠感を伴います。日本紅斑熱の症状と酷似します(上記参)以前は山形県、秋田県、新潟県で、古典型と呼ばれ多く発生していましたが、現在、新型と呼ばれるものが沖縄県など北海道を除く全国に広がってきています。古典型が春~夏に多く、新型が秋~初冬に多く発生します。これは保菌するダニの種類からくるものです。吸着時間は1~2日で感染には6時間以上の吸着が必要になります。菌はダニからダニへの径卵感染になります。ツツガムシ病は刺された覚えのない人の発病者も多いことから、早期の診断が重要になってくるといえます。

キャンプや自然の中でのバーベキュー、キノコ狩り、山菜狩り、や沢遊びなどではマダニに噛まれるリスクは高いといえます。楽しく遊ぶためには最低限の知識と予防策を取ることが良いでしょう。もしも草むらや笹薮に入る時には肌の露出を少なくして、ズボンの裾などから侵入されないようにすることが最大の予防になります。帽子や手袋も有効です。露出の多い半ズボン、サンダルは危険ということになります。首にタオルを巻くことも有効です。それ以外の目的なら草むらや笹薮に入らないことが1番安全ということになります。
もしも草むら等に入ったら、体にマダニがついていないかの確認もした方が良いです。獣道は特に危険といえます。家に帰ったら服は部屋に脱ぎ捨てないで、ビニール袋に入れて口を縛るのも有効です。帰宅後に風呂やシャワーを利用するとリスクはさらに下がります。大げさかもしれませんがこれらを頭に入れておくだけで危険度は違ってくると思います。