(熊さん)ゆうべはお孫さんの劇団の公演を見に行ってたんでしょ。なかなかいい劇だったそうじゃないですか。
(ご隠居)毎年夏休みの終りに公演があるんだが、今年は「見習い天使のオトシモノ」というミュージカル(園田英樹・作 甘楽考治・演出)だった。いちばん年下の孫の男の子も高校2年生だからね、おそらく最後の舞台だろう。主役じゃないがちょっといい役で、歌も歌ってたよ。幼稚園時代から入ってた劇団だが、それなりに楽しんでたようだから、いいんじゃないかな。もともとタレントを養成する劇団じゃないし、思ったより堅実というか、学校に近いような雰囲気だったと思うよ。
(熊)小学生のころに大河ドラマ「新撰組!」の剣道場で、稽古してる子供たちの中で「ヤァ、ヤァ」って打ち合ってましたっけね。で、今度の劇は、どんなんだったんですか。
(隠)筋立てがちょっと面白いんだ。若い戦場カメラマンが、弱った小鳥に気をとられて、うっかり地雷を踏んで死んでしまった。ところが天国に行く筈の魂が行方不明になって、見習い天使が探しに行かされる。若者には恋人がいて、クリスマスに会う約束をしてたから、死にきれなかったんだな。そこでみんなが振り回されるんだが、不登校で屋上から双眼鏡でみんなを見ていた生徒、これが孫の役なんだが、ヒントになることに気がついたりする。
(熊)ちょいとミステリー的で、いいじゃないですか。
(隠)若者の魂は、恋人の友だちの女の子の中に入ってしまったから、女だか男だかわからない変なことにもなる。しかし約束を守りたい真情から、最後はすべてを打ち明けて愛の告白をすると、そこで呪縛が解けて魂は本来の天国に行けることになるんだ。見習い天使もようやく合格になるんだが、魂が天国へ行けるのは、現世の人と別れるときでもあるんだね。
(熊)うーん、ハッピーエンドのようでも、ちょっとジーンと悲しいですね。
(隠)そこがいいんだよ。団員は幼稚園から高校生までいるから理解力には差があるだろうが、「いま」を生きることを大切にしようと大合唱してフィナーレになった。今年の演出は団員の発想を積極的に取り入れたそうで、子供たちは例年より生き生きしているように見えたね。孫の卒業公演としても、よかったと思った。
(熊)ご隠居夫婦のアイドルだったあの坊やが高校生か。
(隠)年寄りは年をとるわけだよ。大木晴子さんは「人は二度死ぬ」と思っているそうだ。一度目は体が死んだときに、二度目は人の心から消えたときに死ぬということだと思う。だから、いつまでも死なない方法はあるが、それを決めるのは本人じゃないんだな。わしはいつまで生きていられるかな。
(熊)とりあえず、おいらが生きてる間は大丈夫ですよ。