2010年04月15日

4月9日に朝日新聞のオピニオン欄に掲載された、アグネス・チャンによる規制賛成論を読みました。
 そして、アグネス・チャンのような考え方が、いかに子供の人権をないがしろにしているかということを再認識しました。
 条例案が「18歳未満の子供に、エロマンガが渡らないようにしようとしているだけ」というデマや、子供が性的虐待を受けているマンガが「コンビニに置かれている」というデマ。そして、世界から日本がロリコン大国視されているという印象操作については、多くのサイトが言及しているのでそちらにお任せするとして、私は以下の部分に注目したいと思います。

「子どもの性虐待を描いたポルノを、子どもが見てしまうことで起こる問題は、大きく二つあります。ひとつは、子どもが性的に搾取されている場面を露骨に描いた表現は、子どもという存在全体を貶めることになる。これは広い意味での人権侵害です。もうひとつは、それを見た子どもが、虐待や暴力を受け入れなくてはいけない、喜ばなくてはいけないと思いこむ、誤ったしつけ効果を招く恐れがある点です。」

 まず、前者の点についてですが、これはアグネスが冒頭で言っている「マンガやアニメなどの姿を借りたポルノ」を「18歳未満の子どもたちの手に渡らないようにしようとしているだけです。」という主張に反しています。「見てしまうことで起こる問題」といいつつ、実質的には「表現そのものが子どもという存在を貶めている」としている。これは都条例の本質が「児童ポルノの根絶に向けた気運の醸成」という文言に表れているのと同じ意味です。
 そして、本題は後者なのですが、アグネスは子供がセックスを喜ばなくてはならないと思い込むことを問題にしています。
 確かに、子供が不本意なセックスを受け入れざるを得ない状況は批判されなければなりません。しかし、それと同じように、子供が本意のセックスを受け入れて、喜ぶ状況は認められなければならないのです。

 性的同意年齢という言葉があります。これは性交の同意能力があると見なされる年齢のことです。日本においては刑法177条でこの年齢が規定されています。

(強姦)
第177条 暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。

 つまり、13歳以上の女子であれば、性交の同意能力があると刑法的には見なされているわけです。(もちろん、各種条例等で、行政レベルでは(特に成人男性と)18歳未満とのセックスは、たとえ当事者間の合意があったとしても、条例違反と見なされるケースが多いわけですが。)
 13歳以上の女子が、好きな男性とのセックスを受け入れて幸せを感じる。それは人間の本質としての喜びであり、そのことに対して女子は決して否定的な感情を持つべきではないし、私たちはそれを否定するべきではありません。それを否定することは、13歳以上の女子が持つ、性的主体としての権利を抑圧してしまっているのです。
 本当に子供たちの人権を守りたいと考えるのであれば、「セックスをすれば傷つく」といった一方的なメッセージを投げ掛けるのではなく、まずは十分な性教育を義務教育の中に盛り込んでいくことを目指すべきです。

 また、もう一つ重要なことは、子供たちに「まっとうな権利意識」を教えることです。セックスの問題でいうなら、例え恋人であっても嫌なセックスは拒んでもいいと教えることです。こうしたことにより子供が性的被害に遭うことはもちろん、「デートレイプ」や「配偶者からのレイプ」といった被害を抑え、「性的描写の描かれたマンガやアニメを拒否する」権利を教えることができるでしょう。
 しかし、そうした権利意識を育むことは、子供自身が「望むセックスを受け入れる権利」や「性的描写のあるマンガやアニメを見る権利」を育むこととまったく同じことなのです。このどちらか片方を否定して、どちらか片方を受け入れるということはできません。

 私には、どうしてもアグネスが、子供たちの権利をないがしろにしているようにしか思えません。もちろん、アグネスだけではなく、規制賛成派の多くは、子供自身の権利よりも、親や権力者の権利ばかりに配慮しているように思えます。
 アグネスは記事中で「少なくとも、兄妹がひたすらセックスしたり、性的な虐待を受けたりしているマンガを、教育上いい効果が期待できるから進んで子どもに見せたいと思う親はいないと思います。」と述べていますが、それを読むか読まないかを最終的に判断する権利は子供にあるのです。アグネスがこの問題を「子供の権利」としてではなく、「親の教育権」の一環としてしか考えてないから、こういう言葉が出てくるのでしょう。
 このように、親の権利をもって、子供の権利を抑圧することは、「親が望まないから、性描写のあるマンガやアニメを見てはならない」という誤った意識を植え付ける可能性があります。それは同時に「親からの望まない性的虐待に反発できない」と、自らの権利を卑小化してしまう子供を生み出しかねません。子供の性的被害も、その多くは親や身近な大人によるものであり、親の権利を拡大し、子供の権利を抑圧することは非常に危険です。

 確かに「子供への性教育」や「子供の権利意識」に向けた教育というのは、いわゆる保守層から非常に評判が悪く、数々の妨害があることは理解できます。しかし、だからといってその矛先をマンガやアニメに向け、安直な性描写の批判に熱を上げるようでは、子供の人権を守ることはできません。むしろ現実の子供の問題から目をそらし、問題意識すら「仮想」に成り果ててしまうのではないでしょうか。



(14:55)

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2. アグネスは子供の権利をないがしろしている  [ Silver_PON_Museum ]   2010年06月12日 20:35
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