2006年05月09日

『永遠のぶらんこ乗りー「細川不集」を読んでー』3

もののふであれと未明の凍裂は
月光淡し父の行年近づけば
ぐるり雪家霊ばかり肥えてきて
水いらずの茣蓙をひろげて待つさくら
家族とや夕焼け小焼けの赤まんま
寧日の父なよなよと髭ありぬ
ダイヤモンドダスト父の遺言のいまさらに
元旦の樹のてっぺんに置くいのち
生の章綴るや真夜の朴念人
駱駝倒るかのあこがれの空閉じて
身の果ての星はありけりうたありけり


 もののふであれと凍裂は叱咤激励する。極限の気象条件のもとに起こる凍裂と、精神性の高さの結びつきに気持ちが引き締まる思いがする。第三句集のタイトルの「凍裂」に、作者の凛とした思いが込められているのが分かる。父の行年に近づくことは、その年齢時の父がどんな考えを持っていたかを、ほんの少しでも確かめることが出来るような気がする。あの時の父は、こんなことを考えていたのではないか‥‥と。自分自身が年齢を重ねることで、見えて来るもの、気づかされることが多くなって来る。淡い月光に心が安らぐ。
 不凍氏は「北緯43度より」の最後で、〈ぐるり雪家霊ばかり肥えてきて〉の句について、「積もりに積もった雪を見ていると、時間が停滞し、やがて逆行していくのを覚える。そして、自分の躰の奥深い処に潜んでいる遠い記憶のようなものが、一つの風景となって蘇る。自分の生きざまを通して雪を見ることの多い僕だが、近頃は雪を通して人生を見ることの大切さを感じるようになった」と触れている。この句と文章を読んで、不凍氏の躰の奥深い処に秘めた、精神風土の毅然とした姿勢を見ることが出来た。それは読者にとっても、良い意味でシンクロされてゆく部分でもあるのではないか。
 「水いらずの茣蓙をひろげて」には、現世の家族はもちろんのこと、彼岸の親族一同の束の間の「水いらず」という意味が含まれている気がする。北国のさくらの季節は待ち遠しいものである。赤まんまのつぶつぶの花は、あたかも家族が寄り添っているようにも見える。夕焼け小焼けの中の家族の団欒が脳裏に浮かぶ。
 寧日の父は、とても穏やかでやさしい表情なのだろう。そして痛いような、くすぐったいような髭の感触さえ蘇る。そして自分の顎にも手をやって確かめてみる。なよなよと髭がある。ダイヤモンドダスト、気温がマイナス十五〜二十度くらいになり、よく晴れていて風がほとんどないような、冬のとても寒い日、空気中の氷の結晶に太陽の光りが当たり、ダイヤモンドのように輝いて見えることから、こう呼ばれている。胸の中で父の遺言もキラキラと輝き、存在感を増す時があるのだろう。
 「元旦の樹のてっぺん」にいのちを置く、それだけでも私は清々しい気持ちになった。この一句の中にそんな力が秘められている気がした。生の章を綴る朴念人とは、これほど不器用ながらも必死に生きている姿勢はないと思った。共感を覚える。駱駝は長い長い過酷な旅をして来た。いくつもの困難さえあった。それでもあこがれの空があったから旅を続けてこられた。たとえそこへ辿り着けなくとも果てない空は確かにあったのだ。身の果ての星があり、うたがあり、そして一歩一歩進み続ける。

 散文として収録された、「現代川柳の病巣」、「いま自己啓発を」、「北緯43度より」の三篇を読むと、不凍氏の川柳に対する誠実な姿勢、自分自身への厳しいまでの真っ直ぐな態度、文学への造詣の深さが伝わって来る。「現代川柳の病巣」では、他ジャンルを含めた川柳界の現状を分析し、作品内容の軽さ、作句者の眼差しの浅さを指摘しているし、「いま自己啓発を」でも、創作上の作者自身の自己の捉え方のこれからを懸念している。「北緯43度より」は、氏の自己への表現者としての眼差しが向けられている。
 そして読み終えると、不凍氏の言葉を通じて、読者自身の川柳に対する思いが具体的な形となって見えて来ると思う。きっと、それぞれが違った印象や考えを持つと思うが、必ず川柳を続ける上でプラスになる筈である。
 最後に次の句について一言。
秋を漕ぐぶらんこ乗りは永遠に

 私が以前、川柳木馬誌が特集している昭和二桁生まれの作家群像に取り上げていただいた時、この句を愛誦句として挙げたところ、後日、不凍氏直筆の、この句の色紙が届いて驚いた。そのお心遣いに私は大いに感激し、興奮したのを今でも忘れることが出来ない。それ以来、その色紙は私の宝物であり、いつも私の側に置かせていただいている。改めて御礼申し上げ次第である。不凍氏の作品集について書く機会を与えていただき大変光栄です。ありがとうございました。そして沢山の方に細川不凍集を読んでいただきたいと思う。
(「双眸」21号掲載)


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shibakio at 11:03│コメント(2)トラックバック(0)clip!句集・柳誌 

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この記事へのコメント

1. Posted by 風詩   2006年05月09日 17:23
こんにちは。
 深奥な作品で幾度も読み返しました。最初、哲学的な川柳のように感じましたがやはり最後までその印象を持ちました。自分の句の底の浅さを恥ずかしくも思いました。有難うございました。
2. Posted by 昭雄   2006年05月09日 18:00
風詩さん
不凍氏はもう四十年も川柳を続けておられます。
私も自分の力不足を感じます。少しでも近づきたいですね。
こちらこそ、読んでいただきありがとうございました。

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