いちばんコストが高くつく原発⑤

5 脱原発は可能だ

脱原発が始まった

国民世論が圧倒的に脱原発に舵を切った

事故後、国民世論は圧倒的に脱原発になった。2011827日のNHKの世論調査で、「原発をすべて原発のコスト廃止すべき」「原発を段階的に廃止すべき」の合計が80%近くにも及んだ。また、政府の原子力政策大綱策定の際に原子力委員会によせられた意見の98%が「原発即廃止」「段階的に廃止」の合計が98%にも及んだ。また、全国各地で反原発デモが行われるようになり、事故後、日本の原子力世論は確実に変わった。

 

菅直人が浜岡原発停止要請を出した

浜岡原発は静岡県の太平洋に面して立地している。近い将来東海大地震が起こると予想されていることもあり世界一危険な原発と言われているが、事故当時の首相・菅直人が停止要請を出した。これは日本の原発史上、初めてのことだ。さらにその後、菅は日本の原発政策の転換、つまり将来的に脱・原発政策としてのエネルギー政策を行っていく必要がある、との声明も出した。これも日本の原発史上、初めてのことだ。

 

脱原発で電力供給は大丈夫か

脱・原発で電力供給は大丈夫

事故後、節電気運がグッと高まった。だが原発なしで電力供給は大丈夫なのか? その答えは「大丈夫」だ。2010年の電力需要量に占める原発の比率は約30%だ。では30%電力需要が少なかったのは198687年頃だ。つまり原発をゼロにしても8687年当時の生活はできる、ということになる。但しそれを行うには電力会社間の電気の融通が必要だ。前述したように電力は9社の電力会社の各地域独占状態で電力供給がなされてきたのでほとんど地域間の電気の融通がなされなかった。これを行えば十分な電力供給は可能だ。

また、節電効果も考えればさらにその可能性は確実なものとなる。震災後、電力の節電効果は10%以上にも及んだ。これは各家庭での、経費の全くかからない、つまり使わない照明を消す、とか夏場のエアコンの温度を2度下げる、とかいった対策が占める効果の割合もかなり大きかった。また、ISEP(環境エネルギー政策研究所)の試算でも、節電効果を考慮すれば、原発ゼロでも十分な電力供給が可能であるとの試算結果もでている。さらに言えば、電力各社によって火力や水力発電の設備を多く備えているところもある。こういった所はそれを使えばいいし、そういった所から他の電力会社の管轄している地域に電気を供給すればいい。

 

仮に事業者などが経費のかかる節電対策を行うとしてもそのやり方次第で十分経費を穴埋めできるだけの節電も可能だ。例えばESCO(エスコ:エネルギー・サービス・カンパニー)事業というものがあるが、これは節電のコンサルティング事業で、冷凍機インバーター制の導入など、いろいろな対策を提供している。これを利用し、節電対策の経費が1800万円かかったが、年間360万円の節電効果がでて、5年で投資回収できたケースもある。こういったことも併せて考えれば節電&原発ゼロでの電力需要を満たす供給は可能だ。

 

原発を止める道筋

逆に「脱・原発」しかない

脱・原発でも電力供給は大丈夫、ということは前述したが、倫理面から考えても福島原発事故が起こった以上、脱・原発以外の選択はあり得ない。なぜなら福島原発事故では原発周辺のみならず、遠く200キロも離れた東京都内でもマイクロホットスポットが多く発生した。もはや東日本において原発の建設は言うに及ばず、稼働させること自体やめるべきだ。

 

西日本はどうか。もちろん原発ゼロで電力需要は満たされるのであるから原発は必要ないが、仮に稼働させるとしても前述した多重防護としての対策をしっかり行い、半径60キロ圏内において避難対策等の対策を十分にたてられなければ稼働してはならない。対策を十分にたて、稼働するとしても次のエネルギー供給源ができるまでの時限的な稼働とするべきである。

 

余りある世界の自然エネルギーのポテンシャル

福島原発事故を受けて最初に自然エネルギーに舵を切ったのは日本ではなく、ドイツだ。それまでメルケル首相をはじめ、ドイツキリスト教民主同盟やその連立与党である自由民主党は原発の稼働延長10年を認めるなど保守的な政策を行ってきたが事故後、2030年までの原発ゼロを目標に掲げた。そもそも世界には莫大な自然エネルギーのポテンシャルが実はある。電圧を安定させるなどの対策を行ったとしても、費用効率的であるという。

日本においても十分な自然エネルギーのポテンシャルはある。設備容量でみると、原発は4885万キロワット(20103月末時点)だが、非住宅系太陽光エネルギーだけで15000万キロワットもある。さらには、最も大きいポテンシャルをもつ海上風力発電だけを見ても16億キロワットもある。これらは分散型エネルギーであるので原子力や火力に比べて非効率ではあるが、それを加味しても余りあるポテンシャルの量である。

 

そもそも原子力は電力しか供給できないエネルギーだ。車のガソリン車などの燃料にも使えない。ゆえに電力を含む日本の総エネルギー需要のわずか9%しかない。こういったことを考えても原発を推進するメリットは少なすぎる。

 

脱原発のコスト

脱原発の方が費用はかからない

原発推進派から「火力発電の割合を増やせば燃料の焚き増し料金が莫大になる」、ゆえに脱原発はコストが高くつく、という論調が聞かれる。本当にそうか? ここで脱原発の便益とコストについて考察してみる。

・脱原発のコスト

15年の期間で、この間に震災後15%の節電ができたことに照らし合わせて15%節電でき、20%の再生可能エネルギーでの供給が可能になった、という条件で検証する。確かに短期的には火力発電の焚き増しがされるので燃料費は高くなるが、仮定どおり15%の節電できたとすれば総電力量の30%になる原子力エネルギーの半分は節約できる。これを加味した年平均のコストでいうと初年度は15800億円になる。再生可能エネルギーが導入されていくと、徐々にこの燃料費が節約できることになり、12年目以降は焚き減らしができる。これを加味して年平均に換算すると5300億円になる。

 

次に、再生可能エネルギー普及に伴うコストを加味する。2009年に環境省が出したデータによると、再生可能エネルギーで2030年までに20%の再生可能エネルギーで補おうとすると、22兆円かかることになる。20年で20%は現実的でないので15年で20%とする。すると年間平均で14700億円になる。これに5300億円を足すと2兆円になる。

・脱原発の便益

電力各社の有価証券報告書によれば、脱原発を行うことによって、原発を稼働させる費用を9社合計で16800億円が営業費用に計上されている。この他にバックエンドコストや燃料費や修繕費も不要になる。これらの合計額は9社平均で8400億円である・・・・など他にもいろいろ脱原発を行うことによってなくなる原発を稼働させるための費用があるが、全部加味すると、年平均で26400億円になる。よって原発を稼働させるより原発ゼロの方が経費はかからないことになる。

(最後の項の「再生可能エネルギーの爆発的普及は可能か」は可能であるので省略)

 

