先月の老人党護憲プラスの例会(「自衛隊員はどこへ行くのか」の記事にしています)で講師になっていただいた小西誠氏の「ネタ本」だった本で、2006年の発行(社会批評社・1800円)です。当時から言われていた「日米同盟の深化」に伴う自衛隊の変質を、公開資料や「自衛官人権ホットライン」を通して入ってくる情報を駆使して、詳細かつ包括的に説明しています。
 当時進行中であった自衛隊の変容は、仕上げの段階に入りつつあるというのが現状でしょう。言うまでもなく冷戦時代までの自衛隊の仮想敵国は旧ソ連でした。北海道にソ連軍が上陸してくることを想定して、戦車や火砲を中心とする主力部隊を展開していました。海上自衛隊のP3C哨戒機も、ソ連の潜水艦隊をオホーツク海の中に封じ込めることを目的として、国防のためには不似合いなほど多くの機数を配備していました。
 この状況がソ連の崩壊によって緩和したのですが、アメリカにはその後「テロとの戦い」という新しい大義名分が登場し、アメリカによる一極支配を目指した世界戦略が推進されることになりました。これに合わせて唱えられたのが「日米同盟の深化」であり、自衛隊の再編成です。大局的に言えば北方から西南への備えの移動であり、仮想敵国をソ連から中国へと変更することでした。
 それと同時に重視されるようになったのが、対テロ・ゲリラに対応できるコマンドウ作戦です。敵国との従来型総力戦の可能性が低くなったのに対して、こちらの小規模機動作戦は、ますます現実味を増してきました。これを内部にいる自衛隊員から見ると、主力装備は削減され人員も減少する中で、ハイテクの兵器の使いこなしや、相手の見える近接戦の技術習得を要求されて、ストレスが強くなる傾向が避けられません。隊員の自殺率の高さは、一向に改善されません。
 著者は自身の体験を含めて、自衛隊の隊内では「憲法に保障されている基本的人権を感じることができない」と言います。身分は公務員であるにもかかわらず、「危険をかえりみず任務を遂行する」との宣誓における「賭命義務」が強調されて、上意下達の一方通行の体質が強固に固まっているというのです。自衛隊の中で内部告発のシステムを作っても機能する筈がないとして、第三者中立のオンブズマン制度の導入を説いています。
 ところでこの自衛隊の再編成で、日本の安全保障は強化されるのでしょうか。著者の結論は明快でした。軍備の充実で国が安全になることはありません。相手国もそれに対応してくるからです。話し合いのルールを作り軍備を削減することでしか隣国との関係は安全になりません。自衛隊は果たして、創立から解散までの全期間を通して一発も殺人のための発砲をしなかった軍隊として、栄光の歴史を全うすることができるでしょうか。