孫崎享の「日本の国境問題〜尖閣・竹島・北方領土」(ちくま新書)を読みました。昨今の尖閣問題に対応したキワものではありません。昨年の5月に発行されており、一昨年の漁船衝突事件を踏まえて、この問題での菅政権の対応に深い憂慮を示しています。そしてその憂慮そのままの事態が現実になってきているのが現在であることが、よくわかります。
 国境紛争とは、やっかいなものです。かつて社会主義の「友邦」同士であった筈の中国とソ連も、1969年から、ウスリー河の中洲「珍宝島」の領有権をめぐって、正規軍同士が戦火を交える国境紛争を起こしました。長さ1700メートル幅500メートルの小島で、特段の価値のある島ではありません。しかしそれが「紛争地」として双方に意識されると、自国の権力闘争もからんで譲歩不能になるのです。紛争は中国が「核戦争も辞さず」と放送するまでにエスカレートし、国境画定の協定が結ばれるまでには22年間を要しました。
 尖閣諸島の問題は珍宝島とよく似ていると孫崎氏は言います。まず歴史経過として、尖閣が琉球王国の領土だった形跡はないのに対し、中国・台湾側には多くの歴史資料が存在します。日本は明治政府が1872年に琉球を領土に編入し、1895年に尖閣諸島をも「無主の島」として編入しました。これは国際法の「先占権」に当りますが、この時点から定住など占拠したわけではありません。一方、中国・台湾側には「先に発見して使用もしていた」との論拠があります。さらに日本の戦争と敗戦・降伏による領土放棄という事情がからみます。
 この領土問題を認識しながらも、大局的立場で尖閣問題は「棚上げする」ことで合意したのが日中の国交回復でした。これは日本にとっては非常に有利な合意でした。互に領有権の主張が対立するのを一時中止して、日本の実効支配を継続することとなったからです。さらに漁業権では、互に自国の漁船の行動について自主規制することで合意しました。
 ですから菅政権の「尖閣について領土問題は存在しない」との立場や、中国の漁船に対する規制を「日本の国内法」で直接に行った行為は、中国に「もう棚上げはやめる」決意をさせるのではないかと孫崎氏は憂慮したのです。そしてその後の事態は、まさにその憂慮の通りに展開しているように見えます。この本は、これまでの一年間に、もっとよく読まれるべきでした。

(お知らせ。明日より1泊2日で仕事に出ます。続編は車中でよく読んでから書きます。)