むのたけじの新刊「戦争絶滅へ、人間復活へ」(岩波新書)を読みました。93歳になる生涯現役ジャーナリストの、むのたけじ(武野武治)が、「そのうち岩波新書を1冊書く」という約束を、黒岩比佐子の聞き書きで果たしたものです。新聞記者として戦前から活躍し、戦時中は従軍もした経験があり、終戦とともに責任を感じて朝日新聞を退社。その後は郷里の秋田県横手市に住んで週刊新聞「たいまつ」を独力で発行しました。一貫して権威に頼らず、世を正すことを新聞記者の本分とした人です。
 戦前から戦後そして現代にいたる日本の現代史のすべてを見てきた視点には、独特の鋭さがあります。たとえば憲法9条について、「あれは軍国主義の日本に対する死刑判決だった。その一方で、世界人類の理想でもあった。」という2面性が本質だというのです。その本質を論じないで、戦争責任についても「天皇の命令だから仕方なかった」で誰も責任を感じなかった。そのいいかげんさが今も尾を引いて、危ない状況を作り出している、ということです。
 また、今のマスコミの状況については、上っ面だけを追いかけてもニュースにもならない。だからどうなのかを伝えなければ報道ではない、と辛辣です。さらに現在の世界について、資本主義だけになってしまっていいのか、という深刻な疑問を投げかけています。私は、この部分にいちばん興味がありました。ご本人が書いた「結び書き」の中には、「レーニンと毛沢東への判決」という、痛快な一文があります。
 「……振リ回シタ旗ニハ社会主義ト書イタガ、マッカナニセモノダッタ。現実ニハ富国強兵ノ国家主義、ソノ典型ダッタ。ニセ社会主義ガ本物ノ資本主義ニ負ケルノハ当然ダ。」と論断して、永眠を命じています。私もこれには同感です。
 共産主義・社会主義の典型例は、まだ地球上に存在していません。多くの失敗例があるだけです。しかし無視できない部分的な成功例があることも事実です。人間同士の助け合いと非暴力を実現しているという意味でなら、北欧の福祉国家やカナダなどは、社会主義の理想を、かなりの程度まで実現しているように見えます。根っからの社会主義者を自任するむのたけじに、意見を聞いてみたいものです。