私は中東問題の専門家ではありません。アラブの国へもイスラエルへも、行ったことはありません。しかし現代の一通りは常識のある人間として、関連する本を読み、ニュースを見聞きしながら、これはおかしいと思うことはあります。この15日の朝日新聞夕刊に、パレスチナ自治政府のハニヤ首相が、イスラム諸国で集めた資金を持ってガザへ戻ろうとしたところ、検問所で阻止されたという記事が出ていました。今年3月に発足したハマス内閣が主導するパレスチナ自治政府は、欧米やイスラエルの経済制裁により、極端な資金不足に陥っていると報道されており、私も6月17日に記事にしました。その窮状を救う緊急対策として首相自らが工面した現金の持ち帰りを、イスラエルが命令を出して阻止したというのです。理由は資金がテロに流れるというのですが、イスラエルは自治政府とテロを同一視しているのです。
 穏健派と呼ばれるファタハのアッバス議長は、イスラエルとの共存を前提とした内閣の改造または選挙のやり直しを模索していますが、議会で多数を占めているハマスは、なかなか妥協に応じません。今回の事件が口火となって、バレスチナの内部が内戦のような混乱に陥る危険性も指摘されています。
 今さらイスラエルの存在を認めないと言っても無理な主張だということは、おそらくパレスチナ人の多くも知っているでしょう。問題は、それを外から強制しても根づかないということです。ハマスが本当にテロと無縁の組織になるのは、支持者たちが「イスラエルの存在も認めてやって、生活が成り立つようにしよう。もうテロはやめてくれ」と言いだす時です。そのためには時間が必要です。それも、曲がりなりにも生活が成り立って、遠くにではあっても前途に希望があると思える時間です。日々に生活が破壊され、家族が殺されて行く中では、少しでも救いの手をさしのべてくれて、復讐の代行までしてくれるハマスが人気を集めるのは、当然のことでしょう。
 自治政府に圧力をかけて、イスラエルとの共存路線を無理強いしてみても、民衆が政府を信用しなくなって反政府勢力に走ったら何にもなりません。人道支援や自立を助けるような経済支援を注ぎながら、民衆の意識が変るのを根気よく待つ方が、遠回りのようでも確実な道のように思えます。イラクでもアフガニスタンでも、問題の根本は似ているような気がするのですが。