この本は、「もんじゅ事故」で不審な自殺をした西山成生(しげお)さんが残した内部資料に基づいて出版された。今西憲之+週刊朝日取材班の著・朝日新聞出版・2013年である。私はこの本を、先日の「ビキニデー」の会場の奥で、西山成生さんの妻、西山トシ子さんが販売しておられたので購入した。1700円の、かなり分厚い本だった。西山トシ子さんは、夫の死の真相を知るために、遺品の返還を求めるという形で裁判を起こしている。引き受けてくれた弁護士が日隅一雄氏だった。日隅氏は亡くなったが、裁判は今も続いている。
 「もんじゅ事故」は1995年12月に起きた。冷却材のナトリウムが漏れて火災を起こしたのだ。この状況を撮影したビデオテープがあったのだが、その存在が隠され、発見されてからも不自然に編集されていた。この問題の調査を担当した西山氏が、翌月に遺体で発見されたのだが、遺書が残されていたために正式な検視もなく「自殺」として処理されてしまった。夫の死に不審を感じながらも、トシ子さんには訴える方法もなかった。
 しかし「もんじゅ事故」を序曲として日本の原子力政策は破綻して行き、福島の原発事故にまでつながって行った。この流れの中で、西村氏が自宅に保存していた膨大な量の内部資料に光が当てられる機会がきた。取材班が読み解くつれて明らかになってきたのは、原子力ムラの驚くべき隠蔽体質であり、その裏で進んでいた業界全体の深刻な破綻の実情だった。見通しの全く立たない事業であっても、人間と予算がある限りは推進しなければならないのだった。「もんじゅ」の廃炉が決まるまでには、その後20年もかかったのだ。
 これは内部資料だから、原子力政策を推進するための、あらゆる手法が詳細に指南されている。原発立地のための利益誘導の方法はもちろん、地元説明会の開き方、説得の方法などまで微に入り細を穿つまでに説明されている。地方選挙で原発推進派を当選させる方法でも、プロの技術が駆使される。有権者の一人一人についてABのランクをつけ、ターゲットにする人物が婿入りなら、先に母親を買収するといった手法まで教えている。
 「原子力ムラ」の恐るべき陰謀の全体像がわかってくると、都合の悪い情報を外部に漏らしそうな人物を一人消し去るぐらいは、当り前のことのように思えてくる。西山トシ子さんは、夫の「遺書」もねつ造だと思っている。子供たちに宛てた遺書に、相手の名前さえ書かないなどは、ありえないと思うのだ。6メートルの高さから落ちたというのに、大きな傷もない遺体だった。
 この取材の成果は2013年の3月から4月にかけて「週刊朝日」の6回シリーズとして連載されたとのことで、この本は同年8月にその補完として発行された。当時それなりの話題にはなったのだろうが、私は何も知らずにいた。だからこそ西山トシ子さんは、少しでも関心を持ってもらえそうな機会があれば、この本を並べて販売に行くようにしていたのだろう。私はそのトシ子さんと出会い、少し言葉を交わしたので、この本を読むことができた。
 原子力ムラという「巨悪」は、今も生き残っている。しかしその巨悪に挑む執念を失わない人も生き残っている。どちらが後まで生き残るかで、日本の未来が決まって行くだろう。