2007年01月05日

マリア・アナ・ボボンのすすめ

私撰集にも載せている通り、私はクラシックの他といえばポルトガル語圏の音楽を少し聴くのです。とは言っても、モザンビークとか東チモールではなくて、無難にポルトガルとブラジルだけなんですけれども。

でそのなかでも、去年出会った音楽の中で一番の『発見』に、ポルトガルの女性歌手、マリア・アナ・ボボンという人がいます。彼女は、1974年生まれの若いファド歌い。だから、アマリア・ロドリゲスのようなコテコテのファドではなくて、ちょっぴりジャジーだったり、新しい時代の、より自由な感性を散りばめた歌を聞かせます。マドレデウスをご存知の方は、だいたいその路線だといえば、まあ見当はつけてもらえるでしょう。

私はマドレデウスのヴォーカルのテレーザ・サルゲイロの透き通った声がとても好きなのだけれど、マリア・アナ・ボボンも同じ系統の声を持っているように思います。すっくと伸びが良くて、それでいて高音に独特のメランコリックなくぐもった表情がかぶる所が、ツボ。いわゆるクラシックのオペラの歌唱法とは違うけれど、でも確固としたスタイルを持った歌唱。たぶん、ポルトガルならではの声なんじゃないかなあ。



ソロ・アルバムは、1998年の"Senhora da Lapa"(↑)と、去年秋に出たばかりの"Nome de Mar"と、2枚出しています。

最初に聞いたのは、"Senhora da Lapa"。ウェブサイトで試聴して、一目惚れならぬ、一聞惚れしました。ジャズっぽいコードを弾くピアノを従えて、リスボンのどこかの教会だという会場の豊かな残響のお陰もあってか、天まで届くかのように飛んでゆくマリア・アナの伸びの良い声に聞き入ってしまいます。いわゆるファドは、1曲しか入っていないらしいけれど、どれも一抹のサウダージを湛えた、素直なメロディで、彼女のまだ若いナイーヴな声が、ほんとうに良く映えます。2ヴァージョン収録されたタイトル曲、1曲目の"Meu Amor me deu um Lenco"、6曲目の"Espelho Quebrado"などが特に気に入りました。

maria ana bobone/nome de mar一方、新作の"Nome de Mar"は、前作で養ったセンスを活かしながらも、伝統的なファドの世界に果敢に挑戦したアルバムと言えそうです。伴奏もポルトガル・ギター、ギター、ベースというファドに典型的(らしい)なかたちで、あのシャリシャリとした独特のガットギターの音色が、リスボンのアルファマの薄暗い酒場の雰囲気を否応なく思い起こさせます。ってのはレトリックが過ぎますかね。ファド酒場なんて行ったことないしね。でもこれを聞いて、行ってみたくなりますよ。

そしてなにより、8年の月日を経て、マリア・アナの声が本格的に熟して、より魅力的になっているのに驚きました。前作で聞かせたピュアさはそのままに、前作にはなかった女性的な魅力、セクシーさが備わっています。声に深みが出ただけでなく、低音域にも幅の広がりを聞かせてくれます。

アルバムのタイトルにもなった1曲目の"Meu nome e' nome de mar"(my name is name of the seaか?)は、本格的なファドの雰囲気。フェルナンド・ペソアの詩に歌をつけた11,12曲目は、ドビュッシーかサティかと思うような、アンニュイな和声のギター伴奏に載せて歌う、かなりモダンな曲で面白いです。逆に7曲目の民謡"Natal d'Elvas(エルヴァスのクリスマス?)"、ボーナストラックの"アヴェマリア"は、素朴。9曲目の"Senhora do monte(山の聖母?)"は、まったくファドではなく、ゆったりとしたメロディも、ジャズピアノの伴奏というかたちも、前作アルバムの雰囲気を思い出させます。私はこれが一番好きかなあ。

で、"Meu nome e' nome de mar"は、YouTube上でフルコーラス公開されてます。どうやらブートレグではなく、販売元?かなにかが正式に公開しているみたいだ。なるほどこういうYouTubeの使い方もあるんですねえ。ご覧あれ。彼女、なんとなくペネロペ・クルス似の、美人です。



しかしその新作アルバムはamazon.comですら扱っていなく、↑でリンクしたポルトガルのオンラインサイトCDGO.COMで購入しました。注文から10日もしないで着いたけど、アメリカまでの送料込みで約25ユーロ、今の為替ルートだと3800円くらいしちゃいますね。ちなみに、"Senhora da Lapa"を制作しているのはMA Recordingsという、アメリカにあるけどもともと日本発のレーベルみたいで、CDの背に日本語でタイトルが入っています。それにしてもいいセンスしてるなあ。今ウェブサイト見たら、なんと1枚12ドルで売ってます。

acoustica!というブログさんがNome de Marについて日本語で書かれているので、TBさせていただきました。  

Posted by shimomeguro at 22:30Comments(0)TrackBack(0)clip!