<終り>

いちばんコストが高くつく原発④

4 原子力複合体と「安全神話」

安全軽視の原子力政策

原子力委員会の「原子力政策大綱」

2005年、原子力委員会は「原子力政策大綱」を示した。その2005年には原子力に関するトラブルが相原発のコスト次いでいる。そんな中でこの原子力政策大綱は示されたわけだが、そのトラブルについてこう書いてある。

「東京電力㈱の不適切な行為、関西電力㈱美浜原発における多数の作業者の死傷を伴う極めて重大な配管破損事故の発生、日本原燃㈱六ケ所再処理工場の不適切な施工等」

があったと総括して書いている。つまり東京電力などの事業者(人間)に不備があったゆえに事故があったのであり、原発そのものが危険だということではない、というスタンスで書いている。他の部分で原発の安全強化という側面から書いてある箇所も一部あるが、「2030年以後も総発電電力量の30~40%という現在の水準程度かそれ以上の割合で原発を稼働させていく」という前提のもとで書いてあり、安全性を確保できなければ撤退もあり得る、というスタンスは全く見せていない。

 

総合資源エネルギー調査会の「原子力立国政策」

総合資源エネルギー庁が20068月に「原子力立国政策」を示した。その中で原子力政策の基本方針として以下の5つが書かれている。

①「中長期的にブレない」確固たる国家戦略と政策枠組みの確立

②ここの施策や具体的時期については、国際情勢や技術の動向等に応じた「戦略的柔軟さ」を保持

③国、電気事業者、メーカー間の建設的協力関係を強化。このため関係者間の真のコミュニケーションを実現し、ビジョンを共有。先ずは国が大きな方向性を示して最初の第一歩を踏み出す。

④国家戦略に沿った「個別地域政策」の重視

⑤「開かれた公平な議論」に基づく政策決定による政策の安定性の確保

と書いてあるが、ここでも原発の安全性について全く書かれていない。

 

軽んじられた多重防護の思想

多重防護とは

多重防護とは、元原子力安全委員会の委員であった佐藤一男氏によれば、

①施設立地にあたっての防護

異常や事故を誘発するような事象が少ない地点に立地すること

②設計・建設・運転における防護

設計・建設・運転において、事故原因あるいは異常な事象の発生可能性が極力抑えられていること

③顕在化を防止する対策

事故原因となる異常な事象が発生しても、早期に検出して処理することにより、潜在的危険の顕在化を防ぐこと

④影響を緩和する対策

異常が波及拡大し、事故に繋がっても、その影響をできるだけ緩和するような設備上の対策を、設計の段階から施しておくこと

⑤設計を超えた場合の対策

設計時に想定されていた以上の事故が起こったとしても要因の知識と能力により柔軟に対応すること

⑥施設と周辺社会との隔離

原子力施設と社会との相関を少なくし、事故が起こっても社会的影響が出ないようにすること

⑦防災対策の整備

施設外の対策として、万が一事故が起こった時でも周辺住民の被害を最小化するための防災対策を整備すること

 

である。

 

不備だらけの多重防護としての対策

上述の多重防護の観点からすれば、福島第一原発事故の多重防護としての対策は不備だらけだった。以下にその不備について記す。

・施設立地地点の選定問題(①の不備)

福島に限らず、三陸沿岸地域は地震による津波の常襲地帯といっても過言ではない。歴史で確認できるだけでも869年の貞観津波をはじめ、7回も大津波が起こっている。とうてい原発を設置するような場所ではない。

・地震・津波と全電源喪失への対策の不備(②~④の不備)

この大震災の大津波は神戸大学名誉教授の石橋克彦氏により可能性が示唆されていた。また、国会でも取り上げられたこともあったし行政側の原子力安全基盤機構は大津波により電源喪失した場合に炉心溶融が起こる可能性を示唆していた。にもかかわらず東電は対策をとらなかった。

・シビアアクシデント対策軽視(⑤の不備)

原子力安全委員会の事故前のシビアアクシデント対策はチェルノブイリ事故を想定していなかった。ゆえに、その文言には、「いわゆる多重防護対策を行うことによって・・・・これらの諸対策によってシビアアクシデントは工学的には現実に起こるとは考えられないほど発生可能性は十分に小さいものとなっており、原子炉施設のリスクは十分低くなっていると判断される」と書いてある。つまり設計を超えた場合の対策を全くしてこなかった。

・防災対策の不備(⑦の不備)

JOC事故やスリーマイル事故を想定して防災対策を策定していてチェルノブイリ事故は想定していなかった。ゆえにEPZ(緊急事態対策地域)をかなり狭小に設定していた。もしチェルノブイリ事故を想定していればもっと広範に設定されるはずだった。

 

不十分なストレステスト

事故後、日本の全原発においてストレステストが行われ、再稼働の基準とされたが、この基準が甘すぎる。このストレステストはある程度の大きさの地震と津波に原子炉が見舞われた場合の影響をコンピューターシュミレーションで検証するものだが、この地震と津波の想定規模が甘い。世界最大級の地震と津波で想定する必要がある。また、ストレステストを行うのが原子力安全委員会、保安院、電力会社であることも問題だ。第3者が行わなくてはならないし、その対象が原子力施設に限定されていることも問題だ。周辺地域や住民に対する影響も加味して行われなければならない。

 

EUのストレステストと比較しても甘い。EUではテストの結果に対して専門家によるピアレビューが行われ、専門家同士の検証がなされる。また、この結果を、公開セミナーを開いて一般市民にも情報を公開し、市民も議論して結果を導き出すことになっているが、日本ではこのようなことは全く行われていない。

 

安全神話の中の原子力複合体

安全神話に対する国民の意識

政府や電力会社などは原発の安全神話を広めてきた。が、国民の意識にそれはそれほど根付いていなかった。福島原発事故前であっても、原子力の安全性についての問いに、「安心である」「どちらかと言えば安心である」の両方の合計が41.8%であったのに対し、「不安である」「どちらかと言えば不安である」の合計は53.9%に達していた。しかし、原子力の推進に対しては、「積極的に推進していく」「慎重に推進していく」「現状維持」の合計が78.3%を占めた。また、これまで原発関連の住民投票は3回行われたが3回とも住民側の勝利となった。このことから言えることは、国民は原発の安全神話を信じてはいないが、原発の稼働はしていく必要がある、と認識している、ゆえに自分の地域においては原発を稼働させたくない、という意識が強く働いていると思われる。

 

隠された事故被害予測

原発事故の破壊的な事故被害の予測は原発が稼働される前の1950年代後半にはすでに予測されていた。これはアメリカの予測を先に見て日本でシュミレーションされた。当時の原子力推進派の第一人者でエネルギー庁長官だった中曽根康弘はそれを国に報告している。シュミレーション結果はいくつかあったが中には福島原発事故と同程度の被害が予測され、気象状況や放射性物質の放出パターンによっては数百名の致死者がでると予測された。しかしこの予測は1998年までは公表されなかった。このような予測がなされたことによって「原子力損害賠償法」が成立されたのだ。

 

