ルーシー詩篇(訳詩)
  ウイリアム・ワーズワース原作

(ルーシー詩篇)その一

世にもふしぎな胸騒ぎを
私は経験したことがある
恋をしたことのある人のために
私はそれを語ってあげよう

私の愛する人が 来る日も来る日も
咲きたてのバラのように美しく見えた頃
ある晩私は夕月の下を
彼女の家へと急いでいた

広い野原を行く間中
私は月を見つめていた
足を早めて私の馬は
通いなれた道を進んだ

やっと果樹園の下まで来て
丘を登りにかかったとき
沈みかけた月はルーシーの屋根に
ずんずん ずんずん近づいて行った

若者だけに許される甘い夢が
私をやさしく浸していた
その間にも私の眼は
沈んで行く月に釘付けになっていた

馬は足並み正しくひづめを運び
止まろうとする気配もなかった
そのとき突然 屋根のかげに
輝く月は落ちて消えた

「どうしようルーシーが死んだら」
私は心に叫んだ
何という気まぐれな思いが
恋の喜びを横切ることだろう