島田洋一ブログ2 (Shimada Yoichi blog 2)

先制攻撃のできる平和国家日本へ Peace through Strength

2018.1.18

【正論】米保守派に高まるトランプ評価

福井県立大学教授・島田洋一

 数々の「騒動」に目を奪われがちだが、トランプ大統領の評価は米保守派の間で上がっている。

 

≪司法の「左傾化」を防いだ≫

 まず「司法改革」の進展だ。米大統領には連邦裁判官(最高裁のみならず控訴裁、地裁を含む)に空席が生じた際、後任を指名する権限がある。任期は終身だけに人事の影響は数十年に及ぶ。

 また連邦検察官を自由に解任し、後任を指名する権限もある。裁判官、検察官いずれも上院の承認を要するが、与党・共和党が多数を占めているため、トランプ政権発足からの1年で、最高裁判事1人、控訴裁判事12人(就任1年目としての米史上最高記録)など順調に人事が進んだ。すべて保守派が高く評価する人選であった。

 大手シンクタンクのヘリテージ財団やオリジナリズム(原意主義=司法の越権行為を強く戒める)に立つ法曹組織フェデラリスト・ソサエティーが候補選定に深く関わったとされる。トランプ氏個人は、とりわけ「企業活動への理解」を重要基準としたようだ。

 今年11月の中間選挙後も共和党が多数を維持すれば、少なくとも今後数年は同じ傾向が続くことになる。司法の「脱左傾化」が進み、企業にとっては、左からの訴訟リスクの低減が期待できよう。

 ところで最高裁人事が大統領の評価に直結するアメリカに比べ、日本の場合、事はきわめて不透明に進められている。例えば安倍晋三内閣でも、20138月、新安保法制に抵抗した山本庸幸内閣法制局長官(旧通産省出身)が交代し、直後に最高裁判事に任命された。厳しい安保環境を認識できず、法制局長官として「疑問視」された人物を、最高裁に“栄転”させたわけである。

 山本氏は就任会見で、集団的自衛権行使には「改めて憲法改正しかない」と発言し、菅義偉官房長官が「極めて違和感を覚える」と批判する事態となった。「違和感を覚える」のは人事の方である。

 あらゆる法令の違憲、合憲を「決定する権限を有する終審裁判所」、すなわち法治国家の要である最高裁に真にふさわしい人物を集めるには、やはり憲法改正が必要だろう。内閣の指名で事実上、人事が完結する現行の規定を「国会の同意を経て」と改め、承認公聴会などで透明性を高めない限り、なれ合い人事は後を絶たないと思われる。

 

≪国益にかなった政策の判断≫

 トランプ政権に話を戻せば、レーガン流の減税・規制緩和でも成果を出してきた。昨年末の大型減税成立の際には、共和党を代表して挨拶した最長老のハッチ上院議員が「すごいリーダー(one heck of a leader)」と傍らのトランプ大統領をたたえ、党の結束ぶりをアピールした。

 地球温暖化対策の新枠組み「パリ協定」からの離脱も、米保守派の大半が支持している。プルイット環境保護局長官によれば、米国内のCO2排出量は2000年比で20%近く減少した(15年段階)。これが「民間部門におけるイノベーションの結果生じた」事実が重要である。さらなる技術開発とその輸出こそがアメリカのなすべき貢献であり、市場を歪(ゆが)め、米企業の競争力を弱めてまで国内規制を強化することではない。

 論点はもう一つある。主に先進国が拠出する「緑の気候基金」は、途上国に機械的に分配され、独裁体制への支援ともなりかねない(例えば北朝鮮も「パリ協定」に調印している)。あらゆる対外援助は米国の国益に照らして、米国の判断で行われねばならず、基金への拠出は正当化されない。

 この点はユネスコ(国連教育科学文化機関)脱退にも関係する。米政府は脱退理由に、ユネスコの紛争助長行為(典型はユダヤ、イスラム両教の史跡があるヘブロン旧市街を、昨年7月、パレスチナの世界遺産に認定したこと)とともに、官僚的非効率を挙げた。

 

≪北には最大限の圧力行使を≫

 例えば途上国における教育支援は意義ある事業だが、より効率的で献身的に取り組んできた民間団体が多く存在する。米国の資金の受け手としてユネスコを特別扱いする理由はなく、他の団体との公正な競争の下に置かねばならないというのが米保守派の論理だ。

 なお米国はレーガン時代にも一度、ユネスコから脱退しているが、復帰の可能性(巨額資金の再拠出)を武器に、重要会議へのオブザーバー出席を認めさせ、理事会で投票までしている。同じく多額を拠出する日本にとっても参考になる話だろう。

 トランプ政権の対中国政策はまだ形が見えてこない。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)脱退については、保守派でも意見が分かれており、自由主義国主導の域内ルールに中国を従わせる貴重な機会を逸したという批判も強い。

 北朝鮮に関しては、北の“微笑工作”に韓国が進んで取り込まれ、各国に「柔軟な対応」すなわち圧力緩和を求めてくる可能性が高まった。「最大限の圧力をかけ続ける」方針で米国が揺るがぬよう、日本が一層、主導性を見せる必要があろう。(福井県立大学教授・島田洋一 しまだよういち)

 

【ろんだん】「中東和平壊したトランプ」は〝過大評価〟

島田洋一(福井県立大学教授)