日本の原子力推進体制

原子力開発政策は原子力委員会や総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会で決定される。前者が基本方針を策定し、後者が具体的なことを策定する。この両方ともに電力会社関係者が委員として名を連ねている。つまり日本の原子力開発・推進において推進側の電力事業者の意見が反映されるようになっている。

 

推進を前提とした原子力政策形成

政府の審議会を見ていると、あくまで原発推進であって、反対の意見は全く出てこない。どうやって原発推進の世論形成を行っていくかなどあくまで原発推進が前提で審議される。原子力部会もしかり。その「原発推進」を目的とした小中学校の授業向けに副読本まで配布され、この教材を含む授業を行うことに対して都道府県に補助金まで交付されている。また、原発に対する住民の反対運動対策も原子力部会では議論される。いかに住民の反対を抑えられるか、が議論されている。

 

 

原子力複合体による原子力推進

プラントメーカー、電力会社、国などがいわゆる原子力ムラを形成し、原子力推進を遂行している。中でも電力会社と国のその推進力が大きい。それは、

・電力会社出身者を支援し、議員として国会、地方議会に送り込む

・官僚と関係性深め、天下り先を用意し、官僚を原子力推進に取り込む

・電力会社関係者が直接政策決定に関与する

・マスコミに多額な広告料を盾に原子力推進広告をさせる

・学者に多額の研究費など与え、原子力推進論を展開させる

などだ。

 

国の原子力推進

原子力ムラの一員である国も原子力推進に以下のように邁進している。

・ワーキンググループなどの政策決定過程で原子力反対派を徹底的に排除する

・原子力推進政策に重点的に予算を振り分ける

・シンポジウムなどで世論として原子力推進が多数派であるかのように見せかけるためにマスコミに働きかける

などだ。

 

原子力複合体をどう解体するか

原子力複合体をどう解体するか

・福島原発事故の真相究明を徹底的に行う。「原因究明は個人的な責任追及はすべきではない」と前述の原子力部会の部会長である田中知は声明を出しているが、そんなことでは原因追及がされにくくなる。個人的な責任追及を合わせて事故原因の究明が行われなくてはならない。

・電力会社の地域独占体制を解体する。発電・送電・小売りを全て一括して電力会社が今まで担ってきた。これを自由化し電力会社の独占体制をなくす必要がある。今までこれにより電力会社の恣意的な電力支配が行われてきた。特に送電は関しては事業者が入り込みにくいものだ。この構造を改廃しないことには電力会社の恣意的な電力支配が続くことになる。また、電力会社9社間の電気の融通がほとんど今までなされなかった。この閉鎖的な構造が福島原発事故時の「計画停電」を発生させた。

・原子力開発にかかわる組織の改廃が必要だ。保安院や原子力安全委員会は原子力政策に規制をかけ、安全対策をしっかりやらなければならない組織だが、それを怠ってきた。また、原子力委員会も形式的に不可能な政策をつくり続けてきた。こう言ったことも改めなければならない。

 

そもそもこれらの組織は利益集団の集まりであり、恣意的に政策を決定してきているし、審議会などの委員長は同一人物が10年以上もとどまる、ということも珍しくない。こう言ったことも恣意的な判断をすることにつながっている。こういったことも含めて組織の改廃が行われなくてはならない。

 

また、この事務局も改廃しなければならない。現行では経産省及び文科省のエネルギー政策、原子力政策畑の官僚が事務局を担っている。この事務局が原発反対派・慎重派を排除し、原発推進一辺倒の政策を形成している。この事務局の改廃も行われなければならない。

・組織を改廃した後に新しい第三者の人間だけの組織にし、客観性を徹底的に重視した組織にしなければならない。アメリカではスリーマイル島原発事故以後、これがしっかりなされてきた。日本もこの点を徹底しなければならない。

 

<次回:第5章「脱・原発は可能だ」>

いちばんコストが高くつく原発③

<前回:第2章「被害補償をどのようにすすめるべきか」>

3 原発は安くない

原発は経済的か

政府発表の発電コスト

原発の発電コストはかつては毎年のように発表されてきた。だが、事故後に政府が発表したのは2004原発のコストに経産省の審議会である総合資源エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会がまとめた報告書だ。確かにこれを見れば原発の発電コストは一番安い、ということになる。しかしこれは2004年時点で発電所を建設し、運転をした場合、運転年数を通じて平均すると、どれだけの発電コストになるかを一定の条件下で示したものである。つまりこれまでの原発の発電における実測値ではない。

 

モデル計算の仕方

発電コスト=総発電コスト÷発電量

総発電コスト=資本費+燃料費+運転維持費

発電量=設備容量(発電設備の規模のこと。単位はキロワット)×365(日)×24(時間)×設備利用率×運転年数

 

発電コストの問題点

であるが、これによると電力で発電コストが一番安いのは水力発電となる。だが、長期的な視点で見ると原発が一番安い、と政府は言う。つまり原発は初期投資(建設費)がべらぼうに高いが燃料費が安いので長期的な視点で見ると安くなる、と政府は言っているのだ。しかしそもそもこの計算式で算出すること自体に問題がある。まず、総発電コストについてみると、原発にかかるコストはこれ以外にもある。原発は立地対策費がかかる。原発を立地したがる住民はいないわけだから交付金という形で立地住民に払われる。また、高速増殖炉や六ケ所村再処理工場にかかるコストもある。これは直接的なコストではないが、結局は我々の税金から払われているし、原発を稼働するから存在しているわけでこれを発電コストに入れないのは適正とはいえない。また、燃料費に関してはウランをオーストラリアなどの鉱山会社から輸入するわけだから為替レートも関係してくることも頭に入れとかなければならない。

 

発電量の計算式にも問題がある。現在、電事連が算出している原発コストはなぜか2004年時点での計算だが、稼働年数40年、設備利用率80%で計算している。2004年時点で40年を超えていた原発は日本に1基もなかった。だから不確かな未知数で計算していることになる。設備利用率80%という設定もおかしい。発電量はコントロールしやすいものとしにくいものがある。火力発電はしやすい。原発はかなりしにくい。なぜなら原発は、井野先生の「原発はどのように壊れるか」の著作を読んでいれば分かりそうなものだが、発電量をコントロールすれば原子炉の銅材の温度も変わってくる。この銅材は温度変化によって収縮したり延びたりするので、銅材の温度とPTS状態遷移温度が一致した場合において、銅材が破壊する恐れがでてくる。ゆえに発電量をコントロールすることはできない。つまり常に原発の稼働率は100%なのだ。それだけではない。そんな原発でありながら実際の稼働率は70%だ。これは原発が頻繁に事故を起こしてその度に停止しているからだ。だから原発全体の平均値をとると70%ということだ。事故が起こればそれに対する収束費もかかってくるわけだからこれも発電コストにいれなければならない。

 

発電事業に直接要するコスト

総括原価方式の問題点

我々が支払う電気料金は総括原価方式というやり方で決められている。それは前述した発電コストに電力会社が支払う営業費用と電力会社社員の給料などの事業報酬を足した合計を電気代によって回収するといったやり方だ。だが、この営業費用に東電は本来入れてはいけないものを多数入れて計算していたことが発覚した。

