2006年05月07日

『永遠のぶらんこ乗りー「細川不集」を読んでー』1

 邑書林という主に俳句や短歌を得意としている出版社から、「セレクション柳人」シリーズが昨年2005年から続々と出版されている。川柳界にとってもとても画期的な企画である。そのシリーズの中の一冊として細川不凍集が刊行された。細川不凍ファンにとっては、「雪の褥」以来の待望の作品集である。一冊の中には第一句集「青い実」抄、第二句集「雪の褥」、第三句集として「凍裂」、そして散文と細川不凍論も収録されており、正に多くの方々が待ち望んでいた個人的作品集であるとともに、川柳資料的価値の高い一冊である。

第一句集「青い実」抄より
人形に髭生え父母を煩わす
飛ぶ術を覚えて闇に放たれる
囮にされて口笛がよく吹ける
ガラスの指ふって一瞬の虹だった
振り返る術なし発車ベルを押す


 「人形に髭生え」の句は、ある意味、自分自身を冷静に客観視しているように感じられた。しかし、それでも生命力を持ち、そこには滔々と血が通っているのだ。私の母も私のことを、「手足は動かないのに、髭と爪だけは伸びるのが早い」が口癖のようになっている。闇の中での思考は鋭敏になりやすい。身体が思うままに行かない場合は尚更で、闇の中の思考を「飛ぶ術」とは言い得て妙である。「口笛」の句も、それに通じるところもあり、自分が置かれた状況の中で、心身が反比例することもある。ガラスの指さえ、もしかすると幻だったのかも知れないが、一瞬の虹に何か見出し、前へ進んで行くきっかけになることもある。作者にとって「発車ベル」は強制的なものだったかも知れない。前掲句の「虹」を秘めて、不凍氏の原点を見た気がした。
 今回の細川不凍集が刊行されるまで、「雪の褥」以前の不凍作品に触れることはできなかった。第一句集「青い実」の存在を知ってはいたが、「青い実」は既に入手することは困難だった。それ故、この度の細川不凍集に、第一句集「青い実」の作品が収録されたことは、不凍氏初期の作品を読みたかった私にとって、貴重な四十一句であり、念願叶ったわけである。おそらく、その気持ちは私だけではなく、多くの不凍ファンの念願でもあったと思う。
細川不凍氏の存在を初めて知ったのは、私が川柳を始めて一、二年くらいの時で、かもしか川柳社に参加させていただいた頃だった。それは不凍氏の句集「雪の褥」に出会った瞬間でもあった。

第二句集「雪の褥」
「第一回川柳Z賞受賞作品」より
流氷接岸 心カタカナにして臥す
生き継いで濁音ばかり吐く枕
雪七日 音を無くしている楽器
蝶死んでわが眼球におさまりぬ
てのひらで隠せる月よ父の忌来る
ゆで卵ツルリと剥けて父の忌過ぐ
地球儀を回す力は残っている


 その後、また現在でも、「心カタカナにして」というフレーズが心から離れることはなかった。それはこれからも同じである。また、その繊細な表現は多くの人にずっと語り継がれると思う。血管の中を通る血液の流れる音、心臓が血液を血管へと送り込む音を拡大すると、まさにゴーゴーゴーという力強い濁音になる。生々しいほどの生き継ぐ音である。雪は音というものをことごとく吸収し、消し去ってしまうことがある。雪が七日も続けば気力さえも消耗する。楽器である自分の内面も同様に。蝶というもう一人の自分がそこにいる。その蝶の死(失われたもの)、それはもう一人の自分を封印することではないか。理不尽な死を遂げた蝶の破片は常に視界の中に存在する。
てのひらで隠せる月。人の死も、肉親の死でさえ、いつかはてのひらで隠せるほどになってしまうのだろうか。それでもてのひらの向こう側の、その存在は消えることはない。ゆで卵の「ツルン」という感覚が、この句を読むと体をすり抜けるような気がした。その感触が妙に体内に残る。「地球儀を回す力」は、物理的な力もさることながら、精神力のことでもあると思いたい。そういう力はきっと何かを生み出す。
(「双眸」21号掲載)

つづく。

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shibakio at 10:12│コメント(2)トラックバック(0)clip!句集・柳誌 

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この記事へのコメント

1. Posted by 風詩   2006年05月07日 13:36
こんにちは。
 細川不凍様は存じ上げませんでした。
ご紹介有難うございます。ご書評もより深く解釈できて有難いです。
解りやすい言葉でありながら、胸にグサリと突き刺さる感性の鋭い川柳ですね。
☆振り返る術なし発車ベルを押す
☆蝶死んでわが眼球におさまりぬ
☆てのひらで隠せる月よ父の忌来る
☆地球儀を回す力は残っている
 僭越だとは思いましたが私には特にこの四句が心に残りました。
2. Posted by 昭雄   2006年05月07日 16:58
風詩さん
不凍さんは私の大先輩です。
読んでくださりありがとうございました。
一人でも多くの方に読んでいただければと思っています。
不凍さんも喜ぶと思います。
書評はまだ続きがありますので、良かったら明日掲載する続きも読んでくださいね。

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