(熊さん)今年の漢字に選ばれたのが「安」の字だってね。これ、反対じゃないのって思った人が多いんじゃないですか。
(ご隠居)そうなんだよ。本当は「安心がほしい」んで、そう言いたいんだが、一文字にすると「安」になっちまうんだな。その証拠に、第2位が「爆」、第3位が「戦」だったそうだ。「爆」は爆買いのニュースからだろうが、もちろんテロの爆発も入ってるだろうさ。「戦」は、あちこちの戦争そのままだ。
(熊)不安を表すような一文字の漢字って、なかったんですかね。
(隠)そこなんだ。わしも考えてみたんだが、どうもしっくりしない。「崩、落、壊、滅、恐、怖、争、乱」なんて字もあるけど、広く全部を覆う「不安」を表す一字というのが思い浮かばないんだよ。
(熊)ご隠居がそれじゃ、難しいわけだ。
(隠)それで思ったんだが、安心というのは、とても大事なものだ。言わば生きていることの基本だよ。それが崩されるのは、やはりその否定の「不安」としか言いようがないのじゃないか。漢語としては「安危」というのがあって、「安」と「危」が対になってるけど、安全に対する危険ならわかるが、安心感に対する危機感というと、やはり説明が長くなって、しっくりこないんだよ。
(熊)ふーん、奥が深いね。
(隠)今の不安感というのは、とても規模が大きいような気がするんだ。曲りなりにも前方に希望をもって進んでいたつもりが、気がついたら、抜けてきたつもりの戦争という真っ黒な嵐の方向へ、乗っている大きな船が進路を変えてしまったという感じなんだよ。船長はそれでいいと本気で思っているらしい。だけど船員の幹部さえ、まさかそれはないと思ってる。まして乗客は、まだほとんどが何も知らずにいる、という状態だな。でも風向きも潮目も変った、この船長に任せておいたら危ない。
(熊)そう言や、「安」は安倍晋三の安と同じじゃないですか。
(隠)そうなんだ。「不安」を一文字にした字があれば、「不安倍晋三」と書かなくちゃいけないところだよ。みんなはどこまで知ってるんだろうか。そこそこ当面の景気が良けりゃいいやと思ってるとしたら、それが最大の不安の種だとわしは思ってる。
(熊)わかりましたよ。安心してられる場合じゃないって。
(隠)自分が乗っている船のことは、自分のこととして考えなくちゃいけないんだよ。自分だけじゃなくて、家族や子孫の幸せだって左右されるんだから。戦争に近づく船長は、早く解任するしかないんだ。