20171214日掲載

トランプ米大統領が6日、イスラエルの首都をエルサレムと認定し、米大使館を同地に新設移転すると宣言した。日本のメディアや外務省系の評論家等はおおむね、「またトランプが馬鹿なことをした」という調子で報じ、論じていた。反トランプに傾く米主流メディアの論調に沿ったものと言えよう。

例えば外務省OBの宮家邦彦氏は、「まさか本当に実行するとは思わなかったので、文字通り言葉を失った。……この決定は米国外交上の大失敗であるだけでなく、中東地域の混乱と米国という国家のクレディビリティ(信用)失墜に拍車をかけるだろう。……現在米国内で進行しつつある『ロシア・ゲート』関連捜査との関係もあるのだろう」としている(ジャパン・イン・デプス、1213 http://japan-indepth.jp/?p=37339 )。

 宮家氏は、現在メディアが最も重用する外交評論家であるが、上記の論点の全てに疑問符を付けざるを得ない。

 

・十分予想された「首都認定」

 まずトランプ氏の今回の声明は事前に十分予想されていた。意外な面があったとすれば、予想以上に慎重な言い回しが用いられていた点であろう。

共和党主流派に近い米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、「この決定は、批判者が言うような過激な政策変更とはみなしがたい」「トランプ氏は、自らの決定を『現実の承認』と呼んだが、その通りである」とした上、トランプ大統領がエルサレムの地理的範囲や将来の帰属については立場を取らず、イスラエル・パレスチナの「2国家共存」も当事者間の合意ができれば支持するとした点に注意を喚起している。

そして、「アラブの指導者たちは大使館移転を非難した。しかしその怒りが長く続くかは疑問である。スンニ派アラブ(筆者注:盟主はサウジアラビア)は、イスラム・テロやイラン帝国主義の脅威に直面しており、パレスチナ問題への関心は3次的である」としている。実際、今日現在、大きな衝突は起きていない。

アラブ事情に詳しい野村明史氏は本欄に寄せた一文で、中東諸国の首脳らの姿勢に「自国の安定を揺るがす厄介事は避けたいという彼らの本音」を読み取り、「近年、パレスチナの問題は棚上げされ、近隣諸国はどこも積極的な関与を控えてきた。……過激派組織『イスラーム国』(IS)やシリア内紛、サウジやエジプトなどによるカタール断交など、中東諸国が直面している大きな現実的課題もパレスチナ問題への関心を低下させている」と述べている。妥当な判断だろう。

 ボルトン元米国連大使は、アメリカ政府は「罪のない一般市民に対する露骨な暴力行使の脅しに、余りに長い間屈してきた。脅迫が効くという印象を与えてきた。トランプはそれを払拭した」と大統領の決断を高く評価している。その意味では、アメリカの「クレディビリティ」は増したと言える。

 

・メディアが欠く大きな視点

中東のパワー・ポリティクスにおける最大の不安定要因は、いずれも地域大国かつ大産油国であるサウジとイランの対立である。そして、ヒズボラ、ハマスなど反イスラエル・テロ勢力を支援しているイランにおいて、レジーム・チェンジが起こらない限り、パレスチナ問題の抜本的解決もないだろう。

「アメリカは仲介者としての資格を失った」「中東和平を壊したトランプ」といった論難は、良くも悪くもアメリカの影響力に対する過大評価である。

米大統領が「仲介」し、話し合いでパレスチナ問題を解決するといった条件は現在整っていない。カーター大統領の仲介によってイスラエル・エジプト間にキャンプデービッド合意が成立したのは、エジプトにサダトという強力かつバランス感覚に優れた指導者が現れたが故であった。

アメリカの大使館移転といった小さな「事件」ではなく、大きな視点で中東問題を捉えねばならない。なお、トランプ政権の動きに関し、何でも「ロシア・ゲート隠し」につなげる論調は、何でも「モリカケ隠し」につなげる朝日新聞その他の日本における論調に似ている。メディアや評論家の劣化を示すものと言えよう。

 

防衛省防衛研究所

(解説)抑止について

 一般に、抑止とは、「相手が攻撃してきた場合、軍事的な対応を行って損害を与える姿勢を示すことで攻撃そのものを思いとどまらせる」軍事力の役割とされる。抑止が機能するためには、抑止する側に、軍事的対応を実行する意図と能力があり、かつ、それが相手に正しく認識されることが必要であるとされる。こうした意図と能力に信頼性を持たせるためには、想定される攻撃などのレベルに応じた、さまざまな能力を整備しなければならないと考えられている。

 こうした抑止概念は、懲罰的抑止と拒否的抑止に分類されることが多い。懲罰的抑止とは、耐えがたい打撃を加える威嚇に基づき、敵のコスト計算に働きかけて攻撃を断念させるものであり、拒否的抑止とは、特定の攻撃的行動を物理的に阻止する能力に基づき、敵の目標達成可能性に関する計算に働きかけて攻撃を断念させるものである。また、手段に着目して、核兵器による核抑止、通常兵器による通常抑止とも分類される。

 米国は、核および非核の打撃力や防衛能力を含め、あらゆる種類の軍事力により抑止を総合的に実現する能力を保有している。2010(平成22)年発表された「核態勢見直し」(NPRNuclear PostureReview)においても、核兵器のみならず、通常戦力やミサイル防衛を包含した抑止概念を提示しており、これらの能力を自身に対する攻撃の抑止(基本抑止)だけでなく、日本などの同盟国に対する攻撃の抑止(拡大抑止)の中核として位置づけている。

 

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