 

モデル計算による計算結果

19702010年度の1キロワット時の発電コストは、

原子力:8.53円 火力:9.87円 水力:7.09円(一般水力:3.86円、揚水:52.04円)

つまり上述のモデル計算によっても原発は一番安いとは言えない。ここで指摘したいのが総発電コストに資本費(建設費)が含まれると前述したが、これは当然年数が経つほど減価償却が行われ、金額が少なくなる。ゆえに直近になればなるほど電気料金は安くなるが、前述したように原発の建設費はべらぼうに高いため、その下がり幅が大きい。問題は時おり、直近の電気料金で国民に説明されることがあるため、原発の電気料金が一番安いことになってしまうということである。直近以前の電気料金を国民は高く払っているわけだから当たり前のことである、ということだ。

 

原発事故の発生頻度

事故コストをどう考えるか。IAEAは事故確率を10万炉年分の110万年に1度)としている。しかし日本の原発事故確率は福島原発事故で考えると500炉年(500年に1度)起こっている。つまり日本の全原発における稼働年数の合計が500年ということだ(私は本文をこう理解した)。だから日本の原発が稼働して500年目に福島原発事故が起こったということだ。これをキロワット時のコストで考えるとIAEA10万炉年が0.006円、日本の原発が1.2円となる。つまり通常のコストに1.2円分の事故コストが加算されることになる。つまりただでさえ建設費がべらぼうに高い原発のコストにさらに1.2円足されるということだ。どう考えても原発のコストは高い。

 

莫大なバックエンドコスト

バックエンドコストとは

バックエンドコストとは原発を使用した後に発生するコストのことを言う。これには六ケ所村再処理工場などで使用するために発生する再処理コスト、高放射性廃棄物処理コスト、TRU(超ウラン元素)廃棄物処理費用、廃炉費用などが含まれる。つまり政府が「原発は発電コストが一番安い」などと言ったところで、前述した交付金などが含まれていないばかりか、さらにこのバックエンドコストが加算されることになる。

 

政府のバックエンドコスト請求書の問題点

2004年、政府の総合エネルギー調査会電気事業分科会コスト等検討小委員会はバックエンド費用の見積もりを出した。なぜこのとき出したのか?この時に六ケ所村再処理工場が本格的に稼働できると見込まれたから出したと思われる。そしてその金額は188000億円にものぼる。しかもこの金額はかなり小さく見積もられている。

 

この見積もりでは再処理費用は、「六ケ所村再処理費用」として11兆円計上されている。まずこれがおかしい。再処理する量を六ケ所村再処理工場で年間800トン、40年稼働させて32000トンを処理する前提で11兆円が計上されているが、これは日本の全再処理量の半分に過ぎない。

 

次にウラン235を核燃料に加工する過程で濃縮ウランをつくらなければならないが、その際にウランが残る。これを劣化ウランという。また、使用済み燃料からプルトニウムを取り出す際に同時に取り出されるウランがある。これを回収ウランという。政府はいずれこれらを再処理すると言っているが全くその目途は立っていないが、これらをもし再処理することになればこの分も再処理費用として発生する。

 

また、政府はMOX燃料を核燃料として使う方針をとっているが、MOX燃料を使った後に発生する使用済みMOX燃料の処理費用も計算に入れていないし、そもそもMOX燃料つくる前に再処理が必要となるがその費用も入れていない。さらに、高速増殖炉サイクルを行っていく際の費用も入れてない。加えて、ウラン燃料の製造工程において発生するウラン、製造施設を解体する際に発生するウランの再処理費用も含まれていない。このように188000億円という金額には含まれていない再処理費用がたくさんある。

 

非現実的な計算の前提

政府のこのようなかなり狭小な視点での見積もりは計算式の前提までも非現実的となっている。そもそもこの再処理の場所は六ケ所村以外に決まっている所がないが、その六ケ所村再処理工場において正常に稼働して、40年間事故が無く、100%の能力を発揮し続けることを前提に計算している。だが、周知のとおり六ケ所村再処理工場は事故をしょっちゅう起こしている。また、フランスのアレヴァ社のラ・アーグ再処理工場の2010年の稼働実績を見ても分かるが、1700トンの処理能力に対して1062トンの処理に留まっている。試験段階で事故続きの六ケ所村再処理工場で40年間事故が無く、100%の能力を発揮し続ける、という根拠が全くない。加えて、高レベル放射性廃棄物、TRU廃棄物の処理費用も低く見積もられている可能性大である。このように政府の再処理費用の見積もりは、見積もり範囲が狭小であるばかりか前提条件も楽観的過ぎる。そしてこれらの再処理費用は我々の支払う電気代に既に上乗せされている。

 

<次回:第4章「原子力複合体と『安全神話』」>

いちばんコストが高くつく原発②

<前回:第1章「恐るべき原子力災害」>

2 被害損害をどのようにすすめるべきか

 

莫大な原子力被害

被害を総体としてとらえる

原発事故による被害は大きく分けて金銭的支援で充足できるものとそうでないものに分けられる。被災原発のコスト者の精神的損害はその後者のものだ。こういった損害は金銭に置き換えることが難しい。が、こういった損害についてもしっかり支援していかないといけない。

 

事故費用の4つの区分

原発事故の費用は4つに区分される。

①損害賠償費用

事故により、直接的被害だけでなく、営業損害(収入喪失または減少)、就労不能による損害、財産価値の喪失・減少などの経済的損害も含まれる。

②事故収束・廃炉費用

原子炉・燃料プール冷却、汚染拡散防止、モニタリング・除染、余震対策、労働者環境の改善、核燃料の取り出しなどにかかる費用。廃炉について電事連は、110万キロワット級の原発で約630億円と見込んでいるが、これは正常に稼働している原子炉の場合で、福島第一原発のように損壊した場合、1~3号機だけで2011年現在で全国で稼働している全54基分の合計の廃炉費用に匹敵する。

また、東電によれば廃炉の次のステップの解体、撤去、放射性廃棄物処分で168397000万円かかるとされている。だが、チェルノブイリ原発事故では約19兆円かかっており、1~4号機の実態が分かっていない現時点では東電の見積もり額を上回る可能性はあると言わざるを得ない。

④行政費用

防災対策、放射能汚染対策、各種の検査の費用及び放射能で汚染された食品の買い取り費用など。

 

何が賠償されるのか

 

原子力損害賠償紛争審査会による指針の位置づけ

損害は原賠法にもとづき東電が賠償する。この賠償に至る東電との話し合いで合意ができなければ裁判に訴えることになる。が、それをなくすために原子力損害賠償紛争審査会が設けられた。この中間指針が20118月にとりまとめられた。ただしこの指針はあくまで目安であり、必ずしもこれに拘束されるものではない。

 

中間指針の内容と課題

中間指針の課題

指針の対象及び賠償の対象が政府の指定した地域しか設定されていない。年間の放射能積算量が1~20ミリシーベルトの地域の自主避難した人達への賠償がなされないのはおかしい。また、避難した人達は住宅ローンをもともと抱えていた人たちも多いが、避難することにより2重ローンになる人も多くいる。このような状況なども含め避難者の生活全体の再建を補償する賠償が必要だ。こういった視点が中間指針では欠如している。

 

原子力損害賠償の原則

 

原賠法の2つの目的

1961年に原子力損害賠償法が制定され、何か事故があった場合にはこれによって被害者に損害賠償が行われることとなった。この法律の目的は2つある。「被害者の保護」と「原子力事業の健全な発達」の2つである。損害賠償法という性質のものでこの後者の「原子力事業の健全な発達」のような規定があるのは珍しい。

 

事業者の無過失責任

上の原賠法は4つの原則によって成り立っている。以下に示す。

①賠償責任の厳格化 ②責任集中 ③賠償措置 ④国の援助

の4つだ。以下に順に見ていく。

まず、①の賠償責任の厳格化だが、原賠法3条には、

「原子炉の運転の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる」

とあるが、これは原子力事業者の無過失責任を意味する。つまりその事故の原因が電力事業者にあろうとなかろうと電力事業者が責任を問われることになる。電力事業者にとっては厳しい内容であるが原発というものを扱っている以上、見合った内容であるといえる。

 

東京電力は免責されうるか

ただしこの3条には但し書きがある。

「ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りではない」

つまり東日本大震災がこれにあてはまるかどうか、が問題となるがこの「異常に巨大な」とはどのようなものをさすのだろうか。これについて1961年の国会提出時にも国会で議論になったが1998年の原子力委員会原子力損害賠償制度専門部会では、

「一般的には日本の歴史上見られない大地震、大噴火、大風水災等が考えられる」

とされた。もしこれにあてはまらない、となれば加害者としての主体がなくなってしまい被害者への賠償をする主体がなくなってしまう。

 

賠償責任の集中

②の賠償責任の集中であるが、これは賠償責任が電力事業者のみに集中することを意味する。つまりプラントをつくった東芝や日立や三菱重工などには責任が及ばないとしている。なぜこのようなことになっているのか。理由は3つある。1つは被害者保護のためである。原発事業には上記のプラントメーカー以外にも多くの組織が入っていてこれらすべてを賠償責任の対象にしたら損害賠償が滞ってしまい被害者の救済が遅れてしまう。ゆえに電力事業者のみの責任としてある。

 

2つ目は前述したように原賠法3条の「原子力事業の健全な発達」のためだ。もし上記プラントメーカーやその他の設備を製造して発電所に収めているメーカーなどにも責任を求めたら、事故の際の損害が大きすぎて原発事業から撤退してしまうかもしれない。そうなれば「原子力事業の健全な発達」が見込めなくなるから電力事業者のみに責任を集中させているのだ。

 

3つ目は原発導入期のアメリカの意向が働いた、ということだ。つまり、プラントなどをてがけるGE(ゼネラル・エレクトリック)社やWH(ウェスティン・ハウス)社などの免責をアメリカから迫られ、譲歩したから電力事業者のみに責任が集中することとなった。

 

賠償措置の強制

③の賠償措置であるがこれは電力事業社へ強制される。つまり原発事故による被害は甚大なものであり、これに対する賠償ができなく倒産する可能性が十分にでてくる。これを阻止するために電力事業者には「原子力損害賠償責任保険」に加入することが義務付けられている。つまり原発事故の際、損害額が過大で電力会社が保証できなくても保険で払うことができるわけだ。よって事故の際にも被害者への補償が滞ることなく行われることになる。そういった意味ではこれも「被害者の保護」が目的でもあるといえる。そしてこのような保険に電力会社が入ることによって保障費用を「保険の掛け金」というかたちで経常費に入れることができ、万が一原発事故が起こって補償額が過大でも倒産せずにすむ。ただしこの保険は地震や津波、火山の噴火などの自然災害以外の日常時における事故が対象となる。つまり東日本大震災はその対象外となる。

 

政府と電力会社との間の補償契約

では対象外となった場合はどうするのか。電力会社は政府との間でも「補償契約」を結んでおり、それを使って補償することになる。しかしこの補償の限度額は東日本大震災の場合、福島第一、第二合わせて2400億円である。東日本大震災の場合、この額は事故直後すぐに超えた。そして日本では電力事業者に対して損害補償の無限責任制度をとっている。

 

国の援助

ではどうするか。ここで④の国の援助が行われる。つまり単純に、「国が電力事業者を援助しますよ」ということだ。しかしその額は東日本大震災では少なくても数兆円規模になり、国家としてさえ容易に補償できるものではない。

 

原子力損害賠償支援機構法の仕組み

 

よって「原子力損害賠償支援機構法」という法律がつくられ、新たに東電を救済する仕組みがつくられた。当初東電を国有化する話が出たがいつのまにか立ち消えた。だがその前にそもそも日本の電力供給の仕組み自体が間違ったものとなっている。全国10社ある電力会社が常に電気を流通できる仕組みになっていれば震災時の計画停電はしなくて済んだ。

 

当初話に出たような国有化論は経済界の反対により立ち消え、2011513日に関係閣僚会合決定がなされた。これは「東京電力への援助には上限を設けず、必要があれば何度でも援助し、損害賠償、設備投資等のために必要とする金額のすべてを援助できるようにし、原子力事業者を債務超過にさせない」ことが明記された。具体的には原子力損害賠償に関する機構を設け、国からの援助(国債の交付)の受け皿となり、必要に応じて国債を現金化し、事故を起こした原子力事業者に対して、資金交付・資金注入を行うというものである。

 

ここで注意しなければならないことはこれが電力事業者への貸付けではなく、資金提供であるということである。したがっていくらでも東電は援助金を受け取れることになった。だが東電は機構に対して負担金を支払わなければならなくなった。負担金は全電力会社が支払うが、東電にはこれに加えて特別負担金支払いが義務付けされた。これが事実上の東電の援助金の返還になるかどうかはその金額による。そして機構はこの負担金を、政府に対して国庫納付する。

 

この支援機構法には電力の安定供給に支障が生じる場合、政府は原子力事業者に対して援助できる、ともした。これは損害賠償とは関係のないことだが機構法として決められた。

 

この機構法の問題点は東電及び原発事業関連組織の事故に対する責任が不問に付されたことだ。つまり東電への救済スキームが最優先されたものとなった。よって各方面から批判を浴びた。

 

原子力損害賠償支援機構法とその問題点

 

①支援機構法の問題点

この法律は1条で電力事業者に、賠償に必要とする資金を交付することが明記されているが、同時に、「電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営の確保を図る」ことも明記された。事故直後のこの時期、反原発の国民が多数を占めている現状でのこの明記は問題である。

②国の責務

機構法は原子力事業を推進してきたのは「電力事業者だけでなく、国もそうであるから国も東電を支援する必要がある」といった旨(第2条)も明記されているが、これは経済界の意向を強く受け、東電の負担を国に転嫁することを狙ったものである。確かに国にも責任があるが、であるならば、ただ単に東電を支援するというものではなく、まず電力事業社に対して損害賠償をしっかり行わせること、その関係者の責任を明確にすること、原子力事故に至った原因を明確にし、原子力政策の抜本的見直しを図るものでなくてはならない。

③支援機構を通じた賠償枠組み

この枠組みによる東電への支援は非常に手厚い。前述した政府との契約による賠償措置額を超えた場合の支援は、資金交付、株式引き受け、貸付け、社債または約束手形の取得、債務保証があり非常に手厚い。なかでも主要なものは資金交付で、この原資は国から支援機構に対して交付される国債である。つまり国は、支援機構を通じて資金を東京電力に与える。これは貸付けという形をとらない。

 

また、この機構法には損害を受けた被害者に対する相談業務も行うことも決められた。これは前述したように、原子力損害賠償紛争審査会のセンターが担っている。ので、被害者の損害賠償手続きについての助言を行うものと思われる。

④支援機構による事業者の公的管理の可能性

支援機構は電力事業者に資金援助するにあたり、事業者とともに「特別事業計画」を作成しなければならない。これは原子力損害の状況、賠償額の見直し、事業及び収支に関する中間計画、経営合理化のための方策、経営責任の明確化などをしなければならない。また、この計画書を作成する際、事業者の試算に対する厳正かつ客観的な評価、経営内容の徹底的見直しなどを行う。こういったことを踏まえれば、事実上、事業者は国の管理下に置かれることになる。

 

国債の交付に関しては、損害賠償の履行にあたって経営合理化策が最大限おこなわれていること、などが条件とされる。これが条件となっていることは後述する国民負担との関連で重要な条件である。また、金融機関から融資を受ける際、事業者が金融機関に要請するだけでよいとしていることも問題だ。なぜなら金融機関が貸すとは限らないからだ。原子力事業を行ってきた電力会社に融資してきた金融機関にも原発事故の責任をとらせなければならない。つまり電力事業者に融資するよう義務づけなければならない。

⑤保有資産の買い取り

支援機構は損害賠償の資金確保のために電力会社の資産を買い取ることができる。これは電力会社に送電網を売却させ、発送電分離をさせることも可能であることを意味する。よって機構法は機構による電力会社への無限の資金提供をさせるものではあるが、同時に電気事業のあり方を変えることができるものでもある。

 

残された課題

 

債務超過回避策としての支援機構法

支援機構法により東電の債務超過に陥る可能性は低くなった。しかし問題がある。東電は機構から受けた援助を損益計算書上の特別利益に算入することになる。賠償金も特別利益に算入する。要するに東電を救うためのものに支援機構法は事実上、なっているのだ。とはいえ、この機構法を適用するにあたり、東電は特別事業計画書を策定するようになり、東電を監視することができるようになった。

 

東電は20111028日にこの計画書を政府に提出した。この計画書には問題があった。この計画書をつくるにあたり国民の関与が全くなかった。東電への援助金は結局のところ国民の税金というかたちになるのだから国民の意見もしっかり聞かねばならない。また、内容自体も問題だ。1兆円規模の資金が投入されるのに内容が簡便過ぎていた。

一時負担金、特別負担金の原資

機構からの援助は国債の売買によるものなのだからその原資は国民の税金ということになる。この返済にあたるのが前述した一般負担金と特別負担金だ。だがこの原資は何なのか?これが電力会社の電気代に上乗せ、という形をとるのであればこれも国民の負担となってしまう。本来これは電力会社の経営合理化やその関係者の負担としなければならない。だが、電力会社はこれに抵抗している。

 

損害賠償支払いにあたっての問題

東電は賠償金の支払いにあたって前述した原子力損害賠償紛争審査会の中間指針待ち、という消極的姿勢をとっている。だが、この指針に先立って賠償しても何ら法的に問題ない。東電は早急に賠償をするべきだ。

 

また、この被害者が行う損害賠償の手続きは非常に複雑で被害者を困惑させるものになっている。その案内冊子は160ページもあり、請求書類は60ページもあった。よって賠償手続きが滞っていて賠償がなかなか行われていない。このような状況が起こるのであれば東電ではなく、政府が一括して窓口を設けるべきだ。

 

損害賠償本格化にあたっての課題

とはいえ、損害賠償は行われた。この損害賠償を請求するルートは2つある。1つは直接東電に申請すること、もう一つは損害賠償紛争審査会の下に置かれる原子力損害賠償紛争解決センターに申請するルートだ。損害賠償の手続きは今後長期になることが予想されるため、長期にわたる体制づくりが必要だ。

 

事故収束と廃炉の費用をどうするか

支援機構法では、事故収束と廃炉について書かれていることが曖昧だ。これをどうするのか。この総額は莫大だ。これを東電が負担できなかったらどうなるのか。もし、国が機構を通すことなく直接に援助するならばこれは援助ではない。国有化と同じことになる。

 

損害賠償に上限を設けるべきか

損害賠償額に上限をもうけようとする動きになっている。これも問題だ。賠償額は莫大になるのはわかっているからもし上限を設けるならば被害者を切り捨てることになる。この動きは東電及び財界、その関係者が推し進めようとしているが、逆にこれらの者たちに負担させるための法改正が必要だ。

 

残された課題

支援機構法は東電を債務超過させない範囲で賠償させる仕組みになっている。また、株主や債権者をはじめとする関係者の責任を不問に付したことも問題だ。これらの責任を明らかにし、それに基づく費用負担を求めていくことが重要だ。

 

<次回:第3章「原発は安くない」>

いちばんコストが高くつく原発①

少し前になるのですが930日、私が会員である‘原発事故を考える町田市民の会(http://machidasimin.blogspot.com/)’の主催で、「『原発の本当のコスト』を考える --- 福島原発事故以降のエネルギー政策をめぐって ---」というタイトルで講演会が行われました。講師は大島堅一さんという方で、経歴は、

1967 福井県鯖江市生まれ

2008 立命館大学国際関係学部教授に就任

2017 龍谷大学政策学部政策学科教授に就任

2018 原子力市民委員会(http://www.ccnejapan.com/)座長に就任

主な著書/「再生可能エネルギーの政治経済学 エネルギー政策のグリーン改革に向けて」東洋経済新報社 刊(環境経済・政策学会奨励賞受賞)、「原発のコスト---エネルギー転換への視点」岩波書店 刊(大佛次郎論壇賞受賞)、「原発はやっぱり割に合わない」東洋経済新報社

です。この経歴からも推測できそうですがこの講演会は、‘原発のコストは本当に安いのか?’ということを明らかにする講演でした。同時に、現在少しずつではありますが普及している‘再生可能エネルギー’でエネルギー需要を賄うことができるのか?ということも明らかにした講演会でした。

 

その大島堅一さんの上述の、「原発のコスト---エネルギー転換への視点」岩波書店 刊(大佛次郎論壇賞受賞)の本を私は読んで要約文を書きました。この本の内容は、読むことによって講演内容の7割くらいをカバーするもので、講演内容をある程度知ることができます。そしてもちろん、‘原発のコストが安いというのはウソ!’ということもしっかりとした根拠をもって知ることもできます。よって読めば我々がこれからの日本のエネルギー政策を考える上で十分に参考になるものです。なので今回はこの私が書いた要約文を書きたいと思います(最終章だけ私の時間の都合により省略してあります)。但し前回の「原発ゼロ社会への道 2017」の第1章同様に要約文と言ってもかなりの文字数になるため、全5章の1章ずつ書いていきたいと思います。そしてその目次は、

1 恐るべき原子力災害

2 被害損害をどのようにすすめるべきか

3 原発は安くない

4 原子力複合体と「安全神話」

5 脱原発は可能だ

になります。

 

1 恐るべき原子力災害

 

福島第一原発で何が起きたのか

 

東日本大震災と福島第一原発事故

2011311日午後246分、宮城県沖大地震発生。マグニチュード9.0

原発のコスト地震、津波による死者数:15,836  行方不明者数:3,650人(20111111日時点)

東北地方には福島原発、女川原発、六ケ所村再処理工場、茨城には東海第2原発などがあり、震災が起これば壊滅的な事態になる可能性は多大にある。

 

原発は事故が起これば原子炉圧力容器に制御棒が入れられ、運転が停止される。が、この圧力容器が冷却し続けられなければ燃料棒の核燃料が崩壊していく過程で崩壊熱を出し続ける。この熱が出続ければ核燃料の被覆管の材料であるジルコニウムが酸素と反応し、水素を発生させ水素爆発が起こる(850℃以上で)。だからポンプで水を送り続けなければならない。だが、この地震で原発敷地外から送られる電気の設備が故障し、外部電源が喪失した。

 

この電源喪失、という状況に陥った時のために非常用電源設備が13台あるがこれが全部津波で故障してしまい、ここでもポンプで水を送ることはできなかった。次に消防車での放水を試みたがこれも上手くいかなかった。このままでは原子炉内の水素と酸素の化合気体の圧力が上がり、爆発を起こす。だからベント(排気)した。よって大量の放射性物質が大気中にまき散らされた。

 

だが核燃料の崩壊熱は上昇し続け、ついに水素爆発が起こった。まず311日午後3:36 に1号機が爆発し、次に314日午前11:013号機が爆発した。また、原因は分からないが25日に2号機でも爆発音が発生し、4号機の原子炉建屋も吹き飛んだ。

 

この次に起こり得る事故は核燃料が溶け出し、圧力容器の底を貫通して格納容器の底に溶け落ちるメルトダウンだ。これは核燃料の温度が2,7002,800℃を超えると起こる。このメルトダウンは当初、東電は「起きていない」としていたが512日になってやっと震災直後に起こっていたことを認めた。

 

このメルトダウンの次に起こり得る事故は、このメルトダウンした燃料が冷却水と接触し、水蒸気爆発を起こすことだ。起これば格納容器がその爆発に耐えられるかどうかも分かっていないゆえ、最悪の場合、実際に起こった放射性物質の拡散とは比較にならないほどの量の放射性物質の大気中への拡散が起こる可能性があった。

 

深刻な福島第一原発事故

この原発事故は地震と津波の両方の被害により起こった世界初の原発事故だ。スリーマイルもチェルノブイリもこの2つの被害では起こっていない。また、事故の収束までの期間が異常にかかり過ぎている、ということでも過去にないことだ。スリーマイルは数日で収束し、チェルノブイリは2週間で収束した。だが、福島原発事故は数か月たっても収束の目途はたたなかった。そして被害を受けた福島県の人たちは避難を余儀なくされ、コミュニティは分断され、半永久的に放射能の恐怖とともに暮らしていかなければならなくなった。

 

深刻な環境汚染

 

大量の放射性物質の放出

福島原発事故で放出された放射性物質の放出量(単位:ベクレル)

ヨウ素13115京 セシウム13715000兆 

セシウムをヨウ素131で換算した場合:24

チェルノブイリ原発事故での放射性物質の放出量(単位:ベクレル)

ヨウ素131180京 セシウム13785000

セシウムをヨウ素131で換算した場合340:

 

ヨウ素131の半減期:約8日 セシウム137の半減期:約30年なのでセシウム137に関しては長期間にわたる健康管理が必要でヨウ素131に関しては事故直後に大量に発生するので事故直後の健康管理が重要になる。また、福島第一原発事故における放射性物質の放出量は広島原爆の169発分の量になり、事故による放射性物質の減少量は1年後に1/10に減るが原爆の減少量は1/1000にまで減る。

 

放射性物質による土壌汚染の広がり

福島原発事故では危険な放射性物質であるセシウム137もかなり広範に放出された。チェルノブイリ原発事故では148万ベクレル/㎡以上の地域で強制的に避難を強いられたが、福島では原発の北北西方向を中心にそういった汚染地帯が発生した。また、チェルノブイリで高汚染地帯とされた18.555.5万ベクレル/㎡の汚染が福島市、郡山市、白河市や栃木県の1部に見られた。さらにはホットスポットといわれる原発からかなり距離があるが部分的に汚染された地域も見受けられた。そして3万ベクレル/㎡以上の汚染地帯は計8000㎢の面積に及んだ。但しチェルノブイリでは汚染地帯の住宅1軒ずつの放射能測定が行われたが、福島ではそれはされなかった。

 

 

全国的な放射性物質の降下

放射性物質が降下したのは福島だけでなく全国的に降下した。2011729日に文部省によって公表された統計によると、セシウム137の降下量が茨城県ひたちなか市で17,000ベクレル/㎡、東京都新宿区でも8000ベクレル/㎡降下した。また、西日本でも微量ではあるが降下した地域がある。ひたちなか市の降下量を年間のシーベルト換算では44.6マイクロシーベルトになり、日本人が通常自然界から受ける放射量の1.5ミリシーベルトより少ない。が、放射性物質はホットスポットのように、地域、地点によってかなり偏りがあるので必ずしも安全であるとはいえない。また、この文部省の統計は、福島県は「分析中」、宮城県は「被害が大きくて測定できない」として公表していない。

 

国際原子力・放射線事象評価尺度による評価

原発事故の危険評価は国際原子力・放射線事象評価(INES)によって評価されている。レベルは8段階ある。放射性物質の放出量のだいたいの目安として、レベル5500兆ベクレル以上、レベル65000兆ベクレル以上、最高危険度のレベル75京ベクレル以上とされる。福島原発事故は20114月の時点で37京ないし63京ベクレルと算出されたのでレベル7になった。東電によれば、事故直後と比べ、4か月以上過ぎた時点で1/1000万にまで放出量は減っているので安全性を強調しているが、そもそもこんなにも長期にわたって放射性物質が降り続いたことは過去になく、とても安全とはいえない。

 

