2010年08月

2010年08月31日

自治体の事業仕分け

先月、愛知県常滑市の事業仕分けにアドバイザーとして参加した。

常滑市といえば、子どもの頃から「常滑ボート」のイメージだ。CMしか見たことなかったけれど。

また最近では、何といっても中部国際空港(セントレア空港)だ。
開港間もない頃、一度空港を見にクルマで出かけたことがあるが、けっこういいお店が入っていて、飛行機を眺めたり観光レジャーで訪れる人も多いだろうなという印象を持っていた。

ところが、市の説明によると、常滑ボートの売上げは10年ほど前から激減し、それ以来ずっと低迷したまま。
通常の税収と異なり、減収となっても交付税により補填される仕組みがないため、市財政を直撃する結果となった。

また、開港による経済効果を見込んで各種の開発事業に着手したのに、リーマンショックの影響により税収見込みにとても届かない状況に陥ってしまった。

つまり、常滑市の“二大要素”が皮肉にも県内最悪の財政難をもたらす結果になってしまったのである。


この4月から常滑市参事に着任した山田朝夫さんの分析によれば、こうした状況変化にもかかわらず、市・市議会・市民の意識は潤沢な財政の時代から変わってこなかったため、歳出の水準を抑制せず、借金を重ねてしまったことが、莫大な将来負担を招き、ついに来年度から予算を組むのが困難な事態に至ったそうである。

市職員出身で、当選1期目の片岡憲彦市長も危機意識を持ち、今回の事業仕分けを実施するに至ったのである。


さて、仕分けの常として、どの事業を選定するかがポイントになる。

今回の場合、「予算規模200億円の5万5千人の市が、毎年10億円規模の財源不足を生じる」という具体的かつ切迫した財政問題に直面している。
“あらゆる事業を切り詰める”という姿勢が何より重要ではあるが、さりとて100万円単位の事業をいくら見直しても到底足りないことは明らかだ。

おのずと、億円単位の事業である駅前再開発や道路整備、ハコモノの存廃を議論せざるを得ないのである。


しかしハコモノの扱いは本当に難しい。

たとえば1200席も備えた市民文化会館のコンサートホール

市の規模の身の丈に合っていないことは誰もが分かっている。
しかし、作る前にであればともかく、すでに稼働しているホールを使わずに存置したまま閉鎖するだけでは、現に開催されている(小規模であれ)コンサートや発表会を開催する場をどうするのかという問題が生じる。
さりとて壊してしまうには新し過ぎるし、撤去費用も相当かかる。

議論の末、結論は「廃止」とされた。
が、直ちに取り壊すのではなく、まず一旦閉鎖して運営費(年間約8000万円)を削減した上で、利用者には他市のホールへの送迎サービスを行うなどの代替措置をとりつつ、財政状況の見通しがつくまで再開は見合わせるというような意見が大勢であった。


また、市内に4ヶ所ある消防署・出張所

そもそも全国的な方向として消防本部を人口30万人規模への再編が進められる中、常滑市が単独で消防本部を持つこと自体が過大であり、現在近隣市町村との統合が議論されているそうである。

が、今回の議論は市内の署所の数である。
現に提供している消防救急サービスの水準をできるだけ下げずに、再配置をする方策を議論した。

結論は、「空港出張所の廃止」。
消防本部の説明を聞く限り、フライト中に機内で体調を崩した患者の救急搬送については、別の署からの出動で時間的には間に合うようだ。
また、火災については、滑走路での航空機事故等への対応は一義的に空港会社の責務とされ、同社には高度な消防力が整備されている。
空港ターミナル等における火災発生の未然防止という説明も、過去数年間で2件という火災出動件数をみる限り説得的とは言えない。
そして大災害発生時には、広域応援協定に基づく近隣消防の総動員が必要となるのであり、空港出張所の消防力の存在理由として十分とは言えないのではないか。
・・・仕分け人の受け止め方は、こんな風であったと思われる。


さて、今回の仕分けでは、何より市行革委の会長を務め、商工会議所副会頭でもある井口彰二さんのリーダーシップが大きかったと思う。
一市民として行政サービスの受益者であることを認め、それを前提としつつも、厳しい財政状況のもとでは身を削り、選択と集中をする必要があることを繰り返し述べられ、ご自身の企業経営者(えびせんメーカー)としての民間感覚も強調された。

名城大学の昇秀樹教授は、「自助・互助・公助の原則」に基づき、市民と行政の関係をグレードアップする必要性を繰り返し説かれた。
帰りの電車でもご一緒したが、かなり意見が一致したので、できれば公共領域における官民の責任のあり方について、引き続き議論させていただきたいと思っている。

一方、各事業の説明にあたられた市職員の皆さんも、仕分けで存廃を問われることを想定し、どうすれば施設を統廃合できるかのシミュレーションを行うなど、かなり踏み込んだ回答をされていたと思う。

同じ公務員として、立場が入れ替わった場合に、私ならどんな回答をしただろうかと想像しながら議論をさせていただいた。


もちろん国の事業仕分け同様、問題は今回の仕分け結果が、来年度当初予算にどれほど反映されるかである。
今度は市長さん、議員の皆さんの政治決断が問われる場面になる。

よく言われるように、事業仕分けは、民主的プロセスを経ていない仕分け人による議論であるし、事業仕分けの結果がすべてだとは言わない。

しかし、本来こうした議論をすべき場であるはずの、民主的正統性ある議会において踏み込んでこなかった議論が、事業仕分けにおいて交わされることが多いのが現状である。

常滑市に限らず、日本で長らく続いてきた財政拡大局面では経験することのなかった“選択”を迫られる時代である。
民主主義、地方自治の力が問われることになる。

国家財政も火の車である。

一足先に財政再建に乗り出した地方自治体の実績の積み重ねの上に、国家の財政再建が着実に成し遂げられるものと信じたい。

shigetoku2 at 08:03|PermalinkComments(2)TrackBack(0) 行政・地方自治 

2010年08月22日

公務員が地域に飛び出す意義(あらためて)

今月時点で700人規模となった地域に飛び出す公務員ネットワークについて、「非営利法人データベースシステム(NOPODAS)」に寄稿させていただいた。

このサイトは、(財)公益法人協会が運営している非営利法人に関する総合サイトである。

飛び出すネットが2年前の10月に発足して以来、公務員が地域に飛び出す意義については、いろいろな場面で感じてきたが、あらためて3点に整理をしてみた。

【以下、寄稿の概要。詳しくは上記NOPODASをご参照ください。】
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 公務員は、役所での仕事だけが公共への関わり方ではないはず。
 アフターファイブや休日には、仕事外の活動に参画し、地域おこしや社会貢献をどんどんやろうじゃないか!
 こんな想いを持つ全国の国・地方の公務員が、所属や役職を問わず参加しているのが『地域に飛び出す公務員ネットワーク』。

(1)“1億総当事者”の社会を目指し、公務員がその第一歩を踏み出す
 職業や肩書で自他をはっきり区別するステレオタイプの傾向が蔓延する社会。
 まず公務員が自分のミッションを再確認し、問題を“他人任せ”にせず、“当事者”意識を持つべき。
 ひいては“1億総当事者”の社会へ。

(2)“官民融合”でNPOがパワーアップ
 「公務員参加型NPO」では、公務員がタテ割りを超えた能力を発揮する。
 官と民が組織面でも人材面でも一体となる“官民融合”によって、NPOは、あらゆるセクターを超えた戦力へと成長する。

(3)地域主権に不可欠なNPOのエンパワメント
 地方分権は、中央政府から地方自治体への行政内部の権限移譲にとどまらず、住民やNPOが主役となる真の地域主権の実現が重要。
 公務員が、NPOと一体となって現場からのイノベーションを生むことに期待したい。

 ネットワークで横の連携を深め、公務員が地域に飛び出す有用性が住民から認められれば、多くの職場でも理解してもらえる。
 地域社会を元気にしていくための“公務員の大運動”を展開していきたい。
 公務員が変われば、日本が変わる、と信じて。
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shigetoku2 at 22:07|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 行政・地方自治 | NPO

2010年08月03日

起業とミッション

ある勉強会で、おむすび権兵衛社長の岩井健次さんのお話を聴く機会があった。

もともと住友商事の商社マンだった岩井さん。
アツい想いと、優しい笑顔が素敵な方である。

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商社でサウジアラビア駐在をしていた頃、日本人であることを強く意識し始めた。

そして、自分のミッションとは何かを考え始めるようになる。

特攻隊員だった父の影響も大きかった。
子どもの頃から「何のために生きているのか」と問われ続けてきた。

独立後、平成8年の食糧管理法改正により、コメの流通が自由化されたタイミングで、現在の事業を本格スタートさせた。


ビジネスモデルは“シンプル”がモットー。

加工場や物流センターは設けず、コメは有機栽培農家から直接仕入れる。
そして各店舗において、ご飯を炊き、おにぎりの具(鮭など)も調理し、おいしさにこだわっている。


コメは、kg当たり400円、60kg(1俵)当たり24000円で購入している。通常の相場の2倍前後である。

こういう条件で取引しているのは、環境保全型農業に取り組んだ農家が、儲からなければならないと考えているためだ。

従来の仕入れルートと比べ、中間マージンをとられない分、農家に利益を還元できる。

また、農家は毎日、自ら精米したコメを出荷するので、農家からすれば、秋の収穫期にまとめて農協に出荷するよりも手間暇はかかる。

しかし、獲れたコメを自分たちで精米し、条件の良い取引先に出荷できるようになれば、農家の自立につながる。


目標は、コメ3000トン、600ヘクタールの契約。
この規模になれば、日本の農業界に相当なインパクトが出ると思う。

権兵衛の従業員400人は、必ず田植え・稲刈りに出かけることが雇用継続条件になっている。
農薬に弱いクロメダカをあえて田んぼに放流し、社員が環境保全型農業を実感しやすくする工夫をしたりしている。

近くNYにも出店する予定である。

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力強い社会的使命に基づいた経営理念であり、本当に感動しながら聴いていた。


勉強会の議論では、こうしたミッションを持てるかどうかについて、「サラリーマンと経営者の違い」を指摘する方もいた。

しかし、岩井さんがご自身のミッションを感じたのは、サラリーマン時代だ。

組織人であろうと、起業家であろうと、ミッションへのこだわりを持つ人は持つし、そうでない人はそうでない、ということではないだろうか。

サラリーマンが自分を殺してトップや組織の意向にのみ忠実になってしまうとすれば、そんな仕事には何の魅力もないし、もっと言えばその人の生きる意味すら減殺されると思う。

組織人である以上、組織のミッションを忘れてはならないのは最低限の必要条件だが、それを超えた自分のミッションが明確でなければ、「誰がやってもできる」仕事で終わってしまうだろう。

つまり、サラリーマンが誰しも自分のミッションを持つことにより、組織は活性化し、より魅力的なものになると思うのである。

もちろん、組織にいるだけではミッションの実現が難しい場合には、独立・起業が有力な選択肢になるだろうけれども、その場合でも、サラリーマンでは何もできず、起業すれば何でもできるというオール・オア・ナッシングではないと思う。

現に社会人の7割がサラリーマンなのだから、こうした人材が社会的使命や日本の将来に関わるようなミッションを持つようになれば、日本は大きく変わるだろう。

今回は岩井さんと直接このようなお話をすることはできなかったが、次回機会があれば、こんなお話ができたらいいなと思う。


ちなみに、この勉強会は、SOLA(Spend Our Lifetimes for Agriculture)「農業に一生を賭ける学生委員会」という若手の農業実践グループが主催したものである。

何より「一生を賭ける」という心意気がいい。

最近は、流行りのように農業、農業といわれ、都市住民が菜園栽培をしたり、年に1、2度の農業体験をする機会も増えてきているが、やはり真剣に生涯をかけて農業に取り組む人材が最も貴重である。


この勉強会では、ほかにも我が国の物流の問題点に関する飯田昌司さん(元NTTデータコンサルティング)の話も興味深かった。

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食品産業のコストに占める物流コストは、35%に及ぶケースもある。

農家から集荷場、JA経済連、市場、物流センター、店舗へと、トラックで6回にわたり転々と輸送される。

その間の温度管理も一貫しないため、鮮度が勝負の生鮮食料品が相当劣化する。

日本には、市場を縛る「商物一致の原則」というルールがあり、米国の農家が物流センターに直接出荷できるのと比べて大きな差が生じている。

近年、イオンやユニーのような大手量販店が取り組んでいるのは、ミルクラン(自社による現地自主調達)、プライベートブランド開発、運送車両の帰り便の有効活用の3つ。

流通過程における温度管理を的確に行う「コールドチェーン」の確立に取り組んでいる企業もある。

世界的にみると、DELL・アマゾン・IKEA・ウォルマートなどは、物流システム改革を通じて消費者の満足度を高め、成功した企業である。

こうした物流の課題に対して、今後、小規模事業者がどう取り組んでいくべきかが課題である。

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うーん、小規模事業者が取り組むにはあまりに大きな課題だが、それこそおむすび権兵衛のようなビジネスモデルに追随する事業者が続々と登場することが期待される。
そして、社会全体のソリューションには、政治・行政のアプローチも不可欠であろう。

日本には、解決しなければならない問題が山のようにある。

官民問わず、一人々々がそれぞれミッションを持ち、より良い社会づくりに関わることが求められている。

その意味では、前例にとらわれずに挑戦すべき新しい仕事、実にやりがいのある仕事が、そこらじゅうに転がっている時代とも言えそうだ。



shigetoku2 at 08:01|PermalinkComments(2)TrackBack(0)