雨宮処凛の「右翼と左翼はどうちがう?」(河出書房新社)を読みました。「14歳の世渡り術」シリーズの中ですから、中学3年生に、大人の社会のことを教えてあげる趣旨で書かれています。しかし、とても面白く読めました。著者はかつて右翼団体に入って活動していた時期があり、その一方で左翼の人たちとの交流も多く、今は両方を経験した立場で書けるということです。
 右翼と左翼は、正反対の立場で対立している関係かというと、決してそんなことはない、と著者は言います。共通点はいっぱいある、むしろ今の世の中をなんとかしたいと考える上では、憂国の同志なのかもしれません。少なくとも、何も考えず、何もしないでいる人たちよりも、ずっと真剣に未来を考えていることは事実です。「へんなことをする人たち」と切り捨てて、自分には関係ないと思っていたら、もったいないかもしれないのです。
 何不自由ないと思っていた現代の中学生から見ると、今の世の中が、管理され閉鎖された非常に息苦しいものになっていることは、これを読んで少しわかりました。そこから逃れるために、信じられるものを見つけたいという気持は常にある。そんなとき、左翼の進歩的と言われる人たちの集まりへ行ってみたら、話されていることが、まるっきり理解できなかったということです。その点では右翼はわかりやすかった、「お前らが生きづらいのは、アメリカと、そして戦後日本のモノとカネだけの価値観しかないことが悪いからだ!」というのに同感して、著者はその団体に入りました。
 右翼にもいろいろあって、ヤクザに近いのもあるが、これは真面目に勉強する右翼だったそうです。一度立場が決まってしまえば、自信をもって世界と向き合えるのでした。しかしやがて、世の中がそれほど単純ではなく、右翼の理屈では解決しそうもない問題もいろいろあることに著者は気づきます。そして自由な立場に立って、貧困(プレカリアート)の問題に取り組むようになりました。
 この本の大半は、著者の遍歴をそのままに綴った右翼思想と左翼思想、そしてそれぞれの思想が実際に行ってきたことの解説です。非常にわかりやすく、要点を押さえた読み物になっています。さらに右翼と左翼の実例として、3名ずつの人物も紹介しています。そこから浮かんでくるのは、右と左の2分法では、決して分類できない「ものの考え方の多様性」ということです。しかし、底にある共通点は一つ、「世の中を何とかしたい」ということです。
 中学生に限らず、大人、とくに私のような老人の男に、おすすめの本だと思いました。