拡がる海洋汚染

大気中にだけでなく、海洋にも放射性物質は放出されている。原発を冷却するために注水し続けなければならないが、原発施設が壊れているため水が漏れ出し、海洋に流出してしまっているのだ。この量は20117月時点で80京ベクレルと推定され、これだけで大気中に放出された量に匹敵する。汚染水は「高濃度汚染水」と「低濃度汚染水」に区分されているが、高濃度汚染水が2号機で416日、3号機で51011日に海洋に流出した。また、416日に高濃度汚染水の保管場所を確保するために意図的に低濃度汚染水を海洋に放出した。この3回の流出量は4700兆ベクレルに達し、INESに従えば、これだけでレベル6にかなり近い数値となっている。意図的放出に関しては韓国やロシアから批判されたが、この低濃度汚染水だけの放射性物質量は原子炉等規制法にもとづく施設周辺海域の濃度限度の100倍にあたる。20116月からは「循環注水冷却システム」が稼働したが、これが突貫工事でつくったものであることは否めない。

 

人体への影響

確定的影響と確率的影響

放射線の人体への影響は「確定的影響」と「確率的影響」の2つがある。確定的影響とは被爆後比較的すぐに確定できる影響をいい、確率的影響とは低線量被ばくによりすぐには影響が分からないが長期間経って影響が表れることをいう。確定的影響はすぐに放射能が原因と確定できるが確率的影響の場合、癌などの病気として表れるため、はたしてそれが生活習慣からくる病気なのか、そうでないのか、の確定が非常にしにくいのでそれを証明するのは難しい。

 

確定的影響の例として1999年に起きたJOC事故がある。この事故では事故後すぐに2名の作業員が死亡した。また、福島原発事故でも東電の下請けの作業員の3人が3号機のタービン建屋内で高濃度のたまり水に足を入れてしまい、うち2人が病院に搬送された。

 

原発労働者の被曝

原発事故の直後の315日、被ばく量の基準値が改定された。それまで男子で5年間で100ミリシーベルトで年間の被ばく量が最大で50ミリシーベルト、女子で3ヶ月あたり5ミリシーベルト、とされ、緊急時においては年間100ミリシーベルトとされていた。が、年間250ミリシーベルトまで引き上げられた。これは「緊急時」とは別に、「特にやむを得ない場合の措置」としての「特例」として新たに設けられた。

 

915日、東電は、作業員のうち250ミリシーベルトを超えた人が6人いて最高670.36ミリシーベルト被ばくした人がいたことを明らかにした。また、100ミリシーベルトを超えた人は99人いた。

 

1976年以来、放射線被ばくが原因で白血病、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫を発症し、労災認定を受けた人は10人いる。この10人の最大被ばく量は129.8ミリシーベルト、最少は5.2ミリシーベルトだった。また、2008年の労働者の被曝量の平均は年間1.2ミリシーベルトだったが、福島原発事故処理で10ミリシーベルトを超える被ばくをした人はすでに3045人となっている。

 

著しい放射線被爆の現実的可能性があった

312日、保安院は「福島原子力発電所第1号機において耐圧ベントができない場合に想定される事象について」という文書を作成した。これによると、耐圧ベントに失敗した場合、約10時間後に数シーベルト以上の放射線が原発敷地境界に放出され、発電所から3~5㎞の範囲において「著しい公衆被ばくのおそれ」があるとしていた。

 

生活への影響

広範囲にわたる避難

政府が指示した避難区域は原発から3キロ圏内から30キロ圏内まで段階的に引き上げられまた、それ以外に1部地域が避難区域に加えられ、2011年末時点で20キロ圏内をベースに避難区域を設定するようにした。これはICRP(国際放射線防護委員会)の報告書の内容に則っているとは言えない。ICRPの報告書には、

「汚染地に居住し続ける場合、あらゆる防護策を講じることを前提に、居住地の1年間の被爆量の目安として1~20ミリシーベルトであることがあげられ、その下方部分から選ぶようにすること、また、できれば1ミリシーベルトであることが望ましい」

と書かれている。ギリギリの上限値20ミリシーベルトに設定したのはいいが段階的に下限値1ミリシーベルトに近づくようにしていかなければならない。だが、政府にその動きはない。

 

重視すべき子どもの安全

子どもは放射線に対する感受性が大人の最大3倍あると言われる。だから政府はそのことも加味して放射線規制をしなければならないがそうはならなかった。国の原子力災害対策本部は、2011419日に、「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方」を作成し、子どもの年間被ばく量を1~20ミリシーベルトに設定し、それをもとに学校などの利用基準とした。また、子どもの学校などでの被ばく限度量を毎時3.8マイクロシーベルトとした。

 

とんでもない設定だ。まず年間20ミリシーベルトという基準は前述したように、原発サイトで働く労働者の通常の基準と同じだ。子供になぜそんな基準を適要するのか?さらに国は1時間当たりの被爆量を3.8マイクロシーベルトまで許容するとした。とんでもない設定だ。3.8×24時間×365日=33290マイクロシーベルト÷100033.29ミリシーベルトとなる。つまり20ミリシーベルトをはるかに超えている。それに対し国は、「子供が屋内にいることが多い」などとよくわからないことを言った。

 

この後、国は年間被ばく量を1年間で1ミリシーベルト、毎時1マイクロシーベルトとした。これも意味が分からない。1×24時間×365日=8760マイクロシーベルト÷10008.76ミリシーベルトになる。1ミリシーベルトをはるかに超えている。しかも国はこれはあくまで目安であってこの基準を超えても規制を行わないとしている。

 

拡がる水と食品の汚染

水と食品に政府によって規制がかけられた。だが、この基準はあまい基準だ。飲料水の放射性ヨウ素の残留基準はWHO基準の300倍、食品中の放射性セシウムはチェルノブイリ原発事故後の食品輸入規制値370ベクレルを超えた500ベクレルに設定された。これに人体には大気中の放射線などの外部被ばくの放射線の影響が加わる。

 

また、7月には規制値以上に汚染された牛肉が出荷されていた「汚染牛問題」が起こり、国民の放射能に対する意識はさらに敏感になり、買い控えが起こった。

 

全面除染にむけて

国は「放射性物質汚染対処特措法」を20118月に成立させ、除染の基準を定めた。この問題点は3つある。

①国は「除染特別地域」と「除染実施地域」の2つを設け、前者が国が、後者を市町村に実施主体をおいている。特別地域の方を著しい汚染地域の除染、実施地域の方はそうでない汚染と区別している。が、その境目の基準は示していない。そもそもこのような放射能汚染は史上初めてのことであり、市町村に除染のノウハウはない。であれば国主体で専門家の英知のもとに除染を行うべきだ。

②除染実施地域の費用は法律によれば東京電力が支払うことになっているが、「原子力損害賠償紛争審査会」の中間指針はこれが対象外となっている。なぜ対象外となっているのか?原発事故は東電の責任になるわけだから対象外となるのはおかしい。

③除染された廃棄物の最終処分場が決まっていない。当初、環境省事務次官の南川秀樹が福島第一原発周辺を福島県に提案したが佐藤雄平知事は反対し、それ以降も決まっていない。

 

<次回:第2章「被害損害をどのようにすすめるべきか」>

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