【しきち】インド人の同僚らは、休暇を取る時にほとんど「根回し」をしない。根回しとは、例えば取引先に電話して「来週は休みます、例の件はXXに申し送りしておきました、ご迷惑をおかけします」と告知したり、社内レポートの提出期限を延ばすように交渉しておいたり、詳細な引継ぎメールを各チームメイトに送ったりということだ。
しきちは自分にお鉢が回ってきたりすると「迷惑だなあ」と不機嫌になったり、別の同僚が明らかな迷惑をこうむっていると休み明けの本人に「XYちゃんがあれやって、これやって、いろいろカバーしてくれてたよ」と告げ口したりする。しかし、本人もXYちゃんも意に介さず、どこ吹く風。
どうやらインド人は「迷惑をかける」ことについて、さほど危機感や罪悪感を持っていないようだ。休暇なんだから仕方ない、とフォローする。しきちは「休暇は権利なんだからいいじゃないか」と逆に諭されたことすらある。体調が悪ければどんなに重要な仕事が控えていても休むし、チームメイトは取引先に「すみませんXXは病欠です」と言って憚らず、取引先も「仕方ないなあ、じゃ明日でいいや」と待ってくれたりする。
日本では老人世帯が多く「子どもや孫に迷惑をかけたくない」と同居を望まない人が少なくない、と話すと「信じられない」という反応が返ってくる。年金などの社会福祉制度が充実しているから老人独居でもなんとかなるのだ、と半ばむきになって説明するのだが、根本的に「自分の老後は子どもに任せる」という考え方が主流だから話は平行線になる。
オートリクシャに乗っていて前方に車線が減少する箇所がある。合流地点を過ぎるまではノロノロ運転になるのだが、早めに車線変更をせずにギリギリまで直進し、合流地点で入れてもらうドライバーが大半だ。しきちが本線走行車だったら車間距離を縮めて意地でも入らせないようにするところだが、アッサリと入れてもらえている。「ここまで来てしまっているのだから仕方ない」といったところだろうか。
アッサリしていて根に持たない人々。その根本には「誰かに迷惑をかけるのは当たり前だから、他者にも寛容になる」というセオリーがあるようだ。しきちも知り合いや道行く人に親切にされたことは数え切れず、そのたびに我が身を振り返って反省する。「人に迷惑をかけてはいけない」という呪縛から逃れて寛大になりたいと思うのだが、まだまだ修行が足りない。
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写真はバンガロール市内、カマナハリの路上にて。歩道を半分以上ブロックしてクリスマス飾りを売